第171話 三人目の乙類5位・下



「そういえば、僕の動きを読んでた?」

「そりゃーなー。見ての通りあたしはそんな体強くないからな、頭使わんと勝てへんわ。こう見えても成績もええんやで」


 清里さんが言う。

 風を使うことを意識して戦ってはいたけど、対面して戦っているならともかく、外から見て立ち回りをイメージできるのは結構すごい気がする。


「ああでも、さすがやと思ったわ。刀だけで戦っても多分勝てたやろ?で、二人は同じくらい強いんか?」

「一度試合をしたけど引き分けだった」

「風を使えない状態じゃあ参考にならないよ」


 斎会君が言ってくれる。


「そっか……ええなぁ。あたしはそんな体強くないんでな。

ホントならライバル同士、あんたらと道場でバチバチに試合とかもしたいんやけど、あたしはダンジョンの中限定や」


 本当にうらやましいって感じで清里さんが言う。

 さっきの握手したときの手は細いけど豆が出来ていていかにも乙類の手って感じだった。

 ただ……さっきの児玉さんと斬りあったら体格で負けてしまうだろうな。

 

 乙類の武器は身体能力を強化してくれる。だから女の人でも乙類は結構いる。

 中には風鞍さんみたいに素で強い人もいるけど、多分例外だろうな、と言う気はする。

 清里さんも見た目は細くて乙類にはあまり見えない


「ところで僕らはライバルなわけ?」

「あたしはアンタらはライバルだと思っとるで、そっちは思ってないんか?」

「その辺は……あんまり気にしたことなかった」


 向かい合って戦うときは負けてたまるかとか思うけど、順位を争うと言う意味でのライバル意識はあまりなかったな。

 1対1での戦いは純粋な力比べだけど、功績点を取ることに関しては巡り合わせも左右するし。

 宗片さんとの八王子攻略が無ければ今頃はまだ6位だった気がする。


「何ちゅーか、あれやなぁ、そういうのが東京モンのクールな感じなんか?

高校生の乙の4位は前人未到やで、其処に行けたら日本初、高校生一番乗りやで、気にならんの?俺が一番乗りしたるわーとか思わんの?」

「上に上がりたいとは思うけど、最初にっていうのは無いかな……それに5位に上がったの僕が一番最後だし」

「俺も協力してくれた皆のために4位には上がりたいが、一番と言うのはあまり意識して無いな」


 斎会君が言う。

 そもそも乙類5位の高校生の一番のりは清里さんだったはずだ。

 順番的には清里さんが一番有利な位置にいると思う。


「あたしは一番をめっちゃ意識しとるで。

だってなあ、二位なんて誰も覚えとらんやろ?日本一の山は富士山、これは誰でも知っとる、じゃあ日本で二番目の山はなんやって……それ北岳やろ、ちゅーのは定番やけどな。

でも去年のセンチネルリーグの打率二番目なんて覚えとらんわ。まあ難波ベンガルズの近岡なんやけどな。そんなんファンしか知らへんわ。

あ、でもあたしは難波ファンちゃうで。あたしは神戸ブルーラグーンのファンなんや。難波ファンがマジョリティの大阪であえて難波ファンを選ばへん、これが通ってもんやな」


 口をはさむ間もなく清里さんがしゃべる。


「まあ、そういうわけでな、あたしは一番になりたいっちゅーこっちゃ。あたしの名を世界に刻む!」


 文学少女然とした女の子なんだけど、喋りは絵にかいたような関西人だな……などと失礼なことを思ってしまった


「そういえば代々木じゃ大活躍やったなぁ、動画見たで。大したもんや」


 清里さんが感心したように言うけど……目が笑ってないぞ。


「ともあれや、誰が先に4位になるか競争や。なあミッキー、それにショータ。勿論勝つのはあたしやけんどな」

「僕の事?」

「ミズキとどっちがええ?でもミッキーだとどっかのマスコットみたいで微妙か?

ショータも含めあたしたちはライバルやけど同期やん。勝負はガチやけどそれ以外は別に堅苦しくなくてもええやろ。あたしのことはヨっちゃんって呼んでええよ」


 清里さんが言うけど……横を見ると檜村さんの視線が冷たい。

 視線に気づいたように清里さんがぽんと手をたたいた。


「ああ、心配せんといて、玄絵の姐さん。ミズキをとったりなんてせーへんよ。

お二人がラブラブなのは知っとるしな。そりゃ愛が無いと守れないし、信じて守られることもないもんな」

「いや……そういうのではなくてだね」


 あまりに直球すぎて檜村さんが言葉に詰まる。


「あたしはそれにもっと男っぽい奴が好みなんよ。ミズキよりショータの方が好みやな。どう、付き合ってみる?」


「すまないが俺にはもう心に決めた人がいるんだ」


 真面目腐った感じで斎会君が答える

 わざとらしく清里さんが肩をすくめて斎会君を睨んだ


「はー、なんやこいつ、リア充かいな。なんかムカつくわ。独り身、あたしだけかい」 


 清里さんが真面目なのかそうじゃないのか分からない口調で言う。

 これだけ外面と実態が違えばなかなか恋人も作れないのではないか、とは思ったけど、言うのは止めた


◆ 

   

「で、今回のこれって結局なんなんですかね?」


 清里さんに聞くけど、清里さんがわざとらしく顔をしかめた。


「敬語やめようや、ミズキ……調子狂うやん」

「ああ、分かったよ。で、今回のこれ、何か聞いてる?」


「さあなぁ、梅田ダンジョンの討伐らしいけど、あたしも詳しいことは聞いてへんのや」


 清里さんが言う。


「ていうか梅田にダンジョンはあるわけ?」

「梅田に定着ダンジョンは無いで。昔はあったらしいんやけど、京都の伊澄いすみ姐さんが討伐したそうやわ。その後は出てくる都度あたしたちが狩ってるんでな。

でも何度狩ってもしつこく現れるんや。なんか病根が奥にあるんちゃうかな、とかいう話にはなっとるわ。だからその討伐とか調査になるんかもな」


 そりゃそうか。

 梅田は大阪に来たことが無い僕でも知っている繁華街だ。こんなところに定着ダンジョンが出来たら、即討伐になるだろう。


 その後も同じように現れる理由は分からないけど、その辺の調査とか討伐をわざわざ僕らでやる必要はあるのか、という気はする。

 大阪なら上位の人もいるだろうし。


「俺達が来る必要はあったのか?」


 同じことを考えたっぽい斎会君が言うけど。


「まあほら、あたしたちは高校生エースやん?あたしらがなんかすれば話題になるっちゅーことやろ。

協会だってアピールは必要やしな」


 清里さんが言う。これについては木次谷さんも言ってたな。アピール活動の一環、という話だっけ。


「それに、あたしとしてはどういう形でも討伐点は欲しいわ。

このままじゃミズキに先越されそうやしな。あたしの方がまだポイント上のはずやし、ここは逃げ切らせてもらうで」


 茶化すように言って清里さんが僕を見る。

 ……また目が笑ってないな。



「ところで、東京でこんな団体のことを聞いたんだけど知ってる?」


 先日毒島さんから聞いた話をしてみるけど。


「俺は聞いたことが無いな」

「声かけられとるって話は聞いとるで。とはいうもんの、たいして効果ないらしいけどな」


 東京や大阪では活動してて北海道にはいないのか、それともたまたま聞かなかっただけののか。

 とはいっても僕もたまたま毒島さんから聞いたから知ってるけど、言われなければ多分知らなかっただろう。


「よくわからんけど、どうやら高校生には声がかかってなくて、対象は大人連中らしいで」

「なるほど」


 高校生には声が掛かっていないのか。

 いろんな意味で謎が多いというか、どういう団体なんだろう。


「児玉のにーちゃんも声かけられたって言ってたわ。気になるなら聞いてみたらどうや?」

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