6-2.
都市伝説の気配などと言っても、さっきの二つは眉唾の嘘テクニックみたいなものだ。それと同じものがオカルティックな感性で見つかるとも思えないが……。
二人はそのレトロなゲームが並ぶスペースをあちこち歩きまわってみることにした。ゲームが古い物なのは一目瞭然なのだが、よく見ると床や壁などの内装もかなり年季が入っているように見える。手前のプライズゲームなどのエリアは淡い色合いを使った清潔な雰囲気だったのに、ここはあちこち黄ばんでそれこそ年季が入っている。
駆人はこういったレトロゲームには多少興味があるので、歩きながら画面を見てみる。
多くのゲームで、待機画面のタイトル表示とハイスコアのランキングが交互に行われていた。ランキングの下位はきっちりした数字のデフォルトのスコア。ただ、一位は断トツでスコアが高い。プレイヤーが出したものだろう。周りのゲームも見てみれば、ほとんどのゲームで同じ名前のプレイヤーが一位を取っている。これは……。
「七生君はこういうのってやるの?」
「いや、ここまで古いのは流石に」
「ふーん。あ、アレやろうよ」
手持無沙汰に歩いていた栞が指さした先にはプリントシール機があった。しかし、周りにあるゲーム筐体と同じくかなり色褪せている。プリントシール機が世に出たのは二十年以上前、その時代の物に見える。
「入口の方に最新式のがあったでしょ。あっちの方がきれいに写るんじゃない」
「えー。でも、こんな機械見たことないし。記念に取ってみようよ」
半ば強引に押し切られ、その機会の前に並んで立つ。
最近の機械とは違い、完全にボックスになっていないどころか、軽い仕切りすらない。画面は小さく、その前にいくつかのボタンが並んでいる。
「え~とここにお金を入れて……。あ、もう撮るんだ。笑って笑って。はい、チーズ」
「チーズ」
パシャリとフラッシュ。
「後は……、フレームを選べるんだ。ハートにしちゃお」
いくつか操作すると、画面に印刷中の文字。しばらく待つと、取り出し口に撮影した写真がいくつも並んだものが出て来た。
「古いからどうかと思ったけど、結構よく撮れてる……、あれ? ひゃっ!」
ニコニコと写真を眺めていた栞が、突然その写真を投げ出す。それを駆人が床に落ちる前にさっと捉えた。
「おっと。どうしたの急に」
確かに古い写真機にしてはよく撮れているようだ。特に問題ないようだが。
「し、下の方……」
「下?」
言われて下の方に視線を移すと、縦二列に並んだ右下の写真が黒くなっており、なにやら白い人型の影が浮かんでいるように見える。
「なななななななななお君。それって、おば、おばけ……」
「なが多いよ」
確かにそうとも見えるが……。
「機会が機械だしちゃんとメンテナンスが行き届いてなかったのかもしれない。何かの不具合でたまたま人の形に見えるだけだよきっと」
「そ、そうかな」
「うん。そこだけ切り離せばいいんじゃない。気になるならこれは捨てて、それこそ最新の機械で撮り直そう」
「そう、だよね。うん」
それから間を置かず二人を呼ぶ真紀奈の声が聞こえてきた。どうやら件のシーンまで進んだらしい。
真紀奈の所に戻ってみれば、ちょうど二十五週目を突破するところのようだ。真紀奈の動かすキャラクターが単調な動きでボスを倒すと、簡素なエンディングの後、二十六週目がスタート。
しかし、グラフィックは今までと変わらない。普通にステージが進んでいく。
「あらら~。やっぱりこの都市伝説も嘘テクニックでしたね~」
真紀奈はやはり予想通りと言う風にこともなげにそう言い、操作をやめてゲームオーバ-にしてしまった。
「残念残念~。次はどのゲームで遊びましょうかね~」
真紀奈が立ち上がって次に遊ぶゲームを探そうとする。
「真紀奈ちゃん、今遊ぶって言ったよね」
「ギクリ、そんなこと言いましたか~?」
「言ったよ!」
栞と真紀奈がにぎやかに言葉を交わす中、駆人は静かに別のゲーム筐体の前に座った。
「このゲームやってみようかな」
選んだゲームは『スクリームファイター2』。対戦型格闘ゲームの元祖ともいえる作品だ。現在にも最新作が出続けている大人気シリーズの二作目。出た当初にはあちらこちらで行列ができるほどの作品だった。
「それですか? 『真空投げ』は本当のテクニックですよ」
「……」
硬貨を入れてゲームスタート。コンピューターを相手に次々と勝ち抜いていくモードが始まった。駆人が選んだキャラクターは空手の道着に鉢巻を付けた男。パンチやキック、必殺技を駆使して相手を倒していく。
「駆人さん結構上手いですね。やったことあるんですか?」
「家に古いゲームも結構あってね。よく付き合わされたんだ」
勝ち進んで次の相手と戦っている時、急に画面が暗転。挑戦者が現れた、と表示がなされる。
「あれ? どうなったの?」
「これは乱入システムですね。他のプレイヤーさんと一緒に対戦して遊べるんです」
試合がはじまった。相手も駆人と同じ道着に鉢巻のキャラクター。一進一退の攻防が繰り広げられる。相手もなかなかやるようだ。
「へ~。インターネット対戦?」
「そんなわけないじゃないですか。これは二十年も昔のゲームです。遊べるのはつながっている台とか、せいぜいお店の中……。あれ?」
この古いゲームのエリアには駆人達の他には遊んでいる人はおろか店員すらも人っ子一人いない。
「え、それって……」
背筋に冷たいものが走る。栞は慌てて辺りを見回すも、見える部分には誰もいない。
ゲーム画面では互角に戦っていた駆人がだんだん押され始め、ついには一本取られたところ。続く第二試合は手も足も出ず、一気に押し切られ、二本先取で相手の勝ち。
「つ、強いな」
「連コインしますか?」
真紀奈が懐から沢山百円玉の入った小銭入れを取り出した。いよいよ遊ぶ気満々だ。
「言ってる場合か! 対戦相手は結局誰なの!?」
「僕が思うに……。何か、幽霊のようなものがここにいるんだと思う」
「ひええ怖い。じゃあ、さっさとこんな所出ようよ」
「それは僕も思ったけど……」
「じゃあ早く!」
駆け出した栞は出口に向かって一直線に……。そこは壁だった。じゃあ、こっちに……。ここも壁。あっちも、そっちも。
四角いこのエリアの四方全てが壁で囲まれている。
「どどど、どういうこと!?」
「やられてしまいましたね。これは……」
真紀奈はそこで言葉をいったん切って、大きく見得を切る。
「ゲームで勝たないと出られないゲームセンターです!」
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