第123話 9日目・魔討士協会の役割・上
「結果が良ければいいというんでしょうか。私達市民の暴力を振ったことは赦されることはありません」
「そうです。私たちを暴力で黙らせようなんてとんでもないことです。ですが、私たちは黙らない。声を上げ続けます」
「魔討士協会にも再発防止のための対策を求めます!」
北林と勝田がワイドショーのスタジオで大袈裟な口調で話しているのがテレビに映っていた。
せっかくダンジョンの攻略が終わったっていうのに、その後はホテルで缶詰めにされて、テレビを付ければ北林が嘘を並べているのを見る羽目になっている。
さすがに腹が立ってきたけど……これは刀で切れば問題解決ってわけにはいかないのが面倒だ。
おかげで宮城野ダンジョン攻略のセレモニーも延期になってるし、父さんや母さん、絵麻や朱音、伊勢田さんに三田ケ谷とかから頻繁に心配のメッセージが来る。
檜村さんから音沙汰がないのが何となく別の意味で不安なんだけど。
イライラがさすがに頂点に達しそうになった2日目の昼、伊達さんや漆師葉さんと一緒に木次谷さんがやってきてくれた。
なぜか宗方さんまで一緒だ。
「やあ、片岡君、ご無沙汰してますね」
「元気かい?」
木次谷さんが前に会った時と同じような気さくな感じで言う。
宗方さんは相変わらず緊張感がない。この状況で元気なわけはないでしょうに。
「片岡君、今回はダンジョン討伐、お疲れさまでした。大きな戦果ですよ。
伊達さんもおめでとうございます。今後の更なる活躍に期待しています。よろしくお願いします。
漆師葉さんも6位昇格は近いでしょう。頑張って下さい」
木次谷さんが言って伊達さんが黙って頭を下げた。
木次谷さんがテレビを付けてワイドショーに合わせると、また北林が出ていた。木次谷さんがそれを見てすぐテレビを切る。
「唐突ですが、明日、仙台のテレビに出演します。あいつらと一緒にね。生放送です」
木次谷さんが突然いうけど。
この状況で大丈夫なんだろうか。僕の顔を見て木次谷さんがにやりと笑った。
「大丈夫ですよ。ここからは我々の仕事です。
片岡君も一緒にどうですか?特等席から面白いものが見物できますよ」
◆
翌日、仙台のテレビ局に木次谷さんに連れられて行った。伊達さんと宗方さんも一緒だ。
ワイドショー的な番組を仙台から中継するってことらしい。
カメラやマイクがおいてある舞台裏のようなところで待機していると、スーツに身を固めた北林と勝田が現れた。
勝田はまだ大袈裟に足を引きずっている。
北林が勝ち誇ったような顔で僕を見た。
「片岡君、誤解しないでね。私は貴方に恥をかかせたいわけじゃないの。
あなたも漆師葉さんも被害者なのよ。私は貴方たちを助けたいだけ。ここで私達に謝罪して、私たちの言うことに従いなさい」
北林がまた猫撫で声で言うけど、取り敢えず無視しておいた。
「伊達さん、現在の問題ある制度に加担する者は悪に味方する者として非難を免れないわ。いい加減に認めたらどうなの?」
北林が伊達さんに向かって言うけど、伊達さんが黙って北林を一瞥して目を逸らした。
北林が舌打ちして今度は木次谷さんの方を向く。
「木次谷さん。
私たちのような有識者の見解は魔討士業界の問題を改善するのには役に立つと思いますわ。アドバイザーとして参加してあげてもいいですわよ」
「それはじつに有難い申し出ですね、北林先生。ぜひ前向きに検討したいと思います」
木次谷さんがふっくらした顔に人当たりの良い笑みを浮かべる……大丈夫なんだろうな
◆
「今日は、乙類5位の片岡水輝君と仙台フォレストリーフ・ウィザーズギルドの伊達代表、それに北林佐夜子教授と勝田助手をお招きして、生放送で仙台からお送りしております」
放送が始まった。
青いスーツ姿のアナウンサーの若い男の人がはきはきした口調で話す。カメラがこっちを向いたから一礼しておいた。
スタジオの両端には机が置かれていて、向こうには北林と勝田、こっちには僕と伊達さん、それに木次谷さんと宗片さんが座っている。
「今日は、魔討士協会の総務部門統括部長、木次谷さんと、特別ゲストに乙類一位、宗片一刀斎十四郎さんにお越しいただいています
……では、まず北林先生、何かありますか?」
アナウンサーさんが北林の方を見た。
「このような形で彼にもう一度会うのは私としては不本意です」
テレビ向けって感じの芝居がかった口調で北林が言う。勝田が隣で相槌を打った。
「私も怪我をさせられたことは恨みはありません。子供のしたことですから。
私達は彼に正しい道に戻ってほしいだけなんです。健全な高校生に戻って一言詫びてほしい、それだけです」
勝田が言うけど……このセリフはここ二日ほど何度もテレビで聞かされたな。
いい加減聞き飽きた
「では……次に、木次谷さんにお話を伺います。
発生から数日が経ちましたが、魔討士協会からはいまだに公式な見解が出ていません……今日は何かお話しいただけるということでしょうか」
「ええ、勿論です。ではまずは此方をご覧ください」
そう言って木次谷さんが誰かに合図するような仕草をした。
さっきまで僕が勝田を投げ倒した時の映像が映っていた、スタジオ中央に置かれた大きめのディスプレイの画面が切り替わる。
黒っぽい画面に白い部分が映った静止画だ。
ちょっと見難い映像で何かと思ったけど……よく見ると白い光は街灯の光だ。何台かの車に何人かの人。
それを上から撮った映像。
……これは、あの日の映像だ。
漆師葉さんと、それに北林と勝田が映っている。どこかの監視カメラだろうか。
「ではご覧ください」
木次谷さんが言うと映像が動き出した。
漆師葉さんが北林と勝田と三人でいるところに僕が入ってくる。やっぱりあの日の映像だ。
その後、勝田の方から僕に近づいてきて襟首をつかむところでスタジオがざわついた。
「これは……」
「なにか……話が違わない?」
向こう側の席で勝田と北林が慌てたように顔を見合わせて何かを話している。
スタジオのささやき合う声の中で、僕が勝田を投げるところ、漆師葉さんが僕の手を引いて走り去るところの無音の映像が続いた。
「ここからが注目ですよ」
「ちょっ!」
木次谷さんが言って北林が声を上げる。
しばらくして、画面の中の勝田が何事も無かったように立ち上がった。
背中を少し抑えて北林と何か話すような仕草をして、特に足を引きずることもなくカメラの範囲から出て行く。
ざわついていたスタジオが大きくどよめいた。
「もう一つ、ご覧ください」
木次谷さんが言ってディスプレイが切り替わる。
別の角度、今度は横からの奴だ……これはなにで撮ったものなんだろう。
同じように僕等が走り去ったあとに、何事もなく歩き去る二人が撮影されていた。
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