4.クエスチョンアワー~都市伝説選択譚~

4-1.クエスチョンアワー~都市伝説選択譚~

 今日の駆人は近所の図書館へ足を運んでいた。

 読書スペースに座る駆人の脇に積まれている本のタイトルは『まんが都市伝説のすべて』『怪奇辞典』『誰でも簡単民俗学入門』……。

 当然学校の課題……、ではなく、あの化け狐姉妹との都市伝説退治の対策だ。お金をもらってやることだから確実に事を為さねばならないこともそうだが、それ以上にあの夜のこと。

 口裂け女の対処法を知っていたから九死に一生を得たものの、もしも知らなかったらと思うと生きた心地がしない。そう考えれば勉強に身も入るというもの。


 一息ついて外の自動販売機で飲み物を買って休憩。ここの自動販売機は何故だかあまり見ない飲料ばかり置いてある。興味をそそられるのは『ヘアコーラ』と『ジンジャー焼きエール』……。ここで買わなくてもいいか。

 自動販売機の前でしばらく悩んでいると後ろから声をかけられた。

「七生君……、だよね」

 声の主の方に振り向くと、同年代の少女が立っていた。知り合いだ。確か名前は……。

「綾香さん?」

 そう、確か彼女の名前は『綾香栞あやかしおり』。高校の同じクラスの女子生徒だ。とは言っても、まるで会話したことはない。あちらは賑やかでオシャレなグループに所属している。対して駆人はとにかく目立たない方。ほぼ初対面と言っていい。その彼女に、まさか学校以外の場所で声をかけられるとは思ってもみなかった。

 彼女は、駆人の持っている鞄から見える本のタイトルをちらと見てから喋りだした。

「七生君ってこういう超常現象とか信じる?」

 信じるというか、真っただ中にいるというか。取り合えず頷いた。

「そのことについてちょっと相談があるんだけど……」


 話をするという事で二人は図書館の外に出た。この図書館は公園の中に建っている。少し歩いた日陰のベンチに二人は腰を下ろした。

 そこから数分。栞は何度か口を開こうとするものの、すぐに俯いてしまう。流石に沈黙に耐えられたくなってきたので、駆人の方から切り出すことにした。

「相談って言ってたけど、幽霊を見たとかそういう話?」

 それを聞いて、栞は更に大きく深呼吸をしてから、漸く口を開いた。

「信じる、って言ってたよね? 笑ったりしないよね?」

 笑わない。自分の方が他人に言ったら笑われるような体験をしている。

「家の近くに昨日までなかったものが現れて、それで家族とかに聞いても皆知らないとか、見えないとかって言うんだけど、そういう事ってあると思う?」

 あると思う。霊感とはそういうものだ。

「どういうものが現れたの? 何か不気味なもの?」

「不気味って言うか……。ここから近いんだけど、もしよかったらこれから一緒に見てくれない?」

 駆人は少し迷った。栞のことは正直よく知らない。ここを出た途端に暗がりに連れ込まれ、お金でも要求されたら……。

 ただ、その駆人を見る栞の表情はあまりに真に迫った不安そうなものだった。騙そうとかそういう意思は感じられない。それに、駆人自身もそういう話には少し興味を惹かれる。

「いいよ。案内してもらえる?」

 その返事に、栞の表情が一気に明るくなった。


 栞の案内で日の傾き始めた住宅街を歩く。ここ最近は連日の猛暑日。歩いているだけでも汗が止まらない。前を歩く栞が着ているのは薄手のブラウス。……。なるべく視線を下に向けて歩く。

 左へ右へと何度か曲がる。足元ばかり見ていたのでよく分からないがこの辺りは見知った場所だ。駆人の家からもほど近い。栞の家の近くだと言っていたが、同じ住宅街の中だったのか。それと同時に、悪い予感もこみあがってくる。

「ここ、なんだけど。何かわかる?」

 到着したという事で顔を上げる。やっぱりここだ。朱に塗られた鳥居に、石造りの囲い。

「こんなところに神社なんてあったっけ」

 『あの』神社だ。

 考えれば分かることだった。『急に物が現れた』『自分にしか見えない物がある』、どちらも自分が最近体験していることだ。

 返答に困った駆人は、どうしたものかとぎこちない笑みを浮かべつつ鳥居を見上げた。ただ、その行為は暗にこの神社が見えるという事を示しているものである。

「やっぱり見えるんだね」

 駆人に聞こえるか聞こえないかの声量で栞が呟いた。

「ん? なにか言った?」

「いや、なにも」

 その後も栞は矢継ぎ早にいつからあるのか、他にも見える人はいるのか、と質問を投げかけてくる。

 どう答えたものかと駆人が言葉に詰まっていると、神社の中から人がやってきた。

「なんじゃなんじゃ。騒がしいと思ったらお主か」

 天子だ。眠たそうに頭を掻きながらこちらへ歩いてくる。

「ん? そちらさんは……、お主のコレか?」

 そう言いながら天子は右手の小指……、人差し指をたて、更に同じ形を左手でも作り胸の前で腕を交差させた。

「いや、どれですか」

 天子はさらに舌をンベッと伸ばした。よく分からないボケはやめてほしい。

 それを見ていた栞の表情が露骨に強張る。同じ状況にあると思われた人が、突然現れた不気味な神社から出て来た人と奇怪なやり取りをしているのだから当然だ。

「ちょ、ちょっと七生君。ここの人と知り合いなの」

 全くまずいタイミングで天子も現れたものだ。こうなっては何も知らないことにして帰る選択肢はない。

「あの、天子様。この人もここが見えるようなんだけど、少々教えてあげてもらっていいですか」

「ん、ん~……」

 天子は唸りながら顎に手を当てて少し考えて、それから顔を上げた。

「ま、いいじゃろ。二人共入るがよい」

 天子と駆人が神社の中へさも当たり前のように入っていく。栞はしばらくその場に立ち尽くしていたが、置いて行かれる方が嫌だと後を追った。

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