代々木訓練施設、防衛線

第129話 2年生3学期の始まり。

 色々あった冬休みも終わり、新学期が始まって久しぶりの登校になった。

 あのアラクネとの戦いで壊れた校舎も復旧して久しぶりの我が校だ。綺麗に改装された廊下や教室から真新しい建物の匂いがする。


 この間色々ありすぎてどういう風に接されるかと思ったけど。

 大変だったなって何人かから心配されたくらいで、あとは特に何事もなく普段通りってかんじだった。

 みんないいやつだなーと思う。大人というべきか。


「なあ、片岡」


 席についたら珍しく三田ヶ谷が一人で声をかけてきた。

 普段はいつもルーファさんと一緒なんだけど。


「久しぶり。新年おめでとう」

「いや、それはいいんだけどよ……」


 三田ヶ谷が周りを見回しながら言う。


「どうした?」

「お前、檜村さんとどこまでいった?……クリスマスとか」


 三田ヶ谷が小声で聞いてきた

 ……言わんとしていることは分かるけど、それは新学期の朝からする話なんだろうか。


「……知っての通りクリスマスも仙台で戦っていて、その後はテレビでさらし者にされていたんだけど」


 とはいいつつ、先日のキスを思い出す。

 電話では連絡を取り合っているけど、なんというかあれはあれで気恥ずかしくて新年になってから会っていない。


「キス位したか?」

「まあ、そのくらいは」


 そういうと三田ヶ谷が大きくため息をついた。


「そうだよなぁ」

「してないの?」


 ルーファさんと三田ケ谷は四六時中一緒にいるイメージだから、とっくにすることはしてると思ってたけど。

 キスさえしてないというのは意外だ。


「いやね、そういう雰囲気になるときはあるんだよ。でも許してくれないんだよなぁ」

「そうなんだ」


「戦士の仕来りってことらしいんだよな。正式に婚儀を結ぶまではってことらしい」


 三田ケ谷が苦悩したって感じで言う。


「て言ってもよぉ……結婚なんてまだ先だよな」


 一応法律的には18歳でも結婚は出来る。

 とは言っても、高校生的には結婚するなんていうのは正直いって全然イメージがわかない。 


「いや、勘違いすんなよ。俺はルーファが好きでさ、まあ許してもらえなくてもよ、そのことは全く変わりはねぇんだ。

だけど分かるだろ、お前なら。男同士、この気持ちが」


 三田ヶ谷が小声だけど妙に力強く力説する。


「まあ、分かる」


 まあ僕にもそんな気持ちが無いわけじゃない。とは言っても年上であるという以上に、大学生と高校生の間には年齢以上に壁を感じてしまう。

 三田ケ谷が深刻そうにため息をついたところで。


「決して裏切らないでいてくださいますか?」


 不意に横から声が掛かった。弾かれたように三田ケ谷がそっちを向く。

 いつの間にかルーファさんが立っていた。



「いや……聞いてくれ。ルーファ」


 三田ケ谷が慌てたように言うけど。


「少し聞いていただけますか、ミタカヤ様」


 ルーファさんが三田ケ谷を制するように言って三田ケ谷が黙った。


「あの……私も、そう言う気持ちが無いわけではないのです」


 ルーファさんがまっすぐ三田ケ谷を見つめて言う。

 三田ケ谷がぱっと嬉しそうな表情を浮かべた。


「とはいえ、戦士の仕来りというものもあります」


 そう言うと三田ケ谷が落ち込んだように俯いた。


「そして考えたのですが。

そもそも、この禁忌については戦士同士以外でつがいにならないように設けられたものであると思うのです。

戦士は戦士同士で契りを結び、その能力を子に伝える義務があります。間違いがあってはいけません」


 ルーファさんが言う。

 前にもそんなこと言ってたな。


「ミタカヤ様は立派な戦士です。そして、私はミタカヤ様以外と契りを結ぶつもりはありません」

「うん……それで?」


「ミタカヤ様も私と同じ思いであるなら、この禁忌はもはや意味を成しません。つまり、早いか遅いかの問題に過ぎませんから。

本来は長老にお伺いを立てるべきですが、その長老にお会いする機会ももうありません」


 ルーファさんが言うけど……なんか部族のおきてを都合よく解釈してないか?

 なんとなくただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、ざわついていた教室が静まり返って、皆がこっちを見ている。


「つまり、あの、ミタカヤ様が心変わりしないと誓って下さるなら……」

「勿論さ」


 三田ケ谷が躊躇なく言い返す。

 聞いたところによるとこの付き合いは親公認で、三田ケ谷の親御さんとルーファさんはもう何度も顔を合わせているらしい。


「それでは」


 ルーファさんが背伸びして三田ヶ谷の首に手を絡めた。そのまま唇を触れさせる。


「今は此処までで」


 そう言ってルーファさんが恥ずかしそうに顔を隠す……まさかここでするとは。

 横では三田ヶ谷が名残惜しそうに唇に触れている。

 周りからどよめきと口笛と歓声と拍手が響いた。


「おいおい!なんだよそれ!」

「三田ケ谷、ふざけんな!そこから飛び降りろ!!」

「ルーファちゃん!大胆すぎ!」

「リア充を許すな!クソ!」

「つーか、今までキスもしてなかったんかい」


 なんというか青春って感じだ……僕も同じ年ではあるんだけど。


「おい!三田ヶ谷ぁ、それにサナルーファ」


 突然怒ったような声が聞こえて教室が静まり返った。

 ドアの方を見ると、担任の沢木先生が立っていた。口うるさい生徒指導担当でもある。時計を見ると、始業にはまだ3分ほど早い時間だ。

 何で早く来たのか分からないけど……まずい人に見られたな。


「新学期早々に教室で不純異性交遊とはいい度胸だな」

「これは戦士同士の契りの一つです。なにも疚しいことはありません」


 ルーファさんが真剣な口調で言い返す

 疚しいことはないのか……ルーファさん的には、キスするのはダメだけけど、人前でするのはいいんだろうか?

 この辺の感覚はよくわからん。


「戦士の契りだか魔討士の仕来りだかしらんが、そういう問題じゃない、二人とも職員室に来い、今すぐだ」


 そう言って沢木先生が教室を出ていく。

 ルーファさんは不満そうだけど、三田ヶ谷は横で幸せそうな顔をしていた。


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