第34話 決着の時
「大丈夫か!片岡くん!」
「兄さん!」
気が付くと、青い光を発するタイルのダンジョンの天井が目に飛び込んできた。
絵麻と朱音と檜村さんが僕を見下ろしている。
「傷は治したわ、兄さん。痛いところは無い?」
「ああ……大丈夫」
さっきの彼はどうしたんだろう。幻だったのか。
「どのくらい経ちましたか?」
「数秒ほどだ」
檜村さんが答えてくれる。
もっと長い時間に感じられたけど……でもそんなことを考えるのは後でいい
「片岡君!無事なら早く手を貸してくれ!」
伊勢田さんが片手にショットガンを持って球に銃弾を浴びせかけていた。
泡のように浮かぶ球が光ってレーザーが飛んで、伊勢田さんが銃を撃ちながら下がる。あちこちから血が流れていた。
球は相変わらず無傷。レーザーの斉射が止んで空中に悠然と浮かんでいる。
そうだ。寝てる場合じゃない。今は戦闘中だ
鎮定を拾って立ち上がる。
「まだ戦えるか?」
「勿論」
「よし。頼むぞ。もう一度最大火力で壁を壊す……檜村さん、まだいけるか?」
「はい……でも」
伊勢田さんの問いかけに檜村さんが言いよどむ。
壊せる気がしない、と言いたいのが伝わってきた。
さっきの鎮定の言うことを信じるなら、絵麻には
「絵麻……檜村さんに力を貸してあげてくれ、お前にはそういう力があるらしい」
「何言ってんの、アニキ?」
絵麻と伊勢田さんが訝し気に僕を見る。
「アニキ、頭でも打ったの?」
「信じられないかもしれませんけど……この刀が教えてくれたんです。絵麻は魔素を寄せる体質だって」
伊勢田さんがわずかに驚いた表情を浮かべて頷いた。
「いや。それは……信じるに値する。君、彼女に力を貸してあげてくれ」
伊勢田さんが絵麻を促す。絵麻が戸惑ったように檜村さんの手を取った。
「お願いします、檜村さん」
「……任せてくれ、片岡君。君を信じているよ。」
二人が軽く視線を交わす。絵麻が目をつぶって檜村さんがいつものように詠唱を始めた。
「【書架は北西・想像の二列。七十八頁九節。私は口述する】」
「我々で結界を割る……最後は君が決めるんだ」
真剣な顔で伊勢田さんが言う。
「【十層の門は今や潰え、百の鐘楼は悉く地に伏したり。千年の繁栄を謳歌した街に、終焉の時は来た。蒼空に響くは嘆きの歌と勝鬨の声。悲しむべし、過去に於いて終わりなき栄華はなく、未来の於いて崩れえぬ城郭もなし。砕けよ】術式解放!!」
詠唱が終わると同時に、巨大なピラミッドのような三角形が現れた。檜村さんが手を突き出す。
それにこたえるかのように、三角形が傲然と球に向かって突っ込んだ。
耳を打つ衝突音がして空中に巨大な波紋が広がる。
「ハンプティ・ダンプティ!打ち砕け!」
伊勢田さんが叫ぶ。空間から現れたガトリングガンから光弾が結界に雨のように降り注いだ。波紋が大きくなる。
檜村さんが三角を押し込むように手を突き出した。絵麻が歯を食いしばって檜村さんの手を握る。
何かが軋む音とぶつかり合う音、ガトリングガンの甲高い発射音が回廊に反響して耳を打つ。
巨大な波紋が視界一杯に広がって不意に消えた。
「割れた!」
「行け!」
まっすぐに踏み込む。
球が波打ってフラッシュのように立て続けに光った。
避けることはできないし避けるつもりもない。
中央の球が大きく波打って、目の前にわずかに波紋が広がった。
視界の色が少し変わる……淡く光る膜のようなものがまた浮かび上がってきていた……結界だ。
もう一度結界を破るのは厳しい。この一撃で倒さないといけない。
鎮定の力は僕とともにある。
私の力はこの程度ではない、と彼は言った。まだ僕は力を使いこなせていないってことか。
なら。もっと強い力を出せると信じろ。
「頼むぞ!鎮定!」
走りながら刀を振りかぶる。振り上げた刀が重くなったような気がした。
「一刀!断風!」
いつもより強く地面を踏む。まっすぐに鎮定を振り下ろした。耳鳴りのように風の音が響いて、刀に押されるように体が前につんのめる。
風を纏った刀身が、さっきのような柔らかいものを切るような感触に阻まれた。ぱっと波紋が散る。
上から押し込むように力を込めるけど……抵抗はほんのわずかだった。
薄布が切れるように結界が斬れる。
刀身が球に刺さって、そのまま球が真っ二つになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます