第107話 1日目・仙台の出迎え

 色々考えたけど、依頼は受けることにして、その日の夜、伊達さんに電話した。

 

「請けてくださいますか。それは助かります」 


 電話越しの声は前と同じように事務的というか淡々とした感じだけど、少し安堵した感じが伝わってきた。


「お役に立てるか分かりませんけど、全力で戦います」

「高校生5位ということを宣伝に使わせてもらうかもしれませんが、構いませんか?」

「ええ、別にそのくらいは……あまり派手にはしないでくださいね」


 僕自身がそれなりに有名になってしまったのはなんとなく察しが付く。

 高校生の5位って言うのは僕が思うよりも凄いらしい……僕自身はまだ今一つ実感がないけど。

 会社って言う以上は、それをアピールしたいのは分かるから、そのくらいはいいだろう。



 12月20日。

 冬休みの初日、送られてきた東北新幹線のチケットで仙台に向かった。

 檜村さんがホームまで見送りに来てくれた


「気を付けてくれよ」

「いつもとやることは変わりませんよ。むしろ今回は準備を整えていきますし、仲間もいるんですから、今までより安全です」


 思いかえすと、今までの戦いはどれもこれも予想しない展開で準備どころじゃなくて始まっていた気がする。

 今回はそうはならないだろうと思う。


「私も行っても構わないだろう?」

「ええ、良いと思いますけど。でもダンジョンでの戦いはダメみたいです」

「ああ……それは分かっているよ。でも」


 檜村さんが僕を見る。


「だって……もうじきクリスマスじゃないか。まさか私に1人で残れ、とは言わないだろう?ルーファもどうせ三田ケ谷君とどこかに行ってしまうだろうし」


「一緒に行きますか?」

「うん。そうしよう……と言いたい所なんだが、課題があるからそれを片付けたら私も仙台に向かうよ。クリスマスまでには必ず行くから、待っていてくれよ」


 檜村さんがそう言って手を握ってくれた。



 仙台までは2時間ほどだった。結構近いな。

 新幹線のプラットホームは東京駅より少し天井が低くて窮屈な感じがした。

 下りるとすこし肌寒い空気が肌に触れる。大きく吸い込んだ冷たい空気が痛く感じた。東京より寒いな。


 仙台駅の改札を出ると伊達さんが出迎えてくれた。

 前にあった時と同じようなスーツ姿で、襟もとにはギルドの羽根を象ったピンバッジが留められている。


「やあ、片岡君。よく来てくれました」


 伊達さんがそう言って手を差し出してくる。その手を握り返した。

 ほっそりしているけど握手は力強い。


「マスコミが来ていますが、それは私が対応します」


 伊達さんに先導されて駅を出る。立体交差が長く伸びていて、空が広々と見えた。太陽は明るいけど、空気は冷たい。

 外には新聞記者さんとかテレビ局の人とかそういう感じの人が集まっていた。

 カメラや大きめのマイクがずらっと壁のように並んでいて、その周りを見物人が取り囲んでいる。

 あと高校生らしき一団。僕の方を見て歓声を上げた……どうやら思ったより注目されているらしい。


 記者らしき青のスーツ姿の男の人がマイクを持って前に出てくる。

 大きいテレビカメラが伊達さんを映して、次に僕を映した。ちょっと緊張するな。


「伊達さん。彼を招聘した意図を教えてもらえますか?」

「今までも申し上げた通り、ダンジョンの攻略は技術的、組織的な手法で9割までは詰められます。

しかし最後のダンジョンマスターの討伐だけは小細工は通じない。よって有能な前衛、乙類として彼に来てもらいました」


「今のギルドのメンバーで攻略は難しいという判断ですか?」


 30歳くらいの青いスーツを着たレポーターがマイクを向けて落ち着いた感じの口調で聞く。


「いえ、可能でしょう」


 伊達さんがはっきりとした口調で答えた。


「しかし危険は可能な限り排除しておきます。誰かの犠牲によりダンジョンを攻略するというのでは成功とはいえませんので」


 伊達さんが静かな口調で答える。


「そうですね。確かに。ありがとうございます。仙台フォレストリーフ・ウィザーズギルドの伊達代表にお話を伺いました」


 記者の人がほほ笑んで頭を下げた。

 最初に思っていたほど手厳しい感じじゃなかったな。アナウンサーの人がそれぞれカメラの方を向いて話し始める。

 テレビを撮影するときはこんな感じになるんだな。結構面白い。


 伊達さんがイヤホンとかを付けたテレビ局の人っぽい人と話して会釈する。見物人の人も三々五々って感じで散っていった。

 これで終わりかな。伊達さんが僕の方を向いたところで。

 

「高校生を巻き込むことに問題を感じませんか?」


 不意に甲高い声がこっちに飛んできた。



 今までのレポーターとかとか違う、詰問するような口調だ。  

 周りの記者の人とかがなにやらうんざりした顔をしてそいつらを見る


 テレビ局の人はアナウンサーと大きめのマイクとかテレビカメラを持った人とペアになっているようだけど。

 こっちは、赤いフチのメガネをかけた顎くらいまでの短めの髪の40歳くらいの痩せた女の人と、茶色のちょっと長めの髪の30歳くらいの男の組み合わせだ。

 男の方は背が高くて割と体格がいい。


 服装もスーツ姿のアナウンサーたちと違って、女の方が私服っぽい茶色のコート、男の方がモコモコした黒のダウンジャケット。

 女の方が小型のマイクを伊達さんに向けていて、男がスマホでこっちを撮っていた。

 テレビ局じゃないな。


「今申しあげたとおりです」

「我々は市民の代表として聞いているんです。答えなさい」


 伊達さんの前に立ちふさがるようにして、その女が言った。

 なんか偉そう言い方だな。


「大人として子供を金で動かすような真似をして恥ずかしいと思いませんか」

「私は彼を高校生ではなく乙類の上位帯として評価しています。高校生を金で動かしたのではなく、乙類の上位に適正な報酬を支払って来てもらった」


 伊達さんが言うとその女が僕の方を向いた。

 伊達さんがその女を止めようとする。気を使ってくれてるんだろうけど……これは僕が答えた方がいいだろう。


「僕は自分の意志で来ました。金のためじゃない」


 そう言うと、その女が鼻で笑った。


「言わされているんじゃないですか?そもそもいくらもらったんです?高校生には過ぎた額では?不適切でしょう」


 キンキンとした耳障りな声だ。

 眼鏡越しに僕を見る目線から見下すような雰囲気が伝わってきた。


「僕はもう答えましたよ。もう一度言いましょうか?」


 こういう時は目を逸らしてはいけない。

 目を逸らすってことは相手に弱気を伝えることになる。


「ふん。まあいいでしょう。またお話を伺いますから」


 暫くのにらみ合いの後にその女が言って、スマホで撮っていた男に合図する。

 男がスマホを下ろして、二人で何か話しながら立ち去って行った。


 風鞍さんが言っていたけど、男も女も、年齢も出身も何も関係なく、優秀なら誰も文句は言わない実力主義の世界。

 だからランクがあがると、高校生の部分はどっちかというと肯定的に言われるようになったんだけど。

 高校生の癖に……こんなこと言われたのは久しぶりだな。


 記者たちもそれぞれ機材を片付けて撤収して行って、見物していた人も居なくなっていた。

 伊達さんが小さくため息をつく。


「すみません、片岡君」

「いえ、大丈夫です。気にしていませんから」


 さっきの偉そうな口調が頭の中でリフレインする……なんか腹立ってきたぞ。


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