第111話 2日目・それぞれの想い・上

「じゃあ、次は片岡、アンタの番よ」


 漆師葉さんが言う。

 自分に視線が集中するのを感じた。

 

 通路の奥から足音が聞こえてきた。もう何体かいるっぽいな。

 薄暗い通路の向こうから二体のゴーレムが現れた。腕が長くて頭の部分が肩から丸く丘のように膨らんでいる、人形っぽい見た目だ。

 さっきのとは違って表面が泥のようになっていて、滴が垂れている。

  

「手伝うかい?」

「ヤバかったらお願いします」


 四宮さんに言って前に出る。

 ゴーレムがずるずると前進してきた。天井に閊えそうなくらいの大きさは圧迫感があるけど、これだけ遅いとどうとでもできるな。

 

「一刀!薪風!」


 とりあえず片方を止める。踏み込んで鎮定を横に薙いだ。

 通路に風が渦を巻いて一体のゴーレムを捉える。ゴーレムがよろめいて壁に叩きつけられた。泥がはねる。

 もう一体がこっちに近寄ってきた。


「一刀!破矢風!鼓撃」


 鎮定を振り下ろすと風の塊が飛んだ。風が足を捉えて、ゴーレムの姿勢が崩れる。ゴーレムが這い蹲るようにして手を突いた。

 泥が蠢いて折れたように曲がった脚が元に戻っていく。末端を狙ってもあんまり効果はないか。


 さっきの漆師葉さんの攻撃を思い出す。首を落とせば倒せていた。頭が弱点とかなんだろうか。

 肩からこんもり膨れたような頭と思しき処に狙いをつける。


「一刀!破矢風!鼓撃!」


 狙い通りに風の塊が頭っぽい部分に命中する。

 一瞬の間があって、ゴーレムの膝が崩れた。そのまま泥の塊のように形を失って消える。


 もう一体。

 態勢を立て直したゴーレムが腕を振ると、空中に泥の塊が飛んだ。

 鎮定を一振りすると、風の壁が立ち上がって泥の塊が逸れる。壁に泥がぶつかって音を立てた。

 真っすぐ踏み込んで意識を集中する。ゴーレムが大きく腕を振り上げるけど、遅い。


「一刀!断風!岩斫」


 風を纏わせた鎮定で胴を薙ぎ払う。

 柔らかく重い手ごたえが掌を押し返してくるけど、そのまま押し込む。泥を撒き散らしながらゴーレムが真っ二つになった。


 一歩下がって様子を伺う。

 上半身が地面に落ちて下半身と繋がろうとするようにじたばたと動くけど、しばらく見ていたら人の形が崩れていった。

 頑丈なのは面倒だけど、動きは鈍いしさほど大した相手ではないな



 そのあとも何度か戦った。

 どうもこのダンジョンはゴーレムが多いらしく、そういう相手ばかりだった。

 体が土だったり岩だったり、普通の人型だったりゴリラのように手が長かったりと色々だったけど。


 出水さんの魔法も見せてもらった。

 空中に作り出した魔力の塊を直接叩きつけるという魔法。

 それだけしか使えないみたいだけど、詠唱が短めで檜村さんより手数が多いから結構強力だ。


 漆師葉さんが影で先制攻撃する。

 倒しきれなかった敵の攻撃や突進は四宮さんが止めて、その間に漆師葉さんの影の斬撃と出水さんの魔法で掃討するという感じらしい。


「今日はここまでにしておきましょう。アタックチームは3階層に戻って下さい。サポートチームのA班は|殿(しんがり)をお願いします」


 そろそろ風の使い過ぎで疲れたかなってところで伊達さんが声を掛けてきた。 

 今日はあくまで小手調べって感じか。


 ゴーレムを倒すだけなら簡単ではあるけど、あんなのががゾロゾロと出てきたらかなり消耗させられるし、無傷でダンジョンマスターの間まで行けるとは限らない。

 サポートチームが道を開いてくれるのは助かるだろうなってことは想像がついた。

 

「やるじゃない、さすが5位ね。誉めてあげるわ」


 漆師葉さんが相変わらず偉そうな口調で言う。


「風の斬撃を飛ばすことも出来るし接近戦でも戦える。風で足止めや風の壁を立てて防御も出来るわけだ。流石だね……しかし、君の能力はどっちかというと甲類っぽいな」


 四宮さんが言うけど。


「まあ……僕もそう思います」


 最初は風は牽制程度でしかなくて、刀で戦うのがメインだったんだけど。

 風を使う練習をしているうちに段々と甲に近づいてきている気がする。鎮定に会ってから、ますます風はうまく使えるようになってきた。

 とは言っても、基本的には最初に登録した区分は変更できないらしいので、このままになるっぽい。


 話をしていると、視界の端に国分さんの姿が見えた。

 チームの人たちと何か話してこっちに近づいてくる。国分さんがじっと僕の顔を見て沈黙した。


「お前の方が……伊達さんの力になれる。チームを頼む」


 長い間のあとに押し殺した口調で国分さんが言った。悔しそうなのが伝わってくる。どう答えるべきか少し迷ったけど。


「任せてください」


 そう答えると国分さんが頷いた。


 今回の顔見世では、あえて派手に風を使って戦った。

 師匠曰く、戦う集団は動物の群れみたいなもの、誰だってリーダーになりたい、弱い奴は見下される。だからこそ、上に立つためには力を見せるしかない。

 ましてやお前は金を貰ってくるよそ者だ。一発目できっちり力を見せつけろ。


 正直言ってこういうのはマウントを取るみたいな感じで、あんまり柄じゃない。

 でも、今回は果たさないといけない役割がある。

 

「……感じ悪い事言って……済まなかった」


 そう言って国分さんが歩き去って行った。

 この人を押しのける形になったんだ。みっともない真似は出来ないな



 ダンジョンの外でまたテレビ局とかの取材を受けた。本当に注目されているんだな。

 あの連中はいなくなっていた。ヒステリックなマイクの声を聞かされなくて良かった。

  

 ギルドのマイクロバスでオフィスに帰って、打ち合わせをして解散になった。

 僕は帰っていいけど、他のメンバーはまだ市内巡回とかで待機するらしい。


「片岡君、いいかな?」


 ホテルに帰ろうかと思って四宮さんが声を掛けてきた。


「なんでしょう?」 

「前衛同士、一緒に食事でもどうだい?仙台名物をごちそうさせてくれ」


「ああ……じゃあいいですか?」


 食べる所は正直言ってファミレスとかファーストフードくらいしか思いつかないから、こういってもらえるのは有難い。

 それに、折角来たんだから美味しいものを食べていきたいし。 


「じゃあ、行こうか。あと隊服は脱いでおいた方がいいよ……なんせそれは目立つからね」


 そう言って四宮さんがコートを脱いでジャケットの上に普通の黒いコートを羽織った。

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