第11話

(11)


 影とロボ男を取り巻く風は段々と強くなり、やがてそれは砂嵐になった。


「おい、ロボ男、ちゃんと東に向いてるんだろうな。全然『夜』を引き離せねぇぞ!!」


 影の答えにロボ男が答える。


 #間違いなく正確に東へと進んでおります。恐らく先程言った砂漠の地形の変化が速度を落としているものかと。現在、傾斜26.2度を歩いております。


 ピピとロボ男の反応する音がする。


「くっそー、ヤバイ」


 言ってからロボ男を振り返ったが、影はそのままそこで呆然として立ちどまった。

 その姿を見てロボ男も頭部を90度反転させる。

 すると砂嵐の中をゆっくりとこちらへ向かって進んでくる巨大な黒い闇が見えた。その闇は大きな螺旋を描きながらゆっくりと翼を広げて砂漠に広がっている。


 ――これが『夜』


 影は焦るように歩みを始める。しかし目の前の砂漠の傾斜がそれを阻んで行く。

 

 ロボ男は頭部を元に戻すと『夜』の迫る速度と自分達の速度を計算した。

『夜』の速度は時速20キロぐらい、我々は5キロも無い。互いの距離は1キロほどだろうが、恐らく呑み込まれるのは傾斜を歩けば数分もかからないだろう。


 #影様、おそらくもう数分ほどで『夜』に呑み込まれる計算です。


「ちっくしょう!!」

 影が叫ぶ。

「俺は上海からずっと注意して歩いてきたんだ。こんなとこで『夜』なんかに呑み込まれたくはない!!」

 正確に計算された答えがもどかしい。

「俺は倒れた仲間たちの為にも『ブジ』について『あいつ』に会うんだよ!!」

 ロボ男に向かって吹いてくる風に影の絶叫が届く。砂交じりの風の中に『夜風』の姿がはっきりと見え始めた。これはそれだけ『夜』が迫って来ている証拠だ。


「くそっー」


 影が立ち止まった。

 

 #どうされました?


 ロボ男の声に振り返る。


「ロボ男、力を貸してくれ!!空を飛ぶんだ!!そうすればこの迫って来る『夜』をひとっ飛びに置いていける」

 叫びにも似た声にロボ男は頭部を360度回転させた。

 それから暫し沈黙があったが、やがて答えた。


 #了解しました。それでは私の背におつかまり下さい。


「助かる!!」


 言うや否や、影はロボ男の背に手をまわして身体を密着させた。もう後ろを見れば『夜』が直ぐそこまで来ているのが分かった。ロボ男の四本の手が回転してヘリコプターのように上昇する。

「よし、浮かんだぞ!!」

 それからゆっくりと身体が水平になると加速して一気に空を横に進んだ。


「すごい!すごいぞ、ロボ男!!」

 

 影を背にしたロボ男が加速して空を横に進んでいく。以前、小さな影を拾った時よりスピードが出ていた。

ロボ男の両腕のモーターが激しく回転する音が影には聞こえる。一気に傾斜に沿ってロボ男が進む。吹き荒れる砂嵐の中へ風を受けて進み、すると突然、輝く空が見えた。


 それは太陽だった。

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