8-3.

 連れてこられた城は西洋風の立派な城だ。城下町もいかにも西洋ファンタジーな景色が広がっている。しかし、空には厚い暗雲が立ち込め、町には活気がない。危機が迫っている……、というか、景気が悪いのは事実なのだろう。

 そのまま通されたのは、城の謁見の間。玉座にテンコ姫が座る。

「さて、勇者様。魔王退治に何か必要なものはありませんか」

 必要なものと言っても、普段着に羽子板だけではあまりに心もとない。

「ええと。取り合えず武器か何かが欲しいです」

「都市伝説の剣をお持ちではありませんか」

「羽子板じゃしょうがないでしょう。なにか『王家に伝わる聖剣』とかないんですか」

「王家に伝わる剣……。クウコ。あれをお持ちしなさい」

 テンコがパンパンと手を叩くと、いかにもなメイドさんの恰好をした空子そっくりの従者が、なにやらカードのようなものを盆に乗せて持ってきた。

「空子さん……、ではないんでしょうね。それで、このカードは?」

「一年間この城に入り放題になる券です」

 テンコは自慢げに答える。

「このお城年間パスポートあるの!? これは剣じゃなくて券だし!」

「来るたびにソフトクリームももらえますよ」

「いらないから!」

「そうですか。それでは魔王退治にお供を付けさせましょう」

「なんか桃太郎みたいになってきたな……」

 ぞろぞろと何人かが部屋に入ってきて一列に並んだ。全員見知った顔だが、例によって本人ではないのだろう。

「最初は吟遊詩人のポンキチ。彼の歌の才能は素晴らしく、彼を連れていけばあなたの活躍は永遠に歌として語り継がれるでしょう」

「よろしくな」

 きらびやかな衣装の少年がクールに笑う。

「続いて宮廷画家のシオリ。彼女の絵の才能は素晴らしく、彼女を連れていけばあなたの活躍は永遠に絵画として残されるでしょう」

「よろしくね」

 芸術的な衣装の少女が華やかに笑う。

「更に大道芸人のマキナ。彼女はお手玉が上手いです」

「どうぞよろしく~」

 道化師の化粧をした少女がお手玉を見せてくれた。

「そしてラーメンの専門家のマコト。」

「うっす。よろしく」

 黒Tシャツに頭にタオルを巻いた男性が最後に名乗った。

 実にきらびやかで個性的な面々が……。

「きらびやかなだけじゃないか! 戦いに役立つのが一人もいない!」

 これから魔王退治に行こうという面子ではない。最後に至っては何ができるかすら紹介されていない。

「何かの役には立つかもしれませんよ」

「そりゃ……。剣の達人とかいないんですか?」

「すいません今ちょっと出払っておりまして……」

 こんな芸術家(?)をぞろぞろと行ったところで何かの助けになるとはとてもではないが思えない。

「流石にこの人達には任せられないんで、僕一人で行きますよ……」

「ああ、なんて勇ましい心意気。あなたこそまさに勇者! 是非その魔王退治を私に見届けさせてください」

「え。ついてくるんですか」

「はい。こう見えても私には魔術の心得があります」

 自信に満ちた面持ちだが、そんなに簡単に王女が城を離れて、どころか敵の首魁の下へ打ち込むのはどうなのだろうか?

 そうして結局ほとんど何も得られないまま城を後にする。城下町の門では、あふれんばかりの兵士達が見送りをしてくれた。

「え!? あの兵士達はついてきてくれないの!?」

「兵士が外に出たら、誰が城を護るんですか」

「一大事なんだから、多少は出してくださいよ」

 そういうもんだから、とテンコに背中を押されて、勇者駆人は魔王城へと旅立った。

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