第110話 2日目・彼女の能力
翌日、朝10時に宮城野ダンジョンの前に来た。
すぐそばにJRの駅と大きな病院があるけど、仙台のプロ野球チームのワインレッドのカラーに染められたJRの駅の入り口は封鎖されていた。
病院を守るように高いフェンスが立てられていて、物々しい雰囲気だ。
よりによって嫌な場所にダンジョンが出来たもんだな。
隊服である緑のロングコートも貰った。
柔らかい生地で作られていて暖かい。揃いのコートを見るとなんかチームの一員って感じがしていいな。
「高校生を金で騙して、危険な目にあわせる行為に私たちは反対します!」
「問題の多い魔討士の制度の改革を!」
「彼らは奴隷じゃない!子供をたぶらかすな!」
マイクで大きな声が上がった。
そっちの方に目をやると、プラカードを掲げた一団がいた。
中央でマイクを持っているのは、あの仙台駅前にいた女だ。今日は取り巻きらしき連中まで引きつれている。
なんというか、これからダンジョンに挑むっていうのに、テンションが下がるな。
「今のところ、三階層までは大体は攻略済みです。五階層までは地図は概ね把握できています。
六階層にはダンジョンマスターがいます。一度だけ接敵しましたが、おそらくクレイゴーレムとでも言うのか、泥の塊のような相手でした」
伊達さんが抗議の声を無視して説明してくれる。
「本番は4階層と5階層は彼らが先導します。サポートチームです」
伊達さんが言う。
隊服に身を包んだ8人が僕に向けて頭を下げてくれた。
昨日の話では、彼らが先導してくれて僕等がダンジョンマスターと戦うという作戦のはずだ。
「今日はアタックチームの顔見世というか能力の相互の確認をします。
漆師葉、四宮、出水はそれぞれの能力や連携は分かっているでしょうけど、片岡君を入れての連携がどうなるか試します」
「ポジションとしては、俺が最前線を務める。相手を攻撃を止める役だ」
四宮さんが言う。
「あたしは中衛よ。しっかり守りなさい」
「片岡くん、君は漆師葉と俺の間に位置して前後を支援してほしい」
昨日と同じような偉そうな口調で漆師葉さんが言って、冷静に四宮さんが補足してくれる。
「とりあえず、4階層で一度戦いましょう。皆はいつも通りに戦ってください。片岡君は好きに合わせてください」
「分かりました」
一応それぞれの能力は動画で見たけど、実際の能力とかは自分の目で見ないと分からない。
ぶっつけ本番でカタリーナやパトリスと連携したときに比べれば、編成のバランスをとって、しかも本番前に練習までできるんだから恵まれてるな。
◆
宮城野ダンジョンに入った。
動画でも少し見たけど、宮城野ダンジョンはいわゆる八王子系だ。
赤い光に覆われたファンタジー映画とかの洞窟のような感じで、3人ほどが並んで歩ける通路が伸びている。
八王子ダンジョンの上層階と同じく3階層までは大体制圧されているらしいから、この階層には殆ど魔獣は出てこないらしい。
伊達さんと漆師葉さんが何か話しながら先頭を行っていて、それぞれ歩いていく団員にも今一つ緊張感がない。
「片岡君、初めまして」
隣を歩いている男が声を掛けてきた。
180センチくらいあって、僕より背が高い。年も僕より上だろう。20歳は越えてそうだ。
筋肉質な体格は隊服のコートの上からも分かる。丸坊主に近い刈り込んだ髪、それにがっしりした顎のちょっと角ばった顔。額と頭に傷があるのがなんとも厳つい。
手には大振りの片手剣が握られていた。いかにもって感じの乙類だ。
「国分大輔、乙の6位だ。サポートチームの前衛」
「よろしくお願いします。片岡水輝です」
差し出された手を握る。
軽く握ったつもりだけど、痛みを感じるほど強く握り返された。
「一応言っておくがな、俺はこの措置には納得してない。
伊達さんの指示だから黙っているが、俺は今回の事には不満だ。お前のことも四宮のオッサンのこともな」
彼が僕を睨みつけるようにして言う。
そう言えば、四宮さんは乙の7位って言っていた。この人の方がランクが上なのか。
「チームの足を引っ張って伊達さんの邪魔になるようならすぐに俺が取って代わるからな」
低い声で言って、国分さんが先に歩いて行った人たちと何か話していた。多分あれがあの人のチームなんだろうな。。
今日は僕等が戦ってサポートチームは万が一の時の補助と見学ということらしいけど……これは見学と言うか値踏みされているという感じか。
「彼は……なんというか、社長を尊敬してるからね。悪く思わないでほしい。すまないね」
後ろから四宮さんが声を掛けてきた。さっきのオッサン呼ばわりも聞こえていたと思うんだけど、特に気にした様子は感じられない。
四宮さんの手には細身の片手剣が握られていた。
刀身が淡く光っていて、レイピアとかよりは太い。柄の飾りとかは歴史の教科書とかで見た古い日本の両刃の剣を思わせる。
これが四宮さんの武器か。
「4階層です。アタックチームは準備を」
「ほら、早くしなさい」
先頭から伊達さんと漆師葉さんの声が聞こえた。
「じゃあ行こうか」
◆
4階層に下りた。
このフロアから壁にファンタジー風ゲームの遺跡を思わせる彫刻がされている。
そして空気が三階層と違うのを感じた。今まで戦った時に感じたのと同じ。重苦しくて誰かから見られているような、魔獣が出る場に漂う気配だ。
四宮さんが剣を構えて僕の前を行く。
僕のすぐ後ろには漆師葉さん。手には黒い刀身のサーベルが握られていた。握っている手を守るように蔦が絡まるような柄飾りが取り付けられている。それも黒だ。
装備まで黒い……というより、装備に合わせて隊服が黒いんだろう。
最後尾には出水さん。
温和な顔には緊張した表情が浮かんでいて、深呼吸を繰り返している。
四宮さんが手を上げて足を止めた。
奥から足音が聞こえてくる。赤っぽいダンジョンの光に照らされて、暗闇の中から土の塊のような人型の奴が歩いてきた。
ゴーレムというやつだろうか。
「さて、じゃあ片岡。あたしの力を見なさい、エースの力をね」
漆師葉さんが言って黒いサーベルを一振りした。
「ブラックローズ!」
声と同時に漆師葉さんの影が音もなく床に伸びた。
ゴーレムの前で伸びた影から何本もの黒い棘が飛び出してゴーレムを刺し貫く。頑丈そうなゴーレムが音もなく影に切り裂かれてバラバラになって崩れた。
動画では影使いと言う風に紹介されていたけど、こんな感じなのか。
もう2体が地響きを上げて突進してくるけど、近づく前にまた影の刃がもう一体を切り裂く。
残り一体が手を振り回すと、手の先から岩の礫が飛んだ。
「一刀!」
風を使うより早く前にいる四宮さんの剣が空中に軌跡を描いた。剣の軌道に白い光が残って、岩がそれにぶつかって砕ける。
もう一度ゴーレムが礫を飛ばすより早く、壁を走った影から真っ黒い刃が伸びてゴーレムの首を叩き落とした。
「こんなもんじゃ連携のテストにもならないわね」
ゴーレムの姿が崩れてライフコアが残される。
漆師葉さんがサーベルを一振りして、やれやれって感じで肩を竦めた。
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