第168話 大阪遠征
翌日。
朝一番で魔討士アプリの方に、ライフコアを受付に提出したという通知が来た。
毒島さんが行ってくれたんだろう。マメな人だな。
ちょっと気になったからついでに昨日の団体とやらについて伊勢田さんに聞くことにした。
あの人が一番顔が広そうだし、知っているかもしれない。
電話はすぐにつながった。
「ああ、知ってるよ。広報担当としてその団体に移籍しないかってね。魔討士協会とは関係ないらしい。
どうやら、主に能力を使ってない……資格持ちだけど活動をあまりしてない奴を勧誘しているようだよ」
挨拶の後に聞いてみたらあっさりと答えが返ってきた。
結構あっちこっちに声をかけているんだろうか。
「どうしたんです?」
「断った」
これまたあっさりとした答えだ。
「なんでなんですか?」
「前にもいったかもしれないが、俺にとって一番大事なのがダンジョンで戦う奴が増えること、そして一人でも犠牲が減る事だ。
今ある組織をひっかきまわして海の者とも山の者ともわからない新しい団体を作ることがそれに役に立つとは思えない」
伊勢田さんが言う。この人はこの辺はブレないな。
「協会は何もしないんですかね」
「意図は分からないが……魔討士協会としてもそう言う動きを禁止するわけにもいかないってことだろう」
伊勢田さんが答えてくれた。
まあ確かに禁止するなんてことはできないか。しかし何を考えているんだろう。
「君も声を掛けられたのかい?俺としては君には移籍してほしくないが」
「いえ、僕は声を掛けられてないですよ。そう言う話を聞いたってことです」
「そうか。なら良かったよ」
伊勢田さんが電話越しに少し安心した感じで言う。
結局の所、よく分からないな
◆
その数日後。
久しぶりに木次谷さんから連絡があった。あの祝賀会以来だな。
「片岡君、差し支えなければ春休みに大阪に行ってもらえませんか?」
「なんでです?」
大阪に行ってほしい、と言うのは随分唐突な話だ。
春休みは短いからあまりやることもなくて暇な時期だから、進路の事でも考えようかと思っていたんだけど。
「魔討士協会のイベントを企画しているんです。高校生5位が梅田ダンジョンに挑む、という感じのものです。
大阪の乙類5位の
「ああ、そういうことですか」
斎会君と学園祭で試合をしたのもずいぶん前な気がするな。
久しぶりに会えるならいいかもしれない。
「この間色々ありましたからね。
まあ、とはいうもののガチンコの攻略というわけではなく、イメージアップの一巻という感じですが。どうでしょうか」
あの代々木の戦いが上手くいったのか、それとも対応は悪かったのか……その判断は僕にはできない。
あの場で戦った人は精一杯力を尽くして、その結果救えた人もいる。
でも犠牲者が出たのも確かなわけで。
そのことは魔討士、そして魔討士協会の不手際って感じで結構非難された。
だからこういうイベントをやろうとしているのかな。
春休みは大阪旅行というのもいいかもしれない。
それにもう一人の乙類5位、清里さんにも会ってみたい。
「檜村さんも一緒とかはいいですか?」
「ええ、勿論。丙4位の魔法使いと高校生5位の組み合わせはすっかり知名度が高くなりましたからね。
むしろ一緒に行ってもらえるほうがピーアールになっていい」
木次谷さんが言う。まあそう言う事ならいいか。
仙台の時みたいなシビアなダンジョン攻略って感じでもなさそうだし。
「良いですよ。じゃあ檜村さんにも伝えておきます」
「感謝します。片岡君。ではチケットは此方で手配しますので」
そう言って電話が切れた。
檜村さんに連絡をしたらあっさりとOKが出た。
◆
出発の日は3月25日になった。
東京駅で待ち合わせたら、時間通りに檜村さんが来てくれた。相変わらず時間には正確だ。
「やあ、片岡君」
普段はワンピース姿が多いけど、今日は珍しく細い黒のパンツ姿で白のシャツの上に黒の長めのピーコートを羽織っていた。
襟もとには花をモチーフにしたピンバッジが付いていて、手には革のちょっとレトロな感じのトランクを持っている。
何となく今日は普段よりシックで大人っぽいいでたちだ。
「今回はありがとうございます」
「君から誘ってくれるとは……うん、嬉しいよ」
そう言って檜村さんが寄り添って手を触れさせてくる。
手をつなぎたいってことだろうな。
一瞬周囲の目が気になったけど、周りは今から新幹線に乗ろうというカップルとか家族連れでいっぱいだ。
僕等を気にする人なんていないか。
手をつなぐと檜村さんが握り返してきて、僕の方を見て嬉しそうに笑った。
◆
3時間もかからず、新幹線が大阪に着いた。
手配してくれたチケットはグリーン車だったから快適だった。
実は大阪に来るのは初めてだったりする。
広々とした駅を行きかう人の多さは東京と同じだけど、なんというか空気が違う感じがする。
周りから聞こえてくる関西弁のせいかな。
「で、これからどうするんだい?」
「江坂ってところにある、関西魔討士協会の施設に顔を出してほしいそうです」
大阪の地理はさっぱり分からないけど新大阪からは大して離れてはいないっぽい。
地下鉄で一本だな。
◆
地図アプリを頼りに江坂駅から少し歩いた川沿いに立派な建物が立っていた。
白い壁の二階建ての建物で和風の瓦葺の建物だ。
グラウンドとかは無いから魔討士以外も入れた代々木の施設とは違って、基本的には魔討士だけの施設っぽいな。
「ようこそ、片岡さん、それに檜村さん。長旅お疲れ様でした」
入ると受付には40歳くらいの男の人が出迎えてくれた。
「もうじき斎会将太さんもお着きになるそうですわ。
しばらく中の見物でもして行ってください。代々木の訓練施設ほどじゃないですけど、ここもなかなかのもんなんですよ」
「少し見てきていいかな?魔法使いについては関西の訓練施設の方がいいらしいんだよ。なんせ京都は日本の陰陽道や修験道の本場だからね」
檜村さんが言う。
そう言う話は聞いたことあるな。魔法使い系統の訓練は西日本の方がいいらしい。
丙類の最上位、日本最強の魔法使いは京都にいるはずだ。
「わかりました。じゃあ僕は道場の方に行ってます。また後で」
◆
壁に貼ってある案内を見るまでもなく、聞こえてくる気合の声と武器がぶつかり合う音と畳を踏む音、聞きなれた音の方に行くと、道場の場所はすぐ分かった。
道場は代々木の施設よりも少し手狭だけど、真新しい畳が敷き詰められていて、壁には板が貼られている。
立派な神棚と、額に入れられた大きな書が飾られていた。
代々木とかの体育館って感じの無機質さを感じる空間より、何と言うか道場っぽい感じだ。
畳の上では何人かが試合をしていたり、師範っぽい人に指導を受けたりしている。
気合の声とかが響いていて、活気がある感じだ。
関西の魔討士は優秀な魔法使いも多いんだけど、古流の流れを汲む乙類も多いらしい。
そういえば師匠も一度関西に方に引き抜かれるかもっていう話があったな
そんなことを考えていたところで。
「あんたが片岡さん?」
不意に上の方から声が降ってきた。
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