第109話 1日目・ギルドのエース
漫画とかのお嬢様のような金色の巻くような長い髪がなんともインパクトが強い。
外国の人かと思ったけど、そうではないらしい。顔立ちは完全に日本人だ。
睨むような気の強そうな目に、かすかに薄笑いを浮かべたような口元。凛々しい感じの女の子だ。
目元とか見ると化粧もきっちりしてるっぽいな……これはなんとなく最近分かるようになってきた。
その子が僕をじろじろと見る。
「ふーん、あんまり5位っぽくないわね」
マントのような長めの黒いコートを羽織っていて、隊服も一人だけ黒い。
黒地に白のラインとか、あちこちに房飾りや大きめの銀のボタンがついた凝ったデザインだ。ファンタジー風の軍服のような感じのタイトな服にミニスカート。
上着とデザインを合わせたニーソックスを履いている。
胸元に縫い取られたギルドの紋章は共通しているけど、デザインは全然違う。
私服の上に揃いのコートを羽織っている団員の人たちとは違うというか……髪型も含めて漫画とかで出てくるお金持ちの高飛車お嬢様のコスプレみたいだな。
「なぜ黒いかって聞きたいの?あたしはね、エースなの。だから特別なのよ。これはエースの証よ」
聞いてもないのにその子が教えてくれる。
「あたしは
「ああ……うん、分かった」
顔を近づけて言われる。
なんとなく勢いに押されるように応えると、その子が満足げに笑みを浮かべた。
「じゃあ、またね、片岡水輝」
芝居がかった口調で言ってその子が出て行った。
なんというか……中々に面白い子だな。
「あの子がエースなんですか?」
「片岡君と同じく高校2年生、ランクは甲の7位です。
まだランクは低いですが、うちに入ったときは目覚めたばかりの9位でした。正式に活動しているのは半年ほどですからかなりスピードで昇格してきてます」
半年で7位か。
三田ケ谷も同じくらいの速さだけど、あいつはある程度活動してそれから休止、その後に本格的に活動再開してるから、ある程度実戦経験がある。
実戦経験全くなしでスタートして、このスピードは多分相当速い方に属するだろう。
どんな能力なんだろう。
「潜在能力は確かですが実戦経験が不足気味なので……そこは配慮してあげてください」
伊達さんが言った。
◆
「アタックチームは4人なんですか?」
あと二人いる、と言っていた。出水さんが後衛、漆師葉さんと僕が前衛だろうか。
「ええ」
「なんで4人なんです?」
「いずれ集団戦術のセオリーがより確立されたらわかりませんが……前衛二人がチームを支え、中衛1人が支援、後衛の魔法使いが後方から火力を出す、という形を想定しています。
もしゲームのように、回復役が当たり前のようにいればもう少し話も変わると思いますが」
確かに、治癒術師はかなり希少だ。
朱音がそうなんだけど、一般的にはかなり珍しい。
ゲームのようにポーションでもあればいいんだけど、そんな便利なものもないしな。
致命傷に近い傷でも、治癒術師の魔法なら治せる。
その強力さゆえに、治癒術の能力持ちもダンジョンの傍で怪我人の治癒に当たることが多い。だから一つのパーティの専属になってしまうことは殆どないはずだ。
自衛隊とかのいわゆる専業魔討士やトップランクのパーティはしらないけど、中位帯で治癒術師がいるパーティはほとんどいないと思う。
「回復役が編成にいない以上、怪我人が出たら対処できません。
回復役がいればもう少し人数を増やしてもいいのでしょうけど……死人は出したくないし、実力に劣るメンバーが怪我すると足手まといになります。
数を無理に増やすより、陣形を整え精鋭で戦う方がいい、というのが今のところの結論です」
そんな話をしているうちにそろそろ太陽が傾いてきた。赤い夕陽がオフィスに差し込んでくる。
中にいる人たちは定期的に入れ替わっている。市内の巡回とかしているっぽい。
伊達さんがチラチラと腕時計を見る。そろそろ6時くらいって頃になって、オフィスのドアが開いた。
「帰りました」
そう言って入ってきたのは40歳くらいの男の人だった
◆
「お疲れ様です」
伊達さんが安心したような笑顔を浮かべる。多分この人が4人目だな。
男の人がぴしっとした感じで伊達さんに頭を下げた
「遅かったですね、四宮。どうでしたか?」
「ダンジョンに特に変わりはありません。4階層でダンジョンマスターの間への道がもう一つ見つかりました。マップはサーバーにアップロードしておきました」
「ありがとう」
男の方が伊達さんよりも明らかに年上だけど、敬語がしっかりしている。
背が僕より高いから少し細めに見える。少し短めの髪をきっちり後ろに撫でつけていて、細面の顔立ちは目鼻立ちがはっきりしている。
格好いい大人のおじさんって感じだな。
大人の年齢は分かりにくいんだけど、顔には少し皺が見える。父さんより少し年下上って感じだろうか。
隊服のコートの中はスーツっぽい。魔討士というより良い会社のサラリーマンのようだ。
男の人が僕の方を見て頭を下げてくれた。
「君が片岡君だよね。初めまして。おれは
乙類7位。アタックチームで君と前衛を務める」
そう言ってその人、四宮さんが握手を求めるように手を差し出してくる。
握手すると、硬い豆だらけの感触が伝わってきた。
「よろしくお願いします。片岡水輝です」
「よろしくたのむよ」
そう言って男の人がさわやかな感じの笑みを浮かべた。
この人と僕が前衛か。あんまり前衛で切り合う感じには見えないけど、手の平のあの感触は鍛えた前衛のものだ。見た目とは違うな。
どうやら漆師葉さんは中衛らしい。
◆
今日は四宮さんとの顔合わせで解散になった。タクシーを手配してくれると言われたけど、断って歩くことにした。
仙台に来るのは初めてだし、折角だから色々とみておきたい。
もうすっかり日が暮れて空は暗い。さっきより寒くなったな。
もう少し厚手のコートを持ってくるんだったかもしれない。
仙台は東京より道が広くて解放感を感じる。
杜の都というだけあってなのか、街路樹も多い。クリスマスのイルミネーションが中央分離帯に植えられた街路樹を明るく照らしていた。
駅前まで歩いていると、途中で人だかりができていた。
覗いてみると、人だかりの向こうには漆師葉さんがいた。
同じくらいの高校生とお喋りしたり記念撮影したりしている。手を振ると周りから歓声が上がった。
なんかアイドル並みだな。
何となく見ていると、漆師葉さんがこっちを向いて、目が合う。
なんか危険な空気を感じて目を逸らしたけど、遅かった。
「あら、片岡水輝、ちょうどいいわ、あなたもこっちに来なさい!」
漆師葉さんが僕に声を掛けてくる。
人込みが割れて漆師葉さんが近づいてきて、僕の手を取った。
「皆、聞いて。彼は片岡水輝。高校生の乙類5位よ。
あたしたちは一緒に宮城野ダンジョンを攻略するわ。今年で終わらせるから、応援してね」
そう言うと周りの人達から拍手が上がった。
◆
結局30分ほど、いろんな人と写真を撮ったり握手したりした。
ちょっとした芸能人になった気分だけど、個人的にはこういうのには慣れてないから嬉しいというより疲れた気分だ。
ようやく一息ついて、近くのファーストフードの店に避難した。
夕食も食べないといけないからちょうどいいけど。漆師葉さんが当たり前って顔をして同じテーブルに座る。
「なによ、なんか不満そうね」
暫くハンバーガーを食べていたけど、半分くらい食べ終わったところで漆師葉さんが口を開いた。
「みんなに注目されて期待されてるのよ、嬉しくないの?」
「ああいうのには慣れてないんだよ」
七奈瀬君のようにテレビとかで人気者になっている……と言っても彼は本性を隠しているけど……そういう魔討士もいる。伊勢田さんもそうだ。
でもどうも僕はこういうのは馴染めないな。
「分からないわねぇ、5位なのに」
本当に不思議そうな顔で漆師葉さんが言う。
「……ていうか、君はなんでこんなことを?」
「あのね、当たり前でしょ。あたしたちは皆のために戦ってる、ヒーローなのよ。
そして、あたしはそのチームのエース。エースは一番目立つの。だからファンサービスは当然よ」
漆師葉さんがポテトを食べながら本当に当たり前でしょって感じで言う。
「エースはね、強く、可愛く、格好良く、よ」
確かに美少女だしスタイルもいいのは隊服越しにも分かる。
単に胸が大きいとかそういうのじゃなくて、すらっとした体形とスリムな足からしっかりトレーニングしてるんだろうなって感じが伝わってくる。
「そういえば漆師葉さん、聞いていい?」
「姫には敬語を使いなさい、といいたいところだけど。まあいいわ」
芝居がかった仕草で髪を描き上げながら漆葉さんが言う。
姫って誰だ、とおもったけど、まあそれはいいか
「どういう能力持ちなの?」
伊達さんの話では、僕と四宮さんが前衛でこの子は中衛ってことになる。
でも、甲ってことは前衛もできるんだろうか。甲はいわゆる万能型で遠近両方の戦いに対応できる。
中衛寄りの甲類なのかな。
「知らないの?不勉強ね、片岡水輝」
やれやれって感じで大袈裟に漆葉さんが首を振る。
「HPに載っているわ。明日までにきちんと予習しておきなさない、私の能力をね」
そう言って漆師葉さんが店を出て行った。ファンの子達の撮影をするんだろうか。
しかし、能力を教えてくれても良いと思うんだけど。
ただ、偉そうなんだけど、なんというかキャラづくりしてるんだろうなって感じで、あんまり嫌な感じはしないな。
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