5-2.

 そんな雑談をしばらくしていると、誠が呼びに来た。事件の概要を説明してくれるらしい。それっぽいテントの下にある、この辺りの地図を乗せた机の周りに三人が並んだ。

「さて、それじゃあ君に協力してもらう事件の概要を説明しよう。この辺りで失踪事件が多発している。単なる行方知れずや誘拐であれば我々の出る幕はないんだが、目撃者の情報によると、歩いている人が突然消えたとか、誰かと会話している風だったのが突然その声が聞こえなくなったとか。超常的なことが起こっているのは間違いないらしい」

「そして、その被害者達に共通していることがあって、消える直前まで携帯電話で通話をしていたようなんですね。公衆電話からかかっていることしか分からないんですが……」

「俺達はその通話の相手が犯人ではないかとにらんでいる。つまり……」

「都市伝説。ということですね」

 誠が親指と人差し指を立てた手で駆人を指して肯定する。

「如何せん我々も都市伝説に対しては経験が少なくてな……。何か心当たりはないか」

 そう言われても、出てきたワードは携帯電話と突然消えることくらい。これではいくらなんでも分からない。駆人は首を横に振った。

「そうか。だったら現行犯逮捕しかないな。この失踪事件はここ毎日同じ時間にこの辺りで起きている。そこでの張り込みを手伝ってもらいたい。少々危険だが……」

「もちろん、やりますよ」

「そうか、ありがとう。二手に分かれるから君は天子様と行ってくれ」

「責任重大ですね」

「大丈夫ですよ~。天子様はこういう事件にも慣れてますからね」

 天子はあれでプロの怪奇ハンターだ。信頼に値する。

「分かりました。……、その天子様は?」

 話に出した途端、天子が速足でこちらに向かってきた。腕にはビニール袋を提げている。

「いやすまんすまん。ちょいと並んでてな」

「何か買って来たんですか?」

「あんパンと牛乳じゃ。張り込みにはひちゅじゅひんじゃろ」

 なるほど慣れている……、のか?


 二手に分かれたうち、天子と駆人は被害者に電話をかけてきた電話ボックスを目指して歩き始めた。この辺りには二つの電話ボックスがあり、そのどちらかから電話がかけられているようなのだ。

「こっちの道のようですね」

「おお、雰囲気あるな……」

 事件が起こる時間というのが夕刻なので、辺りは薄暗くなり始めている。

「振り向いたらダメとかないじゃろうな」

「地図に載ってる道だから大丈夫ですよ」

「それなら安心じゃな。……、そうなのか?」

 住宅街の奥地、崖の下のような所を目指して二人は歩き続ける。

「今回の都市伝説について心当たりはないのか?」

「携帯電話というだけではなんとも……。時代的に数が多いですから」

「なるほどな。何か思い当たることがあれば何でも言え」

 しばらく歩くと、漸く目的の電話ボックスが見えてきた。周りに比べて輪をかけて薄暗い中、一本の街頭によって照らされるそれは、思った以上に不気味だ。

「よし、そこの少し離れた角から見張ることにしよう」

 その時まではまだ少々ある。二人は角から頭を縦に並べて出して見張ることにした。

「本当にここに来るんでしょうか」

「来るかもしれんし、来んかもしれん。候補の電話ボックスも二つだしな。未知の方法で電話をかけているとなったらお手上げじゃが」

 天子は気だるそうにそう言うと、懐からあんパンを取り出して口に運んだ。

「もう食べるんですか」

「腹が減った時に食べんでいつ食べるというのじゃ。お主も食うか」

「いえ……」

 バクバクとすごい勢いで食べ終わってしまった。本当におやつとして持ってきたらしい。恰好付けよりはましか。

「ところで、なんで張り込みと言ったらあんパンなんでしょうか」

「それはじゃな。昔、あんパン屋さんが自分の店に警官が立ち寄るようにと割引をしてじゃな……」

「それ、アメリカのドーナツ屋の話ですよね」

「なんじゃ。知っておったのか。あんパンについては、まあ、片手で食べられるとかそんなところじゃろう」

「ふうん……」

 そんなことを言っている間に、そろそろ例の時刻だ。いっそう集中して電話ボックスとその周辺を見張る。住宅街の奥地だけあって、人通りはほぼない。誰か来れば分かるはずだが……。

「お主、公衆電話って使ったことあるか?」

「なんですか急に。使ったことないですね。小さい頃から携帯電話持ってたんで」

「かーっ、現代っ子め! わしが若い頃はポケベルを使うてなあ……」

「ポケベルがあったころももう若くないでしょう」

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