第77話 戦い終わって。
全身を一瞬で黒い炭に変えて火が突然消えた……前に見た火の魔法とは違うな。
この人はいろんな魔法を持ってるなと思う。檜村さんが小さくため息をつく
黒い灰が消えて行って大きめのライフコアが残された
壁を覆っていた赤いダンジョンの光が消えて行って、あとには滅茶苦茶になった校舎が残された。
窓に大穴が開いて風が吹き込んでくる。
床にはそこら中に穴が開いていた。なんとも酷い有様だ。
「……これほどの威力の道術があるとは思いませんでしたな」
「少し道術への見方を変えるべきやもしれん」
シューフェンとレイフォンが言葉を交わし合っている
この人たちの国では魔法は使わないんだろうか。
「こいつらは魔法を軽んじているんだ、カタオカ。脳まで筋肉で出来ているからな」
僕の疑問を察したかのようにエルマルが言うけど。
「もう一度言ってみるがいい。言葉が終わる前にお前の眉間と喉と心臓に風穴があく」
「やれるもんならやってみろよ」
シューフェンとエルマルの二人がにらみ合う。
「そういうのは、本当に後でやってくれ」
因縁が色々あるのはもうよくわかった。
ソルヴェリアは魔法が軽んじられている、というか魔法使いの比率が低い国って感じなんだろうな。
確かにさっきの戦いを見ても、身体能力が文字通り人間を超えている。
あれなら魔法を使うより剣で切る方が速い、となっても不思議じゃないか。
「だが、確かに見事な道術だった」
シューフェンが檜村さんを見て言う。
あっさり認めるな。強いものは認めるってことなんだろうか
「しかし、詠唱にあれだけ時間がかかるのは戦闘においては極めて不利な要素だ。戦士も危険にさらすこととなる」
シューフェンがちょっと棘のある口調で言う。
「かもね。でもそんなこと分かってるよ。それを承知で僕は戦ってる」
「私は……片岡君を信じてる」
シューフェンが僕等を見て、その仮面のような表情にかすかに笑みが浮かんだ。
「なるほど。分かった」
◆
「ところで……エルマルやシューフェンは消えないわけ?」
ダンジョンの光は消えて、校庭の方をみると虫の群れもいなくなっていた。
魔討士たちと生徒たちがなにか話したり勝鬨を上げたりしてるのが見える。
死人が出てないといいんだけど。
「我々は独自に門を開けてきているからな」
エルマルが答えてくれた。
なるほど。ダンジョンとは別件なんだな。
そういえば手の中の鎮定も消える気配がない。これもシューフェンやエルマルの門の影響なんだろうか。
「で、さっきイズクラさんが言っていた敵っていうのがあの蟲?」
「そうだ。まあこいつらもそうだがな」
エルマルが横目でシューフェンを見る。それを無視してシューフェンが僕の方を向いた。
「カタオカ、お前ほどの戦士なら王に目通りを求める程度のことはできるだろう。
我らに会うように取り計らえ。我が
レイフォンが懐から豪華に装丁された巻物を取り出した。
今の日本にはいわゆる国を統べる王様なんていない。渡すとしたら魔討士協会になるのかな。
その辺は説明しても分かってもらえなさそうだけど。
「こいつらは、お前の国にも服属を迫ってくるぞ、カタオカ。まったく図々しい連中だ、うんざりだね」
「大局を見れぬ愚か者には分かるまい。今はすべての民が一つの旗のもと、
「じゃあ僕等の国に従えよ、ソルヴェリア」
「蒙昧も極まれりだ。より強く賢き者が統べるのが勝利への近道であり、ひいて万人の平穏のため。そもそも獅子が子猫に従う道理があろうか?」
相変わらず火花が散っている。
ただ、それはそれとして。
「まあなんというか。少なくとも日本、というか僕等の国がソルヴェリアに従うことは無いと思いますよ。協力とか同盟とかならともかく」
「愚かしい。一つにまとまる方がいいということが何故わからぬ。力を持って思い知らせねばならぬのか?」
シューフェンが吐き捨てるけど。
「でも一応言っておくと、力づくできても制圧するのは無理だと思いますよ。僕より強い人は他にもいますし。丁度あそこにも」
校庭にはいまは風鞍さんがいる。
あの人は乙類2位だ。宗片さんほどではないだろうけど、僕よりは強いだろう。
「あの女がか?女風情がお前より強いというのは信じがたい」
シューフェンが首を振る。
そんなことを言っているうちに一階からたくさんの声が聞こえて来た。
何やら指示を飛ばす声と足音。蟲達が消えたから捜索と被害確認って感じかな。
シューフェンたちをあまり多くの人に見られるのは問題ある気がする。
どこかに一度隠れたほうが良いかもしれないとおもったけど。
階段を上る足音が聞こえて来た。
「あたしが先に行くけんの。援護を頼むわ」
聞き覚えがある声と広島弁が聞こえてきて、階段から風鞍さんが姿を現した。
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