第173話 梅田地下街のイベントと野良ダンジョン・上
先達の作家さんにSNSで取り上げていただいたためか、ここの所結構読んでいただいてます。百万の感謝を!
新規で読んでいただいた方、よろしくお願いします
折角なので、急遽少しだけ更新します。
◆
三人の初顔合わせから二日後の昼。
梅田駅前の広場で魔討士協会のイベントが行われた。
円形で格子のような柱を持つ二つのビルに挟まれた、何となく谷の隙間を思わせるような広場だ。
少し向こうにはこの時期はちょっと寒々しい水場も見える。
広場には簡単な演壇が置かれていて僕等もその上に立たされた。
ついでに揃いのハッピみたいなのも着せられている。黄色の目立つハッピには魔討士協会のロゴと、いくつかの会社名が描かれていた。
快晴の広場には春の日差しが差し込んできている。東京より少し暖かいな。
見上げると高いガラス張りのビルが青空に向かって伸びていて、雲がガラスに映っていた。
壇上から見回すと、魔討士協会のロゴが付いたテントとかが並んでいる。
簡易的な素質の診断をするブースとか、活動のアピールの写真とかが並べられているのが見えた。
僕と斎会君、それに清里さんの等身大写真のパネルも置いてあって何となく気恥ずかしいぞ。
あとのカラフルなテントの前には、笑顔の清里さんの写真が飾られていて物販スペースみたいになっていた。
なにかのCMに出てるという話だったから、その会社のものかな。
「皆様ご存じの通り、梅田はダンジョンが発生しやすい場所となっています。
この原因を探るために魔討士協会として調査活動を行おうと思っています」
壇上で僕らの前に立っている木次谷さんが話すと周りから拍手が起きた。
結構人通りがある上に、いつの間にか白い石畳の広々とした丸い広場には200人くらいの人が詰めかけていた……想像していたより多いな。
壇の上から見ると実際より多く感じる。
「たしか3日前にも野良ダンジョンが現れて、たまたま居合わせた魔討士が対応しましたが、このような人が多い場所でダンジョン発生が頻発すると問題が大きいですからね」
そう言って勿体ぶるように木次谷さんが言葉を切って僕らの方を見る。
「そしてこの度、3月31日の調査が終わるまでの間、梅田の地下街を彼らが巡回します。
皆さまご存じ、次世代のエース。高校生乙類5位の3人です。
北海道の槍術無双、斎会将太君、それに代々木の活躍も記憶に新しいでしょう。風使い、片岡水貴君。
そして、地元大阪からは説明不要ですね。清里芳香さん」
木次谷さんが言うと、ひと際大きく周りから拍手と口笛が上がった。
清里さんが礼儀正しくお辞儀して控えめに手を振る。
「これで皆さん、安心してこの空間を楽しんでいただけると思います」
◆
その後は梅田の地下街に移動した。
この辺を巡回しろってことらしい。
派手なハッピはそのままだ。
周りの人眼を引いてるなーという感じはするけど、親し気に手を振ってくれたりとか、写真撮らせて下さーいと声が掛かって、割と遠慮なくカメラを向けられたりする。
この辺が関西の気安さなのかどうなのかは分からないけど、チラチラ見られるよりはなんか気楽だ。
「こういうことやるんだね」
「パトロールって感じかな」
梅田の地下街は兎にも角にも広い。新宿駅の地下街もダンジョン化して入れなくなるまでは複雑さで有名だったけど、こっちも相当だ。
あちこちに駅や百貨店との連結とか地上のへの出口がある……リアルダンジョンだな。
天井が少し東京の地下街より高い気がする。
そして、なんとなく雰囲気もにぎやかな感じだ。ガラス張りで百貨店の地下にそのまま通じているところも多いからかな。
見慣れた新宿とかよりも立派な感じで、地下街っぽくないな。
檜村さんも一応ついてきてくれている。
買い物好きだからなのか、興味深そうにきょろきょろと周りを見回しているのがちょっと珍しい。
「清里さん!頑張って!」
「ありがとうございます」
「応援しとるで。頼みますわ」
清里さんが穏やかに笑って会釈しつつ手を振る。
こうしてみてると文学少女って感じだな。確かに完ぺきな演技だ。
「よかったらこれ、食べてくださいな。うちの自慢のミニ豚まんですわ。片岡さん、斎会さん」
地下街の一角の大き目の赤い看板のお店から店員さんが駆け寄って、紙に包んだ小さめの肉まんを渡してくれた。
地下街は暖かいけど外はまだ少し寒かったし有難いな。
「ありがとうございます」
「肉まんと違いますで、豚まんですからな」
お店のロゴが付いた制服姿の男の人が念を押すように言って渡してくれたのは小さめの肉まんだ……豚まんと肉まんはなにが違うんだろう。
食べてみるとふんわりあったかくて、生地は食べ応えがある。
中の肉と玉葱かなにかは大きめに切られていて肉汁が熱い。口をやけどしそうだ。
「どうです?」
「美味しいです、ありがとうございます」
「この辺、ちょくちょくダンジョン出てくるし、商売の邪魔でホンマ困るんですわ。モンスターが出て暴れるとガラス割れたり商品棚壊ると商売あがったりですしな……なんで出来れば戦うときも控えめでお願いします」
店員の人がにっこり笑って店の方に戻っていった。
ダンジョン化した場所での戦いで周りのものが壊れることは結構ある。
補償は出るけど、壊れたものがすぐ直るわけでは無いし不便ではあるだろうな
周りを気を使いながら戦うことは……正直言ってあまりない、というかそんな余裕はない、というのが本音ではあるけど。
地下街を2周したあたりでポケットの中のスマホが震えた。
◆
『ダンジョン発生!』
『近隣の魔討士は援護に向かって下さい』
『ダンジョンの周囲にいる皆さんはダンジョンには近づかないでください!』
自分のスマホからメッセージが流れて、その直後に周りからも警告音が次々と響いた。
スマホの画面に梅田の地下街のマップが浮かんでいる……本当に出てくるとは思わなかった。
「場所、分かる?」
「勿論」
清里さんが頷く。
「頑張って!」
「よろしゅうたのみますわ!」
「サクッと片付けてお願いしますね」
周りから声が上がる。
清里さんが天井の案内板を一瞥して走り出した。
◆
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