留学生と共に来る彼等

第83話 カタリーナとパトリス

 あの戦いから2週間ほどが過ぎた。


 校舎はあちこちが蟲との戦闘で壊れてしまった。

 一番派手に壊れたのはシューフェン達と一緒にアラクネと戦った二階だ。

 中庭に面した壁には大穴が開き、床はアラクネの酸の体液でボロボロ、もう一方の壁はアラクネの足と風鞍さんの八角棒で壊されてしまって、復旧には当分かかるらしい。


 急ピッチで仮設校舎が作られて、その間は臨時のお休みになった。

 冬休みが減らされるらしいけど、まあ仕方ない。


 それに一応僕も受験生だ。

 魔討士としての活動が認められれば何処かの大学に入れてもらうくらいはできるだろうけど。

 選択肢は増やしておくに越したことはない。



「今日は転校生を紹介する」


 仮設校舎の授業初日。

 先生がそう言ってドアを開けて入ってきたのはルーファさんだった。


 制服姿は初めて見た。

 うちの高校の制服、白地のブレザーに臙脂のリボンと同じ色のスカートという組み合わせなんだけど、褐色の肌だからだいぶ違って見える。


 黒髪は結い上げられて頭の後ろで赤いリボンで纏められていた。 

 流石に今日は顔にペイントとかはしていない。

 

「よろしくお願いします。えっと……タイ……から来ました。サナルーファです」


 クラス全員の全員の注目が集まる。

 ルーファさんがぎこちなく頭を下げた。タイからの留学生と言う事になっているらしい。

 ただ、学園祭で半分くらいの生徒は顔を見ていて、三田ケ谷の婚約者ポジションであることは先生も含めて全員が知っているのだけど。


「……じゃあ、三田ケ谷の隣の席に座っていいから」


 先生がなにやら苦々し気な顔で言う。

 というか不純異性交遊は許さんと言わんばかりに三田ケ谷の方を睨んで、三田ケ谷が素知らぬ風に目を逸らした


 ルーファさんが僕に一礼して、そのまま席に座って三田ケ谷と見つめ合った。

 休み時間にまた冷やかされるんだろうな。



「初めまして」


 ひとしきり三田ケ谷達が冷やかされて静かになった昼休み。

 ちょっとどよめきが起きて、ルーファさん達と弁当を食べているところで、声を掛けられた。


 顔をあげると、そこにいたのは日本人じゃなかった。

 この間に色々とありすぎて日本人じゃない見た目、というのがエルマルとかシューフェンにつながりかけたけど。

 少なくとも獣耳ははえていないし、なんとなく異世界の人って感じでもない。


 1人はウェーブがかかった長い金髪と白い肌の女の子だ。

 日本人とは違う彫の深い顔立ちだけど綺麗な顔立ち。猫のような大きめのアーモンドのような形の瞳に赤い唇が鮮やかだ。

 ちょっと大人っぽい顔には明るい笑顔が浮かんでいて、活発な雰囲気を漂わせている。


 制服のサイズが合っていないのか、モデルのような胸が目立つ。スカートも短めでしなやかな足がすらりと伸びていた。

 周りのクラスメートの注目を集めているな。


 もう一人は黒人だった。こっちも背が高い。

 映画で見る黒人のような癖のある黒髪。190センチくらいありそうな見上げるような細身の長身で、整った顔立ちに銀のふちの眼鏡が似合っている。

 こっちも大人びた感じで、映画とかに出てきそうな感じだ。


「えーっと、どちら様?」

「隣のクラスの留学生だってさ」


 隣のクラスメートが教えてくれる。


「俺はパトリス・ディエル・アンリだ。初めまして。フランスから来た」

「アタシはカタリーナ・スアレス。スペイン人よ」


 男……パトリスの方が日本語が完ぺきだ。

 カタリーナの方はイントネーションに少し癖があるな。

 親しげに差し出された手を思わず握った。カタリーナがはにかむように笑う。

 

「僕たちに何か用かな?」


 そう言うと、パトリスが礼儀正しくお辞儀をしてくれた。


「ああ、ランチのときに悪いね。この子が君に興味があるってね。君は聖堂騎士テンプルナイトなんだろ?日本では何って言うんだっけ?」

聖堂騎士テンプルナイト?」

 

 三田ケ谷が首を傾げるけど……師匠が言ってたな。

 たしかヨーロッパでの魔討士はそんな風に呼ばれていたはずだ。


「魔討士の事かな?」

「そう、マトウシだ。しかも君たちは高校生でもトップランカーらしいじゃないか」


 パトリスが言う。


「アタシたちにはソンナ力はないんだけどね。でもそんな人に会えるなんて偶然だけど嬉しいワ。

それにアタシの兄貴は結構強いのよ」

 

「でも日本じゃ、能力持ちも普通に学校に通うんだね」

「ヨーロッパでは違うのかい?」


 三田ケ谷が不思議そうな顔で聞く


「EUじゃ聖堂騎士は専門の学校に通うのさ。そして悪魔の眷属ジナスと戦う」


 日本よりなんというかもっと魔討士としての仕事に集中させられるってことなのかな。

 国によっていろいろあるってことか。


「この子もマトウシなのかい?」

 

 パトリスがルーファさんを見て聞いてくる。


「ああ、まあね」


 ルーファさんの立場は色々複雑だ……まさか異世界の人ですなんて言えるわけもない。


「日本じゃ外国人でも魔討士になれるんだな。うちとは大違いだよ」

「ジュウナンなのよ、日本人はね。会いに行けるアイドルって感じ」


 カタリーナが言うけど。いや、それは違うだろうと言いたい。


「うちの国は頭硬いからね。エリート志向でさ。だから能力持ちでも聖堂騎士テンプルナイトになれない奴は結構いるよ」

「そう言う人はどうなるわけ?」


 日本だと戦いたくない人は魔討士にならないけど、能力持ちで魔討士になる気があるのになれない、というケースはほとんどない気がする。

 基本的にいつでも魔討士は人手不足だ。 


「フリーの傭兵みたいに戦うやつもいるし、何もしない奴もいる」


 この辺は日本の方が大分緩いな。

 戦うも戦わないも本人次第だけど、エリート指向で専門の学校とかあるなら恐らく戦うのも義務に近いだろう。

 

「日本の方が待遇よさそうだね。俺の叔父さんも能力持ちだから誘ってみるかな」


 そう言ってパトリスが肩をすくめる


「まあ。今後も仲良くしてくれよ」

「アタシはキミに興味アルな、ヨロシクネ」


 カタリーナがウィンクする。

 しかし、世界はいろいろ広いな。 



 

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