5-4.end
数日後。駆人は病室のベッドで手持無沙汰に寝転がっていた。
あの後、すぐに目を覚ましたのだが、大事を取って数日入院することになった。元気なのにあまり動けないのは所在がない。
ぼーっとしていると、病室の扉が開いた。
「よっす。元気にしちょるか」
いかにもなじみの店の暖簾でもくぐるような調子で天子が入ってきた。空子も一緒だ。
「はい。おかげさまで」
「都市伝説に連れ去られたと聞いた時はビックリしましたけど、大丈夫そうですね」
「ほんの数分程度でしたからね。ピンピンです」
検査の結果も全く問題なかったという事だった。でもせっかくだからと空子がお見舞いの林檎を剥いてくれるらしい。役得だ。
「はい。あ~ん」
「でへへ、いいんですか。あ~ん」
「元気だと言ってたじゃろうが。自分で食え」
デレデレ顔の駆人が林檎をほおばるのに夢中になっていると、再び病室の扉が開いた。
「入るぞ。む」
入ってきたのは誠と真紀奈の怪対課コンビ。緩み切った顔を駆人を見て動きが一瞬止まった。
「あらら~。お楽しみ中でしたか」
「あ、いや。これは」
「続けててもいいんだぞ」
駆人は二人の視線に耐え切れずに、空子の持っていた林檎を手で受け取って一口かじった。そして、話題を逸らす。
「あの……、それで、何か御用事ですか」
「ああ。件の事件の他の被害者が全員意識を取り戻したからそれを報告しに来た」
質問テレフォンに引きずり込まれた被害者は、携帯電話と繋げて作られた怪奇空間に閉じ込められていた。奴はその中で人間の生気を吸い取り、糧としていたようだ。駆人達が対峙したときには既に十分な生気を吸い取っており、その分で二本の腕に増え、二人を同時に襲ったというわけだ。ゆくゆくは更に強い体を作るつもりだったのだろう。
一番早くさらわれた人で数日間そこにいたわけだが、重い栄養失調状態であったものの命に別状はなかったようだ。
「出て来た時は大変でしたけどね~。被害者の方の携帯電話は一カ所に保管していたんですが、二人が奴を捕まえた時に、折り重なるように積みあがっちゃったそうで」
真紀奈が大げさな身振り手振りを交えて話す。
「それはそれは……。ところで、怪奇現象犯罪の犯人ってこれからどうなるんですか? やっぱり殺しちゃうんですか?」
「いや、よほどのことをしたか、よほど聞き分けがないかでない限りそういうことはしない。今回の犯人も多数の被害者は出したが、幸いと言うか死者は出なかった。だから、社会奉仕で罪を償ってもらう」
「社会奉仕?」
「ペンを持たせてみたらなかなか達筆でな。警察で書記として働いてもらうことにした」
「結構働き者さんのようですよ~」
虚空から生えた腕がペンを走らせている様子を想像するとなかなか不気味だ。だが手だけの存在ならそれが天職と言うものかもしれない。
「腕だけの書記か。なかなか便利かも知れないのう」
「ああ。それに喋らないからな。うるさくなくていい」
冗談めかしているが、その目は笑っていない。
「ま、なんにせよ。君のおかげで事件が解決できた。また何かあれば、よかったら力を貸してほしい」
誠はそう言って手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
駆人がその手を握り返す。事件が解決した実感がわいて、少し誇らしい気分になった。
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