第117話 7日目・宮城野ダンジョン突入・上

「いい?これはあいつらの言いがかりよ、片岡は悪くないわ」


 オフィスの裏口から入ると、部屋の外まで漆師葉さんの声が聞こえた。

 部屋に入ると、表通りに面した窓にはブラインドが下りていて、ギルドのメンバーがほぼ全員そろっている。


 部屋に入ると全員の注目が僕に集まった。

 大きめのテレビには朝のワイドショーが流れていて、そこには北林と勝田が映っていた。


『昨晩私たちは、乙類5位の片岡水輝君に襲われました。

確かに私たちは現在の魔討士の制度に批判的です。しかし、このような形で……暴力で私達の意見を封じ込めようとするのは断じて許せません』

『見てください。彼は私達が話しかけたら突然私を投げ飛ばしたんです』


 勝田が松葉杖をついて大げさな口調で言う。頭には包帯が巻かれていた

 投げるときに加減したから大した怪我じゃないはずだけど。


 テレビに映りの悪い動画が流れた。

 確かに僕が投げた時のだ……いつの間に撮ってたんだろう。


『我々としては、今彼が所属しているフォレストリーフ・ウィザーズギルドの伊達代表および魔討士協会に厳重に抗議し、再発防止と正式な謝罪を要求します』


 深刻そうな口調で北林が言う。

 ショックを受けたふりをしているけど、口元には薄笑いが浮かんでいた。

 ……なるほど、こう来たか。僕に矛先を変えてきたわけだ。


「いい、あいつらはね……私達のギルドを馬鹿にしたのよ。とても聞き逃せない暴言だったわ。だからね、私が片岡に命令してやらせたの。片岡が悪いんじゃないわ、分かった?」


 テレビを睨みつけながら漆師葉さんが言って、周りを見回した。

 国分さん達が顔を見わせる。

 テレビからはまた何かコメンテーターの話し声が聞こえてきた。


「ああ、まあ……そうだろうな。そんなに力一杯言わなくても分かるよ」

「ていうか命令とかも嘘だろ……何があったのか知らないけどさ」


 国分さん達前衛組が顔を見合わせて頷いた


「え、あの?」


 漆師葉さんが戸惑ったように皆を見回す。


「そりゃあ、あいつの戦い方を見ていれば分かるさ」

「ああ、突然キレて無意味に暴れるタイプじゃないだろ」


 そう言って前衛組が頷き合った。

  

『ここで、ああ、丙類2位、七奈瀬奏君のインタビューがとれたみたいですね』

『えっ?七奈瀬君ですかぁ』


 アナウンサーの人が言うと、女性タレントさんが嬉しそうに声を上げた。

 画面が切り替わって、七奈瀬君の可愛い顔がテレビの大写しになる。


『片岡さんとは、僕は一緒に戦ったことがあります……でも、無闇に暴力を奮ったりするタイプじゃない……僕はそう感じました。

とても冷静で市民のことを的確に助けていましたから』


 七奈瀬君がインタビューに答えて言う。

 緊張したって感じのたどたどしい話し方は……演技だろうな。

  

『動画もごく一部ですし……やっぱりああいうのは、前後の状況がわからないとはっきりした事は言えないですよね。そうじゃないですか?』


 本性を見事に隠した無邪気な子供って感じで七奈瀬くんがインタビューしている人に問いかけるように言った。

 テレビがスタジオに切り替わったところでスマホが震える。

 画面を見ると七奈瀬君からメッセージが表示されていた。


『絵麻がどうしてもっていうから、フォローしておいてやったぞ。感謝しろ』

『お前一応5位なんだろ。まったく。バカをボコるならもっとうまくやれよな』

『仙台土産を忘れるなよ』


 その後に、いくつかスイーツの店のアドレスが流れてきた。

 また画面の中では粗い映りの動画が流れている。伊達さんがそれを一瞥して、テレビを切った。


「おそらく時間がすぎれば面倒なことになるだけです。

もう少し時間をかけて連携を煮詰めたかったのですが、仕方ありません。今日で決着をつけます。いいですね?」

「了解です!」

「行きましょう!」


 伊達さんが言うと全員がそれに答えてくれる。 


「……すみません」

「片岡くん、これはあなたの問題じゃない。これは私達チームの問題でありチーム全体で対処すべきことです。

それに漆師葉のことをかばってくれたのでしょう?」


 伊達さんが言って隊服を羽織った。


「この任務に成功すれば雑音も弱まるでしょう。世の中結果をだせばある程度の無茶は通りますから。

後のことは魔討士協会に任せます。この手のトラブルは彼らの方が対応が上手いでしょう」



 揃いの隊服を着て外に出ると、仙台の初日の駅前より多いテレビ局の人が人垣を作っていた。

 マイクを突きつけてこようとするレポーターの前に立ちふさがるように伊達さんが進み出る。


「コメントは私がしますね」

「伊達代表、今回のことについて何か……」


「事実関係については精査して後ほど正式に回答を発表します。

そして、我々は今日、宮城野ダンジョンを攻略します!皆さん、もう病院に行くのに遠回りする必要も、ダンジョンの魔獣に怯えることもなくなります!安心してください」

 

 伊達さんがはっきりした口調で言って、僕等の方を振り返った。


「みんな、行きましょう!」   



「隣……いい?片岡」


 宮城野ダンジョンの向かうバスの中。

 普段は割とみんなお喋りしていて気楽な感じだけど、今日は緊張感が漂っていて、静かだ。

 後ろの席に座っていると、漆師葉さんがバスで隣に座ってきた。

 

「あの……今回はごめんなさい……本当に」


 俯いて消え入りそうな声で漆師葉さんが言う。

 普段の高飛車というか自信満々って感じはなくて、本当に済まなそうな感じなのは伝わってきた。


「あたしを庇ってくれて……それに、あの時……逃げちゃったから……」

「いや、大丈夫……あいつらにはムカついてるけど」


 まさかこんな展開になるとは全く思ってなかったけど。

 ただ、あいつらは檜村さんにも何かしてたっぽいし、あいつを投げ飛ばしたことは後悔してない。

 それに、あいつらは露骨に嘘をついてるわけで……何処かで尻尾は出すだろう。

 

 昨日の反応を見る限り、あいつらの情報はきっと彼女にとって絶対に触れられたくないものなんだろう。

 あいつらが血迷ってそれを暴露するようなことをしなくてよかった。


「それよりさ、らしくない真似はしないでね。エースなんでしょ」

 

 そういうと漆師葉さんがサーベルを握るように強くこぶしを握った。


「……当然よ。あたしはエースなんだから、見てなさい」

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