11-3.
一行は揃って神社を後にする。メリーさんが迫ってくるであろうコンビニの方向とは逆に位置する裏口から、周りにそれらしい影がないか確認しながら抜け出した。
目指す先は近くの大きな公園。そこに駆人の秘策があるという。
途中で出会った空子を捕まえて、四人でその公園に踏み込んだ。
駆人は遊具の並んでいるエリアまで天子を引っ張ると、手すりのついた水平の円い板を回転させる遊具に乗せた。
栞と空子に役割はないらしく、近くで見ていろとのことだ。
「急に連れてこられて、何が始まるんでしょうか」
「都市伝説退治だって。メリーさんが天子さんを殺しに来るからって」
「まあ大変」
栞が空子に軽くメリーさんについての解説をしていると、駆人達が動き始めた。
遊具の真ん中に出っ張っている棒に天子をしがみつかせると、駆人がその遊具の手すりを持って走り出した。始めはガタガタと揺れながら、次第に速度が乗ってくるとスムーズに回りだす。
「あんなものに姉さんを乗せてどうするつもりでしょうか? バターでも作るんですかね」
「……。ハッ! メリーさんのお話のオチは言ったよね?」
「今、あなたの後ろにいるの。ですね」
「うん。それで、今の天子さんの『後ろ』はどっち?」
空子は遊具に乗せられている天子を注視した。既に気分が悪そうだ。それはともかく。
「ええと、こちら。いえ、あちら? いや、そちら……。どちら?」
見ているこっちの目が回りそうだ。どっちを向いているとは言えない猛スピードで回転している。
「そういうこと。つまり、今の状態に『後ろ』はない!」
「なるほど~」
そして、回転している天子の懐から着信音。すでに半分目を回しながら、なんとか通話ボタンを押した。
「も、もしも……、おえ」
「私メリーさん。今、あなたの……、っ!?」
その着信と同時にメリーさんと思しき、黒いゴシックなドレスを着た金髪の少女が、天子の真後ろ、遊具の上に現れた。
「普通に現れてしまいましたね」
「……」
いよいよ現れた都市伝説、メリーさん。しかし、遊具を回す駆人はその足を止めず、表情も変わらない。これも考えのうちだという風に。
そのまましばらくグルグルと回転を続ける。現れたメリーさんは、外側の手すりにつかまったまま、天子に歩を進めようとはしない。
「どうしたんでしょうか、メリーさん。話のオチまで来たのなら、さっさと姉さんを殺してしまえばいいのに」
「……。ハッ! 分かった! これは『遠心力』!」
「遠心力?」
「回転する物体にかかる力。物を回転させると、外側に引っ張られる力がかかるんだ」
「なるほど! 掃除の時とかに、バケツに水を入れて振り回して遊んでも中の水がこぼれないのと同じですね!」
「空子さん、そんなことして遊んでるんですか」
事実、遊具の上で回転するメリーさんは、栞の推理通りに外側に手すりに貼り付けられたように動かない。動けない。
こうなってしまえば、駆人とメリーさんの根競べだ。駆人が先に疲れて回すのを止めるか。メリーさんが目を回してギブアップするか。
しかし、メリーさんが出現する前から遊具を回していた駆人の額には汗がにじむ。表情も歪んできた。対してメリーさんは余裕の表情を崩さない。
「聞いたことがある。常に回転する訓練を積んでいるフィギュアスケートの選手は、長時間回転しても平衡感覚が崩れることはないんだって。もしかしたらメリーさんも何かしらの事情で回転することに対して免疫があるのかもしれない……」
「そんな……」
神妙な顔の二人が見つめる中、遊具の回転は続く。
真夏の太陽が駆人の体力を着実に奪っていく。俄かに回転速度が緩んできた。
遂にその時がやってきた。
「ギブ、アップ……」
顔を真っ青にしたメリーさんが白旗をあげた。
「大して長くもちませんでしたね」
「……」
回転が止まった遊具の上。メリーさんは観念したのか、目が回ったのか、その場にぐったりと座り込んでいる。
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