第78話 乙類2位と異世界人の決闘が始まってしまう・上
灰色の迷彩服姿の風鞍さんが、廊下に出て手に持った長い棒を構えて油断なく左右を見回す。
僕等と目が合うと、ちょっと考える様な間があって顔がほころんだ。
「おお、あんたは確か片岡君か。こんなところであうとはの。まったく縁があるのう」
とりあえず魔獣がいないってことがわかったからなのか、緊張した雰囲気がなくなって親し気に笑いながら歩いてきた。
風鞍さんは自衛隊の制服なのか灰色の迷彩服姿で2メートルほどありそうな黒い棒を持っている。
その後ろから眼鏡にジャケット姿の男の人が上がってきた。
たしか高天神さん。風鞍さんの相棒の魔法使いだ。写真を見せてもらった気がする。
風鞍さんと同じくらいの長身だけど、ひょろっとした感じと真ん中で綺麗に分けられた黒髪に穏やかな顔立ち。温和な学者さんって感じだな。
見た目は普通の学者さんとかサラリーマンって感じにしか見えないけど、丙類2位の上位ランカー魔法使いのはずだ。
ただ、全然そんな感じがしないけど。
「そういえば高校生5位になったそうじゃの。大したもんじゃ、その調子で4位を目指しんさいよ」
肩をバンバン叩かれる。上背が僕よりあるうえに力が強いから結構痛い。
「あの女傑か。女としてはなかなかの腕前であったぞ」
「で、なんじゃ。このお二人さんは」
遠慮ない視線で風鞍さんがシューフェン達を見る。
エルマルは見た目は金髪少年で着ているのもシャツっぽいものだから外国人に見えるかもしれないけど。
中華風ってかんじの衣装を着て獣耳を生やしたシューフェン達はどう見ても人間じゃない。
説明していいものか一瞬迷ったけど。
でもいずれは魔討士協会とかから情報は行くだろうなって気がする。なんせ乙類2位の実力者だし。
「実はですね……」
経緯を簡単に説明する。
「なるほどのう……八王子の向こうにこんな連中がおるとは。全然知らなんだわ」
「理屈的にはあっても不思議ではないけどね。本物を見ると驚くしかないな」
風鞍さんと高天神さんが顔を見合わせてシューフェン達を観察する。
「あの女はどのくらいの序列なのだ?カタオカよ」
レイフォンが聞いてきた。
「……国で10番目くらいですかね、多分」
「どうかのう、多分そんなもんじゃろうな」
そもそも1位まであがっている人が多くはないから、2位にいる時点でランキングはかなり高いと思う。
「ま、二人で戦えばあたしらが一番じゃと思うがの」
風鞍さんが高天神さんの肩を抱き寄せてにやりと笑う。
個人としての乙類のぶっちぎり一位は宗片さんだけど、確かにパーティ単位の強さと個人の強さはまた別だ。
といってもパーティ単位の評価は存在しないからその辺は正確には分からない。
たしかこの二人は僕と檜村さんの組み合わせに近い、魔法使いと前衛という組み合わせだ。
ただ、高天神さんが魔法で牽制して風鞍さんが切り込みっていう役回りだったはず。さっきもそんな感じだった。
僕はどっちかというと檜村さんを守って、檜村さんが魔法でとどめを刺してくれるって感じだから逆だな。
「しかし、女がそこまで上位にいるのか」
何やら含みのある口調でシューフェンが言う。
「なんじゃと、コスプレ兄ちゃん、今のはちっと聞き捨てならんのう」
◆
「女が上に居たらなんか悪いんかい、ああ?」
イラっとしたって感じで風鞍さんが噛みつく。
「女性は花。花は慈しみ愛でるもの。そして花は実りをもたらしわれらの戦働きを支えてくれるものだ」
険悪な口調に動ずる感じもなく、シューフェンが答える。
「我ら男は剣。戦士は花を守るために剣を取り、花を守るために死ぬ。
戦うは我らが剣の務め。花器を戦場に持ち込むは愚か者の所業であろう」
「なんかいちいち気に障る言い草じゃの。そもそも女が守られるもんだって誰が決めたんじゃ、女の方が弱いっちゅうんかい」
「その通りだ。戦闘において女が男に勝ることはない。
だがそれが悪いわけではない。花には花の、剣には剣の役割があるというだけだ」
シューフェンが当然って顔で言い返して、風鞍さんが嫌そうな顔をした。
シューフェンに悪気はないんだろうけど……かみ合わないな。
まあこればかりはそういう世界なんだろうとしか言いようがない。ソルヴェリアは男女で役割分担がはっきりした国なんだろう
「なるほどのう。なら、兄さん、ちっと一本勝負せーや。女の強さをみせちゃろう」
「身の程を知らぬようだな」
シューフェンが剣を抜く。
風鞍さんが八角棒を一振りしてボロボロになった廊下で向かい合った。二人がにらみ合う。
なんか止める間もなく異世界とこっちの戦士同士の一騎打ちが始まろうとしているんだけど。
「あのですね……ご両人、見てないで止めて下さい。どっちが怪我しても不味いでしょ」
高天神さんとレイフォンさんに言う。
「ああなったらどうしようもないよ……私には止められない」
高天神さんが困ったような顔で首を振った。
「わが主は、剣のことでは……なんというか、少し激することがあるのでな。時折ああなる」
レイフォンが冷静な顔に済まなそうな表情を浮かべて、言葉を濁しつつ答えてくれた。
……あんまり交渉とか特使に向いてない気がするけど。使者の人選を誤っていないだろうか
二人が顔を見合わせて会釈しあう。なんか苦労人っぽいな
「片岡君よ、審判を頼むわ」
「カタオカ、我が力を見ているがいい。そしてお前の王に我がソルヴェリアの戦士の強さをつたえよ」
剣を構えたシューフェンと、長い棒を構えた風鞍さんが向かいあう。
こんなことしてる場合なんだろうか、と思うけど……もう止められる空気じゃないぞ。
しかし……審判はいいんだけど。
この二人の戦いを僕が止められるのかな。いざとなったら檜村さんの魔法で止めてもらおう。
「あのですね、ほどほどにしてくださいよ。一分経ったら止めますからね」
「分かっとるわ。軽ーく揉んでやるだけじゃ」
「安心せよ。花を手折るに全力を出すことは無い」
二人がお互いから視線を切らないままで言う。
もう、どうにでもなれか。
「じゃあ、始め!」
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