第115話 6日目夜・彼女の秘密・上
攻略予定まであと四日。
今日は陣形を固定して決戦を想定して戦っている。
明日と明後日でダンジョンマスターの間の近くまで行くテストをするってことらしい。
可能なら一戦交えて、倒せるなら倒しても良し、ということなんだそうで。
動画で見て話も聞いたし、一昨日戦ったゴーレムはかなりイメージが近い相手だったらしいけど。
それでも、自分の目で見ておくほうがいいのは確かだ。
◆
「なんか動きが悪くない?」
一区切りついたところで漆師葉さんに声をかけた。
漆師葉さんがサーベルを手に下げたまま、物憂げな表情で俯いている。
今までは防御ラインというか僕の風の壁や最前列に立つ四宮さんのところまで敵がたどり着くまでに、漆師葉さんの影の斬撃が数を大分減らしていた。
でも今日は防御ラインまでたどり着く敵が多い。
少し遅れて出水さんの魔法がゴーレムを打ち倒してしまうし、普通のゴーレムくらいなら僕と四宮さんが概ね敵を止められるから特に問題にはなっていない。
でも影の斬撃もタイミングを外したり、昨日までならまずしないような感じだ。
いつも良くも悪くも自分で蹴りをつけるって感じで強気に戦うけど、今日はなんというか思い切りが良くないというか、迷いながら戦ってる気がする。
昨日もそうだったけど、今日の方が酷い。
「ふん、このあたしでもたまには調子が悪い時はあるわ」
普段は堂々とこっちを正面から見て話すのに今日は視線が泳いでいる。
言っていることはいつもと同じだけど口調にもやっぱり力が無い。なんとなく強がってるって感じだ。
とは言っても微妙な変化だし、確信があるわけじゃない。
調子が悪い時もある、と言われればそうかもしれないし……問い詰めるのも気が引ける。
気まずそうに視線を逸らしたところで、突然漆師葉さんが硬直する。
ポケットから取り出したスマホを見て漆師葉さんが顔をこわばらせた。
◆
その日もミーティングが終わったら普通に解散になった。
いつもならファンサービスと称してみんなと交流していく漆師葉さんだけど。
今日は黒の隊服のマントのような外套のかわりに、地味な茶色のコートを着て、そそくさと出て行った。
なんとなく気になって跡を付けてみる。
スマホをちらちらと見ながら漆師葉が歩いていく。
しかし……人の跡をつけるなんて我ながら変なことしているな。
でもやっぱりチームメイトの事はなんとなく気になってしまう。しかもどう見てもいい話題って感じではなかったし。
オフィスから大分歩いて、段々と人通りの少ない住宅街に入っていく。
今、自分がどこにいるのか分からない。地図アプリを見て位置を確かめる。
顔を上げると、漆師葉の姿が無かった。
不味いと思ったけど……目を切ったのは精々10秒程度だ。そんなに遠くには行っていないはず。
耳を澄ましていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
◆
声の方に行ってみると、話し声が聞こえてきた。
「大きな声を出してはいけないわ……貴方の為にいっているのよ」
「……どうしろっていうの」
「私たちは何もする気はないわ、でも、あなたの振る舞い次第よ。漆師葉……そうじゃないわね」
「やめて!」
覗いてみると、広い駐車場にはまばらに車が止まっていて、駐車場の奥には漆師葉さんがいた。
そして手前側に二人組……誰かと思ったけど後ろ姿で分かった。北林と勝田だ。
◆
「漆師葉さん、どうかした?」
あの二人が漆師葉さんと話しているという状況。
この間のことを考えればどうせロクなことじゃないだろうってことくらいは察しが付く。
北林が驚いたように振り返った。
「あらあら、片岡君じゃない。彼にも聞いてもらおうかしら」
北林が慌てる気配も無く言う。
怯えたように漆師葉さんに一歩下がって僕から目を逸らした。
「彼女はね、本名は漆師葉京じゃないのよね。たしか、そう斉木陽子さん、そうよね」
北林が言う。
「彼女の出身は九州。昔の写真も手に入れたわ、随分今とイメージが違うのよ」
「お姫様という感じではないですねぇ」
「昔はね、ちょっと、そう根暗な女の子だったのよね。別にそれが悪いわけじゃないけど」
勝田がタブレットを操作して二人でそれを見て薄笑いを浮かべた。
「仙台に来て能力に目覚めたみたいだけど、おもちゃを手に入れてお姫様気取りってことよね」
「こういうのは、高校デビューっていうんでしたっけ?今はなんていうんでしょう」
「偽名まで使って……そんなに別人になりたかったのかしら?」
厭味ったらしい口調で二人が言う。
「うるさい!それは私じゃない!そんなの違う!」
「へえ、それじゃこの写真を片岡くんに見てもらおうかしら?」
タブレットを漆師葉さんに向けてちらつかせると、彼女が俯いて黙った
勝ち誇ったような嫌な笑みを浮かべて北林が漆師葉さんを見る
こいつらが何をしたのか、何をしているのか、察しはついた。
「どう、片岡君。貴方も見たいと思わない?このお姫様の本当の……」
「黙れ、もう黙れ。そんなこと知りたくもない。お前らみたいなクズと一緒にするな」
ここまで喋らせるべきじゃなかった。
◆
二人が顔を見合わせた。
「自分では何もしないからそんなに暇なのか?お前らの得意技はゴシップ漁りと脅迫か?」
「脅迫だなんて、酷いことを言うのね。私たちは脅してなんていないわ」
「正しい道に戻るように促しているんだよ。これも彼女の為だ」
真面目腐ったような口調で言うけど、それがまた癇に障る。
「人の触れられたくない場所に触れるな」
こいつらが何を考えているかなんてことはどうでもいい。
誰にだって触れてほしくない秘密の一つや二つはある。どんな理由があってもそれに触れることは正しくはない。
「全く困ったもんだ。高校生5位とかいって持ち上げられて調子に乗ってしまって」
勝田が肩を怒らせて前に出てきた。
「君も知りたいことはないかい?檜村さんについても教えてあげようか?」
薄笑いを浮かべながら勝田が言う。
あの時何か隠しているっぽかったのは……まさか、こいつらが何かしたからか。
「……檜村さんに何かしたのか?」
「さあ、どうだろうなぁ。気になるなら本人に聞いてみたらどうだい?」
勝田がニヤニヤ笑いながら肩に手を置いてくる。
何かしたのはほぼ確信が持てた。
「触るなよ、汚れるだろ」
「話して分からない子供は、厳しく躾けるのも大人の義務だ」
勝田が僕の胸ぐらを掴んで威圧するように顔を近づけてきた。
「いいかい?世の中には子供には分からない怖い世界もあるんだよ。大人は怖いんだ。生意気を言うのもほどほどにした方がいい。
今日は止めてくれる人は誰もいないぞ。それに君の自慢の刀もない」
コートの襟をつかんでいる手に力が入った。柔道かなにかの心得はあるっぽい。
背は僕より高いから多少は迫力ある。
ただ、こんな無警戒に相手の襟を掴むなんて、隙だらけ過ぎて笑ってしまうな。師匠相手にやったらどうなることやら。
「お前に刀なんて必要ない」
襟を掴んでいる親指の付け根を下から挟んだ。手首を外にひねる。
勝田が驚いたようによろめいた。
姿勢が崩れたところで足を払う。きれいに勝田の体が一回転して地面に落ちた
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