第79話 乙類2位と異世界人の決闘が始まってしまう・下
「しゃあっ!」
合図と同時に風鞍さんの八角棒が気合の声とともに突き出された。
速い。風切り音を立てて、重たげな長い棒が次々と突かれる。
ふわっとした動きから隙を見て鋭い一撃を加えてくる宗方さんとは違う
踏み込んで力強い一撃を打ち込む、師匠と同じ系列だけど……より手数が多くて攻撃的だ。
斎会君の槍をバージョンアップするとこんな感じかもしれない。
「兄ちゃん、どうした!」
まっすぐの突きに混ざって時々捻りを加えた突きが飛ぶけど、シューフェンがそれを細い剣で受けて捌きサイドステップでかわす。
あの突きを受けてよく剣が折れないな。
風鞍さんは突き一辺倒だけど、シューフェンもあれだけの突きを浴びせられても後退してない。
まだどっちも本気じゃないって感じだ。
「では行くぞ!」
不意にシューフェンが消えた。長い裾が翻って体ごと横に回り込む。
改めて見ると動きの速さは人間離れしている。外から見てても一瞬どこに行ったか分からないほどだ。
「甘いわい!」
風鞍さんが読み切っていたように大きく八角棒を横に薙ぎ払う。
ど派手な音を立てて廊下の壁がえぐられた。破片と一緒にシューフェンのマントが千切れて飛ぶ。
レイフォンが小さく息を飲むけど、がれきの破片の煙の向こうでシューフェンが伏せて横薙ぎを避けているのが見えた。
あのタイミングで避けるとは。とんでもない反射神経だ。
床から跳ね上がるような切り上げを風鞍さんが一歩下がって躱す。
立ち上がったシューフェンが目にとまらない速さで突きを繰り出した。
風鞍さんが長い八角棒を風車のように回す。金属音が立て続けに鳴って無数の火花が飛びちった。
「おう!」
気合の声を上げて風鞍さんが突き返す。
八角棒が廊下の壁を軽々とぶち破った。壁の緑の掲示板が真っ二つに割れて床に落ちる……これ以上我が校舎を壊すのはやめてほしい。
後ろに飛んだシューフェンが床を蹴って飛び上がった。
三角飛びのように天井を蹴って、体ごと間合いに飛び込む。振り下ろされた棒と剣がかみ合ってまた火花が散った。
弾かれたシューフェンが一回転して着地する。
獲物を狙う狼のように低い姿勢で風鞍さんを睨んだ。
風鞍さんが威圧するように八角棒の先端を突き出す。
さすがに2位は強い。シューフェンのあの速さにもついていっている
……あんな風に動かれたら、僕だとどう戦うだろうか。
しかし、双方ともどのくらいマジなのかわからないけど。こうしてみるとシューフェンは乙類二位くらいなのかな。
とっくに1分経ったかと思ったけど、スマホのストップウォッチを見るとまだ50秒だった。
緊張感を漂わせながら二人がにらみ合う。
頭の中でカウントしていたら、一分経過のアラームが鳴った。
「一分です!」
声をかけるけど、二人ともこっちを見ようともしない。
間合いを測りながら少しづつ距離を詰める。
……もういい加減にしてほしい。
「一刀!薪風!」
二人の間に風の壁が立った
◆
強めの風が転がっている壁の破片だのなんだのを巻き上げる。さすがに二人とも動きが止まった。
しばらくして風が収まって、破片がバラバラと床に落ちる。
「何をする、カタオカ」
「そうじゃ、まだ終わっとらんぞ」
「一分経ちました……終わりです」
二人が不満げに僕を見るけど。
お互いに全力ではないんだろうけど、これ以上続けてどっちかに怪我人が出たら面倒なことになるだろうし。
「つーか高校生に止めさせないでください。二人とも僕より年上でしょうが」
そう言うと、シューフェンが剣を顔の前で立てて構えて一振りした。そのまま鞘に収める。
ふっと空気が緩んだ。
「確かに手練れだ。武器の操作も正確で速く一撃も重い。この国で屈指の戦士というのも頷ける」
風鞍さんも一つ息を吐いて八角棒を下した。
「いや、おんしもなかなかじゃぞ。当ててしまったかと思ったんじゃがの」
風鞍さんがやるなって顔で笑う。
「見事な技だ。女と侮ったことを詫びよう」
シューフェンが一礼した。
さっきの檜村さんの時もそうだったけど、この人は強いと分かれば割と率直にそれを認めるな。
男女とかではなくて、この人の基準は強さなんだろう。
「こっちも頭に血が上りすぎたわ。すまんな。
しかし、狼の耳が生えとる兄さんはみんなそんなに速いんか?そっちの兄さんも?」
「私より速い者はそうはいない」
わりと親し気に二人が言葉を交わし合う。
はたから見るとそれなりに真剣だったように見えるけど、あくまで腕試しだったってことかな。
とりあえず双方に理性があってよかった。
「で、どうじゃ。女が弱いっちゅーのは撤回する気になったじゃろ?」
「女性は守るべき花だ。お前は強いが、それは変わらない」
シューフェンがきっぱりと言って風鞍さんが首を振った。
「まったく
そんなことをしているうちに下からの声が大きくなってきた。
剣と棒がぶつかる音もしたし、壁を壊すは穴空けるわで下にも大いに響いただろうし、もう一階には蟲は居ない。
じきに皆上がってくるな
「一度どこかに隠れましょう」
「そうだね、この人たちのことはあまり公にしないほうが良いだろうからね。それにこの子もそうなんだろう?」
高天神さんがエルマルを見ながら言う。
エルマルが子ども扱いするなって感じの鋭い目つきで高天神さんを見上げた。
「そうじゃの。じゃあ片岡君、どこか人目につかんところに案内してくれや」
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