10-3.

 いかにもレトロなラーメン屋。三人はくすんだ木のテーブルについた。

「醤油ラーメン三つでいいか」

「私はチャーシューメンがいいです!」

「わしも!」

「……。好きにしろ」

 注文した品が来るまでの時間、天子は脇に置いてある本棚に目を付けた。店がレトロなら、置いてある漫画や雑誌もなかなかレトロ。その中の一つに目が留まる。

 『オカルトマガジン メガラニカ』? 面白そうだ。

 中をパラパラとめくってみれば、心霊写真とか、新種の古代生物とか、あることないことをさも真実のように書いている。天子達にとっては全くないこととも言えないのだが。

 その中に一つ、気になる見出しがあった。

「二人共、この雑誌を見るがいい」

 テーブルの上に雑誌を広げて、三人でのぞき込む。

「なになに? 『ミステリーサークルは宇宙人からのメッセージ』ですか?」

「おいおい。この写真は」

 広げられたページには、いかにもな宇宙人のイラストと共にさっきまで見ていた地上絵と同じような物が写っている写真がいくつも並べられている。


『ミステリーサークルは宇宙人からのメッセージ』

 ほとんどの人には知られていないが、この地球には外宇宙からの来訪者が日常的に訪れている。夜空を横切る光る宇宙船は言うに及ばず、なんと地上にも我々に向けたメッセージを残しているのだ。

「ある夜の事でした。私が深夜に目覚めると窓の外に光が降りてきました。慌てて外に出るとその光はそれに飛び去ってしまったのですが、私の農場にこのミステリーサークルが残されていたのです。これを私は宇宙人からのメッセージだと思っています。そのメッセージに従ってこのネックレスを買ったら、宝くじは当たるは、彼女はできるは。人生バラ色です」

 彼の下に舞い降りた光こそ、この地球にやってきた宇宙人に他ならない。因みに彼の買ったネックレスがこちらである……。


「眉唾物どころの話じゃないな」

「ですが、この話の真偽はともかく、私達が見た地上絵と同じ物というのは興味深いですね」

 その写真の解説を見る限り、どうやらその『ミステリーサークル』の構造は実際に天子達が見たあの地上絵と同じらしい。

「それに、次のページを見てみろ」


『牛の変死体 キャトルミューティレーションの犯人は宇宙人』

 数十年前、アメリカで牛の怪死体が発見される事件が度々あった。怪死体というのも、その死体からは全ての血が抜き取られていたのである。しかもその全てが一夜にして起きた事件なのだ。

 とても自然現象であるとも思えないし、人間の仕業であるとも思えない。であれば、犯人は誰なのか?

 そう。宇宙人である。

 地球の生物を研究するために、宇宙から来た宇宙人が宇宙船に牛を連れ去り、血液のみを研究材料として抜き去り、要らなくなった死体は元の場所に戻したのだ。律儀に。

 これをキャトルミューティレーションと呼ぶ。

 これは地球侵略の第一歩で、人間と同じ哺乳類である牛を研究することで、人間に対する有効な侵略手段を開発しているのだ。


「輪をかけてやばいな」

「ですが、血を抜き取られたという所には今回の事件との共通点を覚えますね。今回の牛さんは死んではいないですけど」

 雑誌に書いてある限りでは、牛の怪死事件自体は実際に起こっていたことのようだ。そこからの考察は荒唐無稽にも程があるというものだが。

「つまり、これと同じことがあの牧場で起きていると?」

「うむ。わしが思うにじゃなあ……」

「へいラーメンお待ち」

 天子が口を開こうとした瞬間に、ラーメンが卓に置かれた。

「おお、きたきた。おいしそうじゃなあ~」

 天子の思考は完全にラーメンの方へ。広げていた雑誌を素早くたたんで元の本棚へ。御飯を食べるときには食卓に他の物を置いてはいけないのだ。

 たっぷりのチャーシューが乗ったチャーシューメン。懐かしい香りのスープに、ありきたりな感じの麺。どこででも食べられそう。だからいい。それがいい

 夢中になって麺を啜る天子を前に、これ以上ここで話し合うのは無理だと悟った誠と真紀奈も続いてラーメンをほおばった。


 結局ラーメンに夢中になって作戦会議はできなかった。ただ、面白そうな情報を入手することだけは何とかできたかもしれない。車の中で改めて話し合う。

「でだ。天子様、これからどうするんだ」

 結局支払いを押し付けられた誠が天子に聞いた。

「あの話は確かに現状と似ていたが、だからと言って犯人につながるわけでもないだろう」

「そうじゃなあ。だが、あのラーメン屋でもうひとつ面白いことが分かった。壁に地図が掛けてあったろう」

「気づかなかった」

「じゃあ、持ってきた地図があるよな? それを広げろ」

 後部座席に広げられたこの辺りの地図。天子はペンを取り出すと、これまでの事件があった場所に印をつけた。一件目、二件目、三件目……。そしてその印を線で結ぶ。

「ああ! 一直線に並んでいる!」

「そうじゃ。そして、その先は……」

 先を伸ばした先には、まだ事件が起きていない牧場。更にその先には街が広がっていて、もう牧場はない。

「つまり、今夜も事件は起こり、それで最後という事じゃ」

「なるほど。これから事件が起こる場所に行けば、誰の仕業だろうと現行犯でとっ捕まえることができるってわけか」

「そういうことじゃ。さ、車を走らせてくれ」

「あいよ」


 次に事件が起こるであろう牧場に到着した一行は、牧場主に許可を取って、牛舎の近くの納屋に隠れることにした。ここで何者かが牛を連れ去る深夜まで待つ。少々ほこりっぽいが、文句は言っていられない。

 遂に日が落ちて辺りが暗くなってきた。もうすぐその犯人とやらが拝めるかもしれない。しかし、天子は緊張でも期待でもなく、落胆の表情を浮かべていた。

「どうしました、天子様」

 真紀奈が並んでしゃがむ天子に、なるべく小声で話しかけた。

「さっきまでどんな奴が犯人かと楽しそうにしてたじゃないですか」

「ん? ああ。さっきな、ミステリーサークルとかキャトルミューティレーションのことを電話でカルトに聞いてみたんじゃ」

「ああ。駆人さんそう言うの詳しそうですからね」

「うむ。そしたらな。どちらも宇宙人は関係ないと言うんじゃ」

 駆人が言うには、今までのミステリーサークルは全て犯人が割れているのだそうだ。大抵はいたずらで作っており、その製法もごく単純。知識さえあれば一晩で作るのは難しくないそうだ。

 キャトルミューティレーションは自然現象。何らかの形で死んだ牛の血液は、外傷や腐った部分から自然に流れ、地面にしみこんで分からなくなるのだそうだ。

「つまり、今回の事件には……」

「宇宙人は関係ないという事じゃ。はあ、せっかく宇宙人が見れると思ったのに」

 大きなため息をついた天子は、その辺に置いてあった棒でいじいじと地面をいじった。見かねた誠が天子の肩に手を置く。

「いいじゃないか。宇宙人ならむしろ対処に困る。こっちも情報を手に入れてな。この辺りでヴァンパイア、つまり吸血鬼の目撃情報があったそうだ」

 吸血鬼。主に人の血を吸うお化けだ。牛の血も吸うのだろうか。

「ちゃんとそれ用の道具も買ってきたぞ。十字架に、ニンニク。あと水鉄砲」

 どれも伝承にある吸血鬼の弱点とされる道具。確かにそれがあれば吸血鬼相手なら楽勝だ。

 ただ、天子としては腑に落ちない部分もある。牛の血を吸う吸血鬼など聞いたこともないし、それならそれとして、わざわざ牧場を渡り歩いて味見程度に血を吸う必要があるのだろうか。それにミステリーサークルは……。

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