7-2.

 それからは天子の言うとおりに四人で遊ぶことにした。

 ビーチボールを天子にぶつけたり、天子にぶつけたり、天子にぶつけたり、駆人を首だけ残して埋めたり。

「きゃっきゃ」

「うふふ」

 しばらく遊んでいると、波打ち際の天子が小さく悲鳴をあげた。

「大丈夫ですか?」

「何か踏んだようじゃが……。ま、大丈夫じゃろ。次はぽん吉を投げて遊ぼう」

「やめろ!」


 それからまたしばらくすると、ぽん吉と駆人は海の家に呼び戻された。

 駆人はかき氷機につかされる。昼食が終わってそういう甘いものが売れる時間らしい。

 集中してかき氷を作る。がしゃがしゃと削られ降り積もる氷できれいな山を作るのだ。こんなもの買い求める人は見た目と冷たさしか望んでいないのだから。

 ところで、かき氷のシロップは、色と香りが違うだけで味は全く一緒らしい。だが、香りが違ったら味が違うと言っていいのではないのだろうか。それとも……。

「おい」

 鼻をつまんで食べたら魚の刺身の種類を判別できないともいうし……。

「おい、駆人!」

 はっ、と我に返った。すわお客さんかと身構えたが、目の前にいるのはぽん吉だ。

「ああ、なんだ。ぽん吉さんでしたか。何味にします?」

「俺はスイにしてもらお……。じゃねえ! ぼーっとし過ぎだ。気づかねえのか?」

 何にだろうか。シロップの味についてだろうか。

「あ、売り上げが少ないことですか? あんまりお客さん来ないですね」

「……。まあ、そういうことだな。ちょっと周り見てみろ」

 言われて首をあげて回してみる。

 人が随分と少ないようだ。時刻は三時手前、確かに帰り始める時間ではあるが、ここまで人が少なくなるという事もないような。

「いつもはもっと人がいるそうだ。何かおかしいぞ」

 そういわれると不穏な悪寒がわいてくる。心なしか日も陰ってきたような……。

 まばらになった人の中に、空子がきょろきょろとしながら歩いているのを見つけた。彼女もこちらの視線に気付くと近づいてきた。

「どうしたんですか空子さん。失せものですか」

「ええ。姉さんが十分ほど前から見当たらなくて……。どこに行ったのでしょう」

「見てないですね。落とし物箱は見ましたか」

 天子なら遠目からでも目立つし、この閑散とした砂浜で見つからないわけがない。どうせ客も来ないしと、駆人とぽん吉も店番を抜け出して共に捜索することにした。

 本当に様子がおかしい。砂浜のあちこちにはシートとパラソル、その下の荷物も置きっぱなし。その数と見える人数が明らかに釣り合わない。まるでいきなり消えたかのような……。

「おい、あれを見ろ」

 ぽん吉が指さした方、磯の方に目を向けると海水浴客の一団がこちらへ歩いてくるのが見える。

「なんだ、みんな揃って磯遊びでもしてたってのか?」

 だが、何か様子がおかしい。その中の一人に話を聞こうとぽん吉が近づくと、その腕を大きく振るって攻撃してきた。

「うお。何だってんだこいつら」

 ふらふらと覚束ない足取りでこちらへ向かってくるし、目は虚ろだし、腕を前に伸ばしているし。まるで映画のゾンビのよう。

「何かに操られているのでしょうか」

 そのゾンビ染みた海水浴客達は、なおもこちらへ危害を加えようと腕を振るい続ける。それこそ、ゾンビが仲間を増やすために犠牲者を作ろうとしているように。

 彼らの攻撃を三人が交わし続ける中、二人の後ろに隠れ気味の駆人がそいつらの体に何かを見つけた。

「二人共あれを見てください。あの人の足首のあたり」

 駆人が指す場所の皮膚に、なにやらごつごつとしたものがついている。

「ありゃなんだ? 石か?」

「貝殻のようにも見えますが」

 よくよく見てみれば、他の人達にも体の部位は違えど、どこかしらにそれがついている。

「いや、あれはフジツボだ! こんな都市伝説を聞いたことがあります。『海で怪我をするとそこからフジツボが入り込んで、体の中で成長してしまう』と」

「そりゃ興味深い話だが、この状況とどう関係あるんだ?」

「つまり、あの人達は体に入り込んだフジツボに寄生され、思考を支配されたいうなれば、フジツボゾンビなんですよ!」

 駆人は大げさな抑揚をつけて言った。

「な、なんだって~!」

 空子とぽん吉はつられて大げさに驚いて見せた。

 そのフジツボゾンビ達は、新たな宿主を作るために、健康な人を傷つけフジツボを寄生させようとこちらを攻撃してきているのだ。ああ恐ろしい。

「筋は通っているように思えますけど、そんなことありえるんですか?」

「それはなんというか、いまさらと言うものでしょう。それより、ゾンビ達が皆、磯の方から来ているのが気になります。あちらに何かあるとみていいでしょう」

 磯の方からやってくるゾンビ達の数は一向に減る気配を見せない。増える要因があちらにあるのかもしれない。

「それは構わんが、こいつらはどうするよ。すり抜けて行くのは難しそうだが、かといってぶっ倒すって訳にもいかねえだろ」

「大丈夫です。狐火ーム!」

 空子がいきなり手のひらから赤い光線を放ってゾンビの一体を撃ちぬいた。ゾンビは仰向けに倒れてピクリとも動かない。

「ちょ、話聞いてたか!?」

「安心してください、ぽん吉君。この狐火ームを赤い光にすると、麻酔銃になるんです」

 この人もこの人でなかなかハチャメチャだ。駆人とぽん吉は内心そう思ったが、口に出すのはやめておいた。

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