第172話 ある団体についての情報

 その日はそのままお開きとなって取ってもらったホテルで一泊ってことになっ  

 晩御飯はそこらのファミレスで簡単に済ませた。


「おはようございます、片岡さん。今日は一日自分がご案内させていただきますんで」


 翌日は特に何もなしと言うことになった。イベントとしては明後日何かするらしい。

 そして、児玉さんが案内を買って出てくれた。

 

 檜村さんも僕も大阪は全く土地勘がないから有難い。

 11時ごろに江坂駅で待ち合わせて児玉さんと合流した。


「ところでどこに行くんです?」

「まずは腹ごしらえっつーことで、自分のおすすめのお好み焼き屋にご案内しますわ。やっぱ、大阪と言えば粉もんですよ」


 歩きながら児玉さんが答えてくれる


「片岡さんがあと一つ年とってはったら一緒に串カツにビールとかもええんですけどな」

「まだ昼ですよ」

「串カツ屋なら昼飲みもOKですわ」

「ていうか……飲んだことあるんですか?」


 確か高校卒業したてってはずだと思ったけど。


「まあそこらへんは固いこと言いっこなしっちゅーことで」

 

 そんなことを言いながら児玉さんが案内してくれたのはマンション街の一角にあるお好み焼き屋さんだった。

 コの字のカウンターが二つあるちょっと古びた店だけど、白い壁紙が清潔な感じだ。


 カウンターの中には60歳くらいのちょっと太めのマスターさんと同じ年位の女の人が居た。

 揃いの店の名前入りのTシャツを着てエプロンをつけている。


「おお、十四春やん。早いなあ」

「マスター、大事なお客さんなんや。上手いの焼いたっててや」


 児玉さんが店に入ってすぐにそんな感じで言葉を交わす。

 おすすめっていうだけあって顔見知りらしい。ずいぶんフランクだな


「大事なお客さんって誰やねん。ずいぶん奇麗なお姉さんに……そっちのボンは中々雰囲気あるなぁ」

「お二人とも魔討士なんや。この姐さんは4位の魔法使い。こっちの片岡さんは東京の高校生5位なんやで」

「5位ってことは、芳香ちゃんと同じかい。そりゃすごいわ。なら座って待っててや。江坂代表として美味いの食ってって貰わんと、地元の恥になってまうな」


 そう言って店主さんが店の奥に引っ込んでいった。

 奥さんらしき女の人がお水を出してくれる。暫くして奥からお好み焼きが焼ける音とソースの香ばしいにおいが漂ってきた。


「自分で焼くんじゃないんですか?」


 なんとなくお好み焼きは各テーブルに鉄板があって自分で焼くイメージがある。


「何言うてはりますの、ステーキを自分で焼かせる店なんてありませんやろ。店主が自信もって焼いてくれるんが大阪流ですわ」

「お待ちどうさん」


 そんな話をしているうちにテーブルに丸い鉄板が何枚か並べられた。

 マヨネーズの白いラインを引かれたお好み焼きが2皿と、大きめに切ったキャベツが載せられた焼きそばだ。赤い紅ショウガが目を引く。


「さあさあ、遠慮なくどうぞ」


 鉄のへらを使って児玉さんが手際よく切って取り分けてくれる。

 サクサクの皮に歯ごたえのある大量のキャベツと甘い豚肉が何とも言えずいい味だ。

 一枚は唐辛子が入っているのか辛いけど、ソースの甘みと混ざって美味しい。

 ソースの香りは魔力があるな。


 太めの焼きそばも食べ応えがある。

 こっちはソースじゃなくてポン酢と大根おろしがかかったさっぱり風味だ。

 

「いけますやろ。お代わりが必要なら言うたってください」


 児玉さんがちょっと自慢気に言った。



 一通り食事も終わった。おすすめと言うだけあって確かに美味しかったな。

 濃厚なソースとマヨネーズの味が残ってるから冷やしたウーロン茶が爽やかでいい。


「如何でした?」

「ああ、美味しかったです」

「これが本場の味なんだね……ただまあ、ちょっと恥ずかしいね」


 檜村さんも満足そうに言って、口の周りを念入りにペーパータオルでぬぐう。


「そういえば、児玉さん。こういう団体って聞いたことあります?」

「ああ、あいつらなぁ。卒業が確定したときに声をかけて来たわ。つい先週ですわ」


 児玉さんがコーラを飲みながら答えてくれる。


「なんや色々言うとったけど、要は高校生とかを戦わせてるのが気に入らんみたいでしたわ。

自分も片岡さんも多分自分の意思で戦ってるんやから別にええやろ、と思うんですけど」


 児玉さんが言う。

 魔討士はなんだかんだで危ない目に合うこともある。

 そして、自分の意思で戦わないなら、危険な状態になった時に踏みとどまれないと思う。


 師匠がよく言うことだけど、どんな優れた技も強力な武器も能力も、結局は使う者次第。使い手次第ではその能力は生かしきれない。

 そして、むりやり戦わされているような人は、多分そう言う強い気持ちを持つことは出来ないだろう。


 金のためでも、友達のためでも、自分が目立つためでも、家族のためでも、なんでもいいんだけど。

 そういう何かのために自分で選ばないと、戦うことは出来ないと思う。


「ただなぁ、あの団体、なんやしらんけど、魔素フロギストンの研究者がおるらしくて、あっちに移籍したら能力の強化をしてくれるっちゅーんですよね。なんですこしグラっと来ましたわ。

俺の長巻は片岡さんのみたくすごい能力とかあらへんので」


 児玉さんが言って、慌てたように手を振った。


「いや、誤解せんでください、片岡さんが武器頼りで戦っとるって言いたいわけじゃありません。

ただ、やっぱりなんちゅうか、清里ちゃんとか見てても、武器の性能差っていうのを感じるんですわ。

自分の長巻、敵を切りに行くのがまず大変ですし、飛び道具持ちの魔獣の相手はしんどいんですわ」


 これは同じようなことを三田ケ谷も言っていたな。


 魔素フロギストンの研究が少しづつ進んでいるって言うのは聞いている。

 ダンジョンとは何なのか。魔獣とはなんなのか。

 そして彼らをどうやって倒すのか。ダンジョンの発生を止められるのか。

 とはいえ、異世界というか別世界の物質の研究なんだからなかなか進んでいないようだけど。


 今のところ最優先になっているのが魔討士以外でも魔獣を倒せる武器の開発らしい。

 魔素フロギストンで体を構成している魔獣には普通の銃や武器は殆ど効果がない。

 だから、現状ではダンジョン討伐は素質を持つ魔討士だよりになっている。


 銃や剣のように誰でも使える武器で魔獣に対抗できるようになれば、ダンジョン討伐の状況も随分変わるだろう、とは思う。


「とはいえ、まあアレですわ。

乙の二位の風鞍さん、あの方も特に特殊な効果の無い武器らしいですからなぁ。自分ももう少し頑張ってみようと思っとります」

 


 檜村さんが化粧を直すと言って席を外した

 児玉さんに手招きされて先に店を出る。

 

「じゃあここでお邪魔蟲は消えますわ。檜村さんとごゆっくり。

ちょっと遠いですけどあべのの展望台とか梅田もショッピングにはええですよ。あと、おすすめは通天閣周辺ですわ。結構綺麗になりました」


 出たところで児玉さんが会釈をして言う。気を利かせてくれているらしい。


「ところで片岡さん。檜村さんをええところに誘うんなら、オシャレなレストランとかも紹介しますけど、どうします?

隠れ家風のちんまりしたとこからちょい高級なとこまで色々ありますけど」


 児玉さんが肩を組んでひそひそ話するような感じで言う。


「……手慣れてますね」

「そら、魔討士やってりゃモテますからなぁ、やっぱ男は強いとモテますわ。ついでにデート代も稼げて一石二鳥ですわ」


 児玉さんが屈託なく笑いながら言う。

 身長高くてガタイは良いし、喋りは上手いし人当たりもいいし、顔もいい。

 つーか僕より一つ上らしいけど実年齢より上に見える。

 この人はモテるだろうなーと言う気がする。男の目から見ても。


「片岡さんもめっちゃモテるでしょ」

「……いや、あんまり」


 ……フェンウェイさんに結婚を迫られたときくらいだろうか

 それに、あの時のことを思い出すと、自分で言うのもなんだけどそういう状況に上手く適応できる気がしない。


「そっか、檜村さんつーか丙類4位とのカップルは有名やもんな。

それに5位まで上がってまうと逆に声かけにくいんかな……日本屈指やもんな。ドラ1候補の大阪帝琳のエースみたいなもんか」


 なにやら納得したような口調で児玉さんが言う。


「今日はありがとうございます」

「いえいえ。ほな、また明日」


 手を軽く振って、児玉さんが足早に去っていった。

 明日は梅田でセレモニーをするらしい……どんなふうになるんだろうか。



 連投は一旦ここまで。

 プロットは大体できてますので、続きは少しお待ちください。


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