11.ビハインドアワー~都市伝説背後譚~
11-1.ビハインドアワー~都市伝説背後譚~
「暇じゃなあ」
「ですねえ」
いつものように神社の居間に寝転がる駆人と化け狐の天子が、いつものように誰にともなく呟いた。
神社に来てももう目新しいこともない。適当にテレビでも眺めるか、神社の家事を手伝わされるか。それで都市伝説出現の報が出れば二人して出向くか。
しかし、最近は都市伝説の出現も少なくなってきたので、そのまま一日が終わっていまうことも多い。ここに出入りし始めの頃は、天子と一緒にいるだけでも多少はドキドキしたものだが、本性を知ってしまうともうこうだ。
「暇じゃからカルトでも叩いて遊ぶか」
「やめろ!」
「でも暇なものは暇じゃ。いつもは仕事なんてしたくないと思うものじゃが、こういう時は電話がジリリと鳴って『天子様助けて~』なんて言われるのが恋しいのう」
天子は話の間に入れる効果音のチョイスがいちいち古い。この家にもそんな音の出る黒電話はないのに。
それはともかく、駆人も天子の考えには共感する部分がある。この夏の都市伝説退治は、駆人の中で十分に日常と呼べるレベルで生活に侵食していた。
それこそ自宅にいるときでもいつ電話が鳴るものかと半分怯えて、半分楽しみにしていた。そういつでも鳴られても困るが、こう暇が過ぎるときにはそういう電話の一本でも……。
トゥルルル……
そう。こうやって……。って、本当に来るとは。
「あ、わしの電話じゃ。む? 非通知か。もしもし」
天子は電話に出たものの、何度かもしもしという以外は特に言葉を発しない。しばらくそのまま待つと電話を切ってしまった。
「無言電話じゃ。いたずらかのう」
「そうですか」
期待外れのような、ほっとしたような。
それからまたゴロゴロとしていると、再び天子の携帯電話が鳴った。
「また非通知じゃ。もしもし」
「わ……。……、え……。」
電話のスピーカーからノイズに交じって小さな声が聞こえる。ただそれも会話をしようというのではなく、またも一方的に切れてしまった。
「なんじゃ。何か声のようなものが聞こえたが」
「はい。興味深いですね」
いつもなら非通知着信をオフにするところだが、今回ばかりはこれすらも暇つぶしの対象にしてしまう。また来ないか、などと考えながら二人で携帯電話を注視する。
「とは言えじゃ。ただ待つのも面倒くさいのう。こちらからかけてみるか」
「非通知なのにどうやってですか」
「ああ、そうか。面倒くさいのう」
言っているうちに三回目の着信。耳を澄ませて備える。
「もしもし」
「……メリー……。今、駅前……」
そこで切れる。二回目よりノイズが薄くなり、少女のような声が聞こえた。
「なんじゃ? メリーとか言っていたが。クリスマスにはちと気が早いぞ」
天子はまだ何も気づかずにおちゃらけているが、駆人は軽口を言う気にはなれない。なぜならその名前、そして電話を介してくることに心当たりがあったから。
それを言い出す前に四回目の着信。駆人が止める前に、天子が通話を始めてしまった。
「もしもし」
「私メリー……。今、スーパーマーケ……、るの」
切れる。今度こそ、駆人は確信した。
「なんじゃ? 自分の名前を言うとったのか? それにスーパーがどうとか」
「天子様。今の電話の相手は、都市伝説です」
「な、なんじゃって?」
「その名も……」
そこでいったん言葉を切って、見栄を切る。
「メリーさんの電話!」
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