5.クライムアワー~都市伝説通話譚~

5-1.クライムアワー~都市伝説通話譚~

トゥルルル……

 夕食が終わったころ、家の固定電話から着信を知らせる音が鳴り響いた。

「もしもし」

「七生さんのお宅ですか。駆人君はいますか」

 電話の向こうからは聞きなれた声。この丁寧な話し方は……。

「空子さんですか? 駆人です」

「おお、なんじゃ、カルトじゃったか。わしじゃよ、天子じゃよ」

 向こうの声の口調が急に砕ける。声の高さも数段落ちた。

「ああ、なんだ。天子様でしたか……」

「露骨にがっかりするでない。明日の事なんじゃが、神社じゃなくて別の場所に来てもらえるか」

 大丈夫だと答える。近所で事件が起こったのでその解決に協力してほしいのだとか。

「よし、じゃあ頼んだぞ。ではな」

 ガチャリと電話が切れる。天子は電話口だと声が高くなるらしい。笑える。


 翌日。昼過ぎに駆人は天子に指定された自宅から近くのコンビニに到着した。天子の姿はない。場所を間違えたかと思ったが、三十分ほど待つと天子が明らかに慌てた素振りでやってきた。

「いや、すまんすまん。寝坊してしまった」

「寝坊って。もう昼過ぎですよ」

「そういうもんじゃ。早速現場へ行こう」

 挨拶もそこそこに天子は移動を始めた。遅く来たのに行動的だ。

 コンビニの脇の道から住宅街に入って行く。一軒家の並ぶ静かな住宅街。しかし、しばらく奥に進むと俄かに騒がしくなってきた。

 パトカーや警察官があちこちにおり、立ち入り禁止のテープがあちこちに貼られている。明らかに何か事件があった感じだ。

「目的地ってここですか」

「そうじゃよ。ちょっと待っとれ」

 天子は道をふさぐテープの前に立つ警察官に気さくに話しかけた。一言二言交わすと、駆人を手招き。二人はテープの中に進んだ。

 中では外以上に沢山の警察官があちこちで話し合ったり地面を調べたり。まるで刑事ドラマだ。いや向こうがまるでなのか。

 天子がその中の、スーツ姿の男性に話しかけた。

「よう。来たぞ」

「天子様。御足労かけて申し訳ない」

 いかにも親しげに会話している中、その二人の視線が駆人に向いた。

「彼が、例の?」

「おう。カルトよ、こっちに来い」

「どうも……。警察の方ですか?」

 その男性は、見た目初老と言ったところだろうか、がっしりとした体つきで、いかにもベテランと言った印象。こちらに手を差し出して挨拶を始めた。

「俺は月岡誠つきおかまこと。四葉署の『怪奇現象犯罪対策課』所属だ。君は駆人君だったか。よろしく頼む」

「七生駆人です。よろしくお願いします。……、怪奇現象……、というのは?」

 誠と名乗った男の手を握り返し、名乗り返す。しかし、駆人が気になるのは彼の肩書き。警察には詳しいというわけでもないが、それにしても聞きなれぬ名。

「確かに知らなくても無理はない。とは言え、あまり時間はないからな」

 誠は奥の方に向かって手招き。すると少女が駆け寄ってきた。

「詳しいことは彼女に聞いてくれ。俺は天子様と事件について少し話すから」

「長い付き合いになるじゃろうからな。ちゃんと理解するように」

 そう言って天子は誠と共に奥の方へ消えていった。

 残された駆人の前には、中学生くらいに見える少女。町でよく見るような警察官の服装、というよりは、その仮装に見えるくらい不釣り合いに見えるが……。

「あなたが駆人さんですね? お初にお目にかかります!」

 その少女はぴょこぴょこと跳ねながら、言葉もまた跳ねるような口調で話す。少し緊張していた駆人が面食らうほど元気だ。

「私の名前は牧島真紀奈まきしままきなと言います。そうは見えないかもしれませんが、私も怪奇現象対策課の刑事です! ささ、こちらへ~」

 真紀奈と名乗った少女に駆人は手を取られ、誠達とは違う方向に案内された。


 真紀奈はなにやら資材を入れているであろう箱にぴょこんと腰かけ、駆人にも隣に座るように促した。

「あの、牧島さん」

「マキナ、でいいですよう。敬語もなしでいいです。その方が慣れてますから」

 警察なのだから少なくとも年上だろうと思って敬語を使ったが、喋り方や仕草はまさに見た目相応に思える。……、かわいい……。

「あ、はい。それで……」

「怪奇現象犯罪対策課について、ですよね?」

 首肯で答える。

「ではではお話しいたします。怪奇現象犯罪対策課、通称『怪対課』は読んで字の如く、怪奇現象、つまりお化けや妖怪による犯罪を捜査・解決する組織なんです」

「へ~。そんなものがあったとは知らなかった」

「ま、当然ですよね。皆さんの税金で成り立ってる警察が、『お化けや妖怪を追っかけまわしてます!』……、なんておおっぴらには言えませんからね~」

 なるほど確かにそれはそうだ。霊感があり、既に意思のある妖怪とも出会っている駆人だからその存在を受け入れられるのであって、お化けは空想の産物である、という常識の下に生きるほとんどの人には冗談としか取れないだろう。

「なるほど。じゃあ、ここにいる人達には全員霊感がある?」

「いえいえ~。確かに怪対課の人は全員霊感持ちですが、ここにいるのは私とさっきの月岡さんだけなんです。そもそも人数少ないですからね。他の課の人達に被害者の痕跡なんかを調べるのを手伝ってもらっているんです」

「なんかすごいね。少数精鋭って感じ」

「とは言っても~。私達もほとんどが霊感があるだけの人間ですから、本格的な逮捕・退治は天子様とかそちらのプロにお任せするんですけどね」

「ほとんど? 真紀奈は?」

「うふふふ~、どうでしょうね」

 いかにも何かありげな含み笑い。もはや早々の事では驚かないだろうが、そう隠されると気にはなる。

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