第170話 三人目の乙類5位・上

 試合が終わって、魔討士協会の人から控室のようなところに通された。

 ここも重厚なテーブルと水墨画が飾ってあって、どことなく和風な雰囲気が漂っている。

 

 控室にはもう斎会君がいた。

 休日でプライベートなはずなのに今日も学ラン姿だ。私服でこればいいと思うんだけど。


 そして、前と同じように槍が壁に立てかけてあった……あれは北海道から持ってきたんだろうか。

 挨拶しようとしたところでドアが開いて檜村さんも入ってきた。

 振り返った斎会君が礼儀正しく一礼してくれる

 

「久しぶりだね。片岡君。それに檜村さん」

「こちらこそ、久しぶり」

 

 学生服越しにも分かるけど、前よりも少しガタイが良くなった気がする。


「あの一騎打ちの動画を見たよ。見事だったね。風使いの本領はああなんだな。

それに檜村さんもすごい魔法でした。さすが4位です」

「ありがとう」

 

 そういえば斎会君とは学校で一緒に戦ったけど、近くでは戦っていない。

 だから僕の戦い方も直接は見られてないし、彼のダンジョンで戦う姿も直接は見ていない。


 斎会君の戦い方は北海道の魔討士協会が動画を配信してくれているから見たことがある。 

 彼の槍は特殊な能力は無いようだけど、シンプルに破壊力がある武器らしい。

 狭い場所でも長い自在に槍を操っていて、槍をほとんど使ったことが無い僕でも技術の高さは分かった。

 

「ところで……一つ聞いていいかい」

「いいけど、何?」


「あの子はやはり、その先日の君の学校で一緒に戦った彼らの仲間とかなんだろう?

あのシューフェンとかいう彼ら」


 斎会君がちょっと声を潜めて聞いてくる。

 此処で声を潜めても意味は無い気もするけど、気分の問題か。


 シューフェン達を見たことが無い人には、そんなのあり得ないだろ、で通るんだけど。

 彼らを見たことがあるからほぼ確信を持って聞いてきてるんだろう。

 

「そうだよ。まあ色々とあってこっちに来てたんだ。もう帰ったけど」

「そうか……やはりそうなんだな」


 納得したように斎会君が言う。やっぱりこの話題は避けられないか。

 北海道でも噂になっているってことだろうか。


「一応言っておくけど、口外しちゃだめだよ」

「勿論分かっているとも。というか信用してもらえないよ」


 斎会君が苦笑いしながら言う。

 まあ確かにそうかもしれない。実は彼女は兎耳の獣人なんです、と言ったとして、それはそれで全然信用されない気がするな。

 

 そんなことを話しているうちにドアのあく音がする。

 振り向くと清里さんが入ってきた。魔討士協会の職員さんと何か言葉を交わしてドアを閉めた。


「改めて初めまして、清里さん」

「初めまして」


 斎会君と挨拶が被るけど、清里さんがそれを手で制した。


「あー、そう言う硬い挨拶無しでええわ……あたしらタメやん?ほら握手、握手」


 そう言いながら清里さんが手を差し出してくる。

 思わずこっちも手を出すと強く握手された。


「あたしが清里芳香や。よろしくな」



「会えてうれしいで、片岡水貴、それに斎会翔太。やっぱ順位を争うライバルとは直接会っておかんとな。

それに檜村の姐さんも初めまして。今後とも宜しくお願いしますわ」


 なんかさっきとは口調が変わって……こういう言い方はアレだけど、テレビで良く見るような大阪弁になった。

 こっちの違和感を察したように清郷さんがニッっと笑う。


「イメージと違うって言いたいんやろ?」

「ああ、まあ」


 斎会君が僕の方に視線をやりながら言う。僕も同じことを言いたい。


「まあ、せやろな、でもしゃーないわ。気にせんといてや」


 なんか自分で納得したって感じで清里さんが頷いた。


「つーか……こっちが本性なわけ?」

「どっちも嘘ってわけじゃないけどな……どっちかというとこっちが本性かもな。自分でも分からんな。

でも、考えてみいや。お淑やかなお嬢様がモンスターと命がけで殴り合いなんてできるかい」


 清里さんが言う。

 まあ言われてみれば確かにそうかもしれない。


 いい悪いは別として、接近して武器で戦う時には闘争心……ある種の野蛮さとか荒々しさは必要だ。

 強い敵とか不利な状況で下がらずに踏みとどまるためには、強い気持ちとか闘争心がなくてはいけない。

 師匠や斎会君みたいな分かりやすい人じゃなくて、宗片さんのような飄々とした感じの人でも内に秘めたそういう感情は感じ取れる。


「あたしは関西ローカルやけどCMにも出てるねん。

こんなナリやからなぁ、対外的にはおしとやかで知的な文学少女っていうイメージにしておく方がウケがええんよ。ハンマーと美少女っていう取り合わせのギャップもええやろ」

「なるほど……」 


 ……自分で美少女とか言うのかい。


「昔は女の子らしくせいや、とか言われて色々と窮屈やったけどな、今となってはお得やで。身に付いたこの演技は完璧や。お陰で色々はかどるわ。

今まで見破られたことは無いで。魔討士協会は流石に知っとるけどな

つーことで、あたしのこのキャラは口外しちゃアカンで。ええな?」

「口外するなというのはいいんだが……俺達に言っていいのか?」


 斎会君がちょっと困惑した感じで礼儀正しく聞く。

 初対面だから当然ではあるけど、よく信用できるな


「どうせあたしらイベントで一緒に戦うんやろ。そんときには素が出るんやから、あんたらに隠す意味無いわ。

野良ダンジョンで戦うときは大変なんやで。うっかりすると、さっさとぶっちらばれや、とか言いそうになるんでな」


 あっけらかんとした口調で清里さんが言う。

 見た目の予想とは違うんだけど……なかなか色々と面白そうな人だ。

 戦闘してるところの動画が無いのはまさかこのせいじゃないだろうな


 

 大阪弁は結構適当です。

 明らかにおかしい所は突っ込んでください。直します。

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