第108話 1日目・新しい仲間たち
伊達さんと一緒にタクシーに乗った。車が動き出すと、さっきのイラついた気分も少し薄くなる。
窓の外の通りにはところどころもう雪が積もっていて、北国って感じがする。肌を刺すような寒さと一転して、タクシーの中は暖房が聞いていて暖かい。
「我が社は所属する魔討士をサポートチームとアタックチームに分けています。
サポートチームはダンジョンの拠点を確保とダンジョンマスターへの経路の確保をし、アタックチームを無傷の状態でダンジョンマスターの部屋に送り込むという方法です」
伊達さんがタブレットを操作しながら説明してくれる。
「今までのダンジョン攻略は個人の能力の頼りすぎていました。つまり強い魔討士のチームが少数でダンジョンを攻略するという手法です。
ですがダンジョンマスターを倒せる実力を持っているパーティでも単独でダンジョンを一階層から攻略することは難しい」
伊達さんが言う。それはそうだ。
宗方さんのような単独でダンジョンを攻略できるような特殊な例外を除けば、一番上の階層からダンジョンの深層を目指すのは難しい。
僕だって、檜村さんや三田ケ谷、ルーファさん達と5階層とかまで行け、と言われたらかなり躊躇するだろう。
地図とかはアプリが知らせてくれるんだけど、戦いは避けられない。連戦になれば消耗もする。
援護の無いダンジョンの奥でトラブルが起きれば全滅もあり得る。全滅はつまり死だ。となればあまり無理はできない。
丁類の中には転移のゲートみたいなのでダンジョンの奥から逃げれる能力を持つ人も居る、と聞いたことはあるけど。
ゲームみたいにアイテム一つで地上にひとっ飛び、なんてわけにはいかない
「一方で、能力はあるがそこまで強くない者はダンジョンの低い階層でしか戦えない。それでは端的に言うと稼ぎになりませんからね。だから本格的に戦おうとする者も少ない。
魔討士の能力を持つものは50人に1人ほどですが、実際に戦うものは少ないですし、専門的に能力を磨いているものはさらに少ない」
伊達さんが続ける。
そういえば学校でダンジョンが現れた時に三塚先生が魔討士だったことを初めて知った。
ああいう風に、素質は持っているけどあまり使わないままっていう人は結構いるのかもしれない。
「魔討士の素質を持つものは限られているのに、これは効率的ではありません。
今の所、組織的に戦っている魔討士は、自衛隊や東京の自治体が編成している専業魔討士のみです」
八王子ダンジョンはかなり組織的に攻略しているのはなんとなく分かる。
今は13階層あたりまで攻略ルートができているらしい。ただ、まだ深層は遠いようだけど。
「現在日本各地に定着したダンジョンは145箇所あります。東京では新宿、八王子、奥多摩が有名ですが。
定着したダンジョンの周りには野良ダンジョンが発生しやすいという統計もありますし、対策は急務です」
「そんなにあるんですか?」
数まではしらなかったけど……計算上、一つの県に3つくらいあるのか。
伊達さんが頷いた。
「能力がそこまで高くないものでもダンジョン攻略に貢献できる手法を確立する。そして実力のあるものがダンジョンを攻略するリスクを下げる。攻略の成果を分配する。
この手法が定着し、専業魔討士でも生活が成り立つなら、魔討士を志す人も増えると思います。
将来的には、私の会社が一つの就職先として認知されてほしいと思っています……それがきっと戦えない人のためにもなる」
伊達さんが言う。
なんというか、伊勢田さんの活動をもっと具体的にしたって感じだな。
「片岡君にはアタックチームの一人になってもらいます。今日はメンバーの三人にあってもらいますね。その後、4人で連携と能力を知りあってもらいます。攻略は今年中……一応8日後を予定しています」
「ずいぶん早いですね」
「さっきの人たちの関係で早まったんです」
冷静な口調に一瞬だけ苦々し気な雰囲気が漂った。
「せっかく来てもらったので、できればもう少し時間を掛けて色々と連携について試したいのですが、対応が遅いのは税金の無駄遣いと言われてしまってはね」
◆
タクシーで連れてこられたのは、大通りに面したガラス張りのオフィスだった。
ガラスにはおおきくギルドの紋章が張り付けられてる。
中には簡素なソファやテーブルが置かれていた。緑のパーテーションの向こうはロッカーのようになっているっぽいな。
「おかえりなさい」
「彼が片岡君ですか?高校生5位の?」
中にいた何人かの人が挨拶して、僕の方を興味津々って感じで見る。
年齢は高校生くらいから30歳くらいって感じの人までいて結構幅広い。男女比も同じくらいだろうか。
着ている服はまちまちだけど、上にはおっているダークグリーンのフード付きロングコートは全員がお揃いだ。これは隊服らしい。全員が魔討士なんだろうか
「初めまして、片岡君。よろしくおねがいします」
その中から一人の人が進み出てきた。
温和な感じの男の人だ。なんとなく大学生くらいっぽい。
背は僕と同じくらい。柔らかそうな茶色の髪を真ん中で分けている。眼鏡をかけていてちょっとふっくらした感じだ。
丸みを帯びた顔と丸メガネが人のよさそうな理知的な感じを醸し出している。
「アタックチームの後衛を担当します。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕の相棒っていうのは檜村さんの事かな。
改めて顔を見るけど、優し気な感じであんまり戦い向きって気がしない。
風鞍さんの相棒の高天神さんもだったけど、魔法使いは総じて温和な感じの人が多い気がする。
能力と性格は関係ないはずなんだけど。
「一人はあとで来ます。今はダンジョンの中に行っているので……あともう一人は」
そう言ったところで不意に足音が近づいてきてドアが開いた。
「よく来たわね。あんたが片岡水輝?」
足音高く入ってきたのは金髪の女の子だった。
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