第84話 代々木の訓練施設での出来事
「へえ、こんな風になっているんだね」
「アタシたちの国より遥かに進んでるわ」
代々木の訓練施設のエントランスホールでパトリスが感心したように言った。
カタリーナが相槌を打つ。
今日はカタリーナとパトリスが魔闘士の日常を見たい、というので、いつものメンバーで代々木の訓練施設まで連れてきた。
なんか、なし崩しに距離を詰められている感じがする。まあいいけど。
周りの人達が物珍しそうに二人を見て通り過ぎていった。
この施設で外人さんは珍しいし、カタリーナは体のラインが見えるワインレッドのセーターにタイトなジーンズ、パトリスは落ち着いた白のシャツに黒のジャケット姿。
長身も相まって並んで立っていると二人ともモデルにしか見えないな。
◆
他の国は知らないけど、日本は何度かダンジョン攻略や野良ダンジョンの発生で痛い目にあった経験がある。
詳しくは聞いていないけど檜村さんが関わったこともあったらしい。
一方で魔討士になるためには、魔素を使って魔法や武器を使う才能が必要なわけで、成り手は限られる。
そして、その殆どは戦いの経験なんてものはないから訓練を積まないといけない。
そんな事情もあって、魔討士の訓練施設とかそういうのはかなり充実している。
東京では代々木のが最大だけど、東京でも他に何か所があるし基本的にすべての県あるらしい。
「ねえ、ルーファ……アナタもここで訓練してるの?」
「はい」
カタリーナはいつのまにやらルーファさんとも仲良くなったらしい。
三田ケ谷がなにか不満げな顔で親し気に話す二人を見ていた。
「普通の人も入っていいんだね。日本はなんというか開放的だな」
パトリスが言う。
訓練施設は一部は魔闘士専用だけど、トレーニングエリアは一般にも開放されていたりする
実際、ジャージ姿の親子連れとかの姿も見える。
「ヨーロッパでは違うの?」
「そりゃそうさ。
パトリスがおどけた調子で言う。
なるほどね。国によって結構違うもんだな。
★
そして、なぜか今日は絵麻と朱音もついて来ている。
「たまにはアニキがどんなことしてるか見たいじゃない」
「それに、あたしたちだって一応資質はあるんだから。中学を出たら魔討士の登録はできるのよ」
朱音が言う。
二人とも資質はあって、朱音はすでに資格持ちだ。絵麻はまだ正式には資格はない。
朱音は治癒術使いだ。
治癒術を使える人は多くない上に、戦闘においてはとても有益な能力だから魔闘士協会が強く勧めて資格をとらせる。
絵麻は資質はあるらしいけど、そこまで強いものではない。
系統としては魔法使い、丙類に属するもの、というのは聞いた。
檜村さんの詠唱と魔法は見慣れてきたけど……絵麻を見ていると詠唱して魔法を使うなんてのは全然イメージがわかない
むしろ僕と同じように剣とか武器をもってまっすぐ敵を殴りに行くタイプのような気がする。
まあ人の性格と資質の性質はあまり関係ないらしいけど。
あのダンジョンでの戦いのときに鎮定が言っていた、
一応、魔討士協会で確認してもらったけど、はっきりしたことは分からなかった。
まだ魔闘士の資質についても謎が多い。
「へえ、妹さんも魔討士なの?いいわねぇ。格好いいわ」
カタリーナが感心したように言って二人を見る。
「可愛い上にそんな資質も持ってるなんて、こういうの、どういうんだっけ?」
「天は二物を与えず、だ」
パトリスが真面目くさって言うけど、それは違ってるぞ。
「お姉さんも綺麗ですね」
「それにお二人とも日本語、すっごく上手い」
「
カタリーナがにっこり笑って、絵麻と朱音が嬉しそうに顔を見合わせて歓声を上げた。
「ねえ、エマ。その服はどこで買ったの?」
「渋谷です」
朱音は落ち着いたベージュのワンピース姿。
絵麻はちょっとダボっとしたスポーツメーカーの短めのシャツにハーフパンツだ。
「アタシにも色々教えてほしいわ、東京について、まだ来たばかりだからさ」。
「いいですよ、朱音も一緒に行こう」
「ええ、いいわよ」
そう言ってカタリーナと朱音達が連絡先を交換していた。
僕の目から見てもカタリーナはスタイルもいいし、今日もすごくおしゃれな格好をしてきている。
映画から飛び出してきたかのような感じだ。二人が興味を持つのも分かるな。
というかパトリスもだけど同級生に見えない。
「ねえ、パトリスにカタオカ君。せっかくだからあなたも一緒に行こうヨ。せっかく知り合えたんだしさ」
カタリーナが声を掛けてくる。
「ああ、いいね、是非誘ってくれよ」
「まあ……別にいいけど」
「おう、片岡。珍しい客を連れてるな」
そんな話をしていたら、師匠が声をかけてきた。
いつもの黒い袴姿で片手に模擬刀を下げている。
「ワオ!サムライよ、パトリス」
カタリーナがすごいものを見たって感じで騒いで、パトリスが合掌して頭を下げた。
その作法もなんか間違ってる気がする。
あと、師匠はサムライっていうか浪人だと思うけど。まあいいか。
◆
「片岡」
何度か試合をして汗を拭いていたら師匠が声を掛けてきた。
三田ケ谷とルーファさんはいつも通り二人で試合をしているのが見えた。
檜村さんは多分魔法の訓練スペースだろう。精神統一とかイメージトレーニングをするためのスペースだ。
カタリーナとパトリスと絵麻達は姿が見えないけど、多分トレーニングゾーンにいるんだろうな
「あいつらは何なんだ?」
「クラスメイト、というか留学生ですね」
「魔討士か?」
「違うと思いますよ。ヨーロッパの方が日本より面倒みたいです」
そう言うと師匠が少し考え込んだ。
「……そうか」
「どうしたんです?」
聞き返した瞬間、横の師匠の雰囲気が変わった。背筋に寒気が走る。
思わず一歩下がって身構えたけど……その気配は一瞬で消えて師匠の雰囲気は元に戻っていた
「ああ、そうだ。お前なら分かるよな、こういう気配が」
「そりゃもう」
本当に切りかかられるかと思った。
思わずため息が出る。
「こういう気配を分かるのは真剣勝負の経験がある奴だ。そうじゃない奴には分からねぇ」
「そうなんですか?」
「あいつ……パトリスとか言ったか。さっき、あいつは俺のこの気配に反応した」
パトリスは最初は模擬刀を使って師匠から剣捌きの手ほどきを受けていたけど、その時の事だろうか。
「……なんでそんなことしたんです?」
「いや、まあ何となくだ。他意はねぇよ。いつもやってる」
師匠がしれっという。相変わらずだな。
……でもそれはいいとして。
「……魔討士として戦った経験があるってことですか?」
「どうだろうな……真剣勝負は別に切り合いだけにかぎらねぇからな。例えば、そうだなスポーツ選手か、単に勘が鋭いだけかもしれねぇしな」
そう言って師匠が肩を竦めた。
確かに少しトレーニングしてたのを見たけど、かなり体を鍛えていることくらいは分かった。
何かスポーツとかしてたのかもしれない。
「だが、少しは注意しろや」
そう言われれば……もう11月だ。
学期の変わり目なら兎も角、言われてみれば転校だの留学だののタイミングとしては変ではある。
「でも……なにかありますかね」
「さあな、そこまでは分からねぇ。気にしすぎかもしれねぇがな。
だが、いまいち認識が甘いようだが、お前はそこらの有象無象じゃねぇ。いまや日本の高校生のトップクラスなんだ……自覚しておけよ」
師匠が真剣な口調で言った。
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