第163話 帰郷の日の出来事・下

 周りにいた魔討士協会の職員さんとかが固まった

 またも公開プロポーズか……これはソルヴェリアの習慣か何かなんだろうか。

 フォルレアさんがトゥリイさんの前で跪いてトゥリイさんの手を取った。

 答えを待つようにフォルレアさんがトゥリィさんを見上げる。


「あの……はい、ぜひ」


 トゥリィさんがちょっと恥ずかしそうに頷いた。

 まあこのシチュエーションで断れる人はあまりいない気もするな……それも計算づくなのかどうなのか。

 フォルレアさんが立ち上がって一礼すると、トゥリイさんを抱き寄せた。


「良し、ではこの婚儀はこれで成立と見做す。後日正式な祝言を上げよう。

此処にいる諸兄よ、この婚儀に異論はありや?あるならばこの場で述べよ」


 芝居がかった口調でシューフェンが周りの職員の人たちに言う。

 職員の人達が顔を見合わせる。そりゃ誰も何も言わないよな。


「もし異論無くば、今日のこの目出度き誓いの証人となってもらいたい。そして彼らの行く末が良きものとなるように祈ってもらいたい。

諸兄等の祈りの数だけ、彼らの行く末にも慶事があるであろう」


 シューフェンが言って周りに向けて手を広げた。

 こういう場合はソルヴェリアではどうするんだろうか。隣では檜村さんが小さく拍手していた。


「そしてトゥリイ。帰国次第、お前には我が白狼左衛に加わってもらうことになる。

いずれは道術師の師団を作ることも考えている。その能力を発揮してもらうぞ」


 シューフェンが言って、幸せそうなトゥリイさんが固まった。

 ……やっぱりそうなるのか。そりゃそうだよな。というか、そのためにここにいたわけだし。

 とはいえ動きは良くなったけど……でも性格的には戦闘に向いたタイプではないとは思う


「でも、女の務めは……旦那様のために家を守る事ではないかと思うのですが」

「何を言っている、后種フョンシューを倒せる道術師がただ家で夫の帰りをなど到底認められん」

 

 シューフェンが冷たく言う。

 何か言いたげなトゥリイさんの手をフォルレアさんが取った。


「トゥリイ、我が妻よ。

私は常にあなたとともに居たい。私が戦場にいるときは貴方に逢えない、それは私にとって耐えがたいことです。

いかなる戦場のいかなる危険からも私がお守りします。貴方には私の一番傍に居てほしい」


 手を取ったままフォルレアさんが言う。

 なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなるんだけど……ソルヴェリアの人は結構情熱的な国民性なんだろうか。

 

「あ……はい……よろしくお願いいたします」


 トゥリイさんが頬を真っ赤に染めて言う。

 なんか勢いで丸め込まれてる気もするけど……まあ男の目から見てもイケメンな相手からあんな風に言われれば、そりゃああなるかもしれない 


「ソルヴェリアの人は皆あんな風に告白するの?」


 満足げに、というか計画通りって感じで二人を眺めているシューフェンに聞いてみるけど。 


「より多くの者に祝われることが、婚儀の後に吉事を呼び込むと我らは考えている。よって皆の前で思いを告げる者は多いな。その場にいる皆がそれを寿ぐのだ」


 シューフェンが答えてくれた。なるほどそういう理由があるらしい。


「とはいえ、全員が全員ああするわけではない。

告げられるのを静かに待つものもいるし、人前を好まぬものも無論いる」


 そりゃそうか、というか、みんながみんなあんなノリだったらちょっと引いてしまうぞ。

 グイユウとかはあんな感じでフェンウェイさんに告白してそうではあるけど。


「しかし愛を告げることは恥ずべきことではあるまい。

想い人がいるならば真摯に愛を告げればよい。そして受けるにせよ拒むにせよ、真摯に応じるのが礼節と言うものだ」


 シューフェンが言う。


大風老師ダイフォンラオシィ様、老子せんせい、ありがとうございました」


 トゥリイさんがフォルレアさんに寄り添いながら一礼してくれた。

 あまりの急展開になんかこれでいいのかって気もするけど……表情を見た感じ嬉しそうだからいいのかな。


「こちらこそ」

「元気で、トゥリイ」


 彼女が来なければあの木のダンジョンマスターを倒せたかは分からない。

 僕等も助けられたな。


「助力に感謝する。この恩は忘れんぞ」

大風老師ダイフォンラオシィ様、其れに道士殿。武名轟く御両名にお会いできて光栄でした」


 シューフェンとフォルレアさんが言う。

 三人が魔討士協会の人と一緒に出て行こうとしたところで、トゥリィさんがこっちを振り返った。


「ところで……あの、お二人はまだ婚儀は上げられないのですか?」



 会議室からシューフェン達と木次谷さんが出て行った。

 二人で取り残されるけど、微妙に気まずいぞ。教室でルーファさんに迫れられていた三田ケ谷の気持ちが実感を持って理解できた。

 トゥリィさんに悪気はないんだろうし、シューフェンも15歳で結婚したとか言ってたし、そう言う文化なんだろうけど。


「なあ、片岡君」


 長い沈黙のあとに、檜村さんが口を開いた。


「まあ勿論……婚儀とかはまだだが、君もあんな風に言ってくれていいんだぞ」


 ちょっと上気した檜村さんの顔が間近に近づいた。

 

「私は君が好きだよ……片岡君」


 檜村さんが言うけど……なんかだんだん大胆になってきてないだろうか。

 それともあの雰囲気に当てられたんだろうか。



 これで本章は終わりです。セス視点の幕間を一つ書く予定。


 ちなみに、設定マニアの余談。トゥリイの詠唱ですが。

 

「【方位角庚・八卦艮漆・天冽太衝・唵響万里・算命教我・好运来了】」


 最初のフレーズは方位、二つ目は八卦と数字。最後の二フレーズは定型文です。

 方位はかのえ、卦は艮の七、天命曰く、我らに吉利あり、位のニュアンスです。


 あと、160話でカタリーナが片岡君に言わせたのは


  Eres realmente hermosa ,Estimado Catalina

 

 意味は「本当にきれいだよ、愛しいカタリーナ」です。

 片岡君は当然意味は分かってないですけどね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る