3-3.

 長い階段をおっかなびっくり降りきると、そこには水が流れていた。明かりは一切なく見えにくいが、確かに『川』のようだ。

 高速道路のトンネルのようなかまぼこ型の舗装された地下水路。大きさもそれくらい。真ん中に流れる川の両側に人一人が歩ける程度の道がついている。

「こんなに大きな川が地下を流れているとは知らなかったなあ」

「そんなわけねえだろ。ここは元々幅数mもない程度の小さい川だったはずだ。何かおかしくなってるな」

 それから、ぽん吉はどこかからヘッドライト付きのヘルメットを取り出した。

「それをかぶっておけ。何が起こるか分からないからな」

 ピッタリサイズのそれをかぶると、いよいよヤバい所に足を踏み入れたと実感がわいてくる。

「よし。取り合えず下流方向に向けて歩いてみよう。俺が前を行くが、足元とか気をつけろよ」

 無言で頷いた駆人は、辛うじてライトで照らされるぽん吉の背を追った。

 地下水路にはむっとした熱気が立ち込める。気温は外ほどではないが、湿度や嫌な臭いも相まって不快な空気を醸し出している。なるべくなら早めにことを済ませて出ていきたい。

「この四葉川でしたっけ? どこまで続いてるんですか?」

「四葉駅の近くにちょろっと水が流れてるところがあるだろ。あそこで表に出てそのまま海に、だな」

 四葉駅となれば、この地下に入った所からだと大分遠い。神社や駆人の家を中間にして更に向こう。歩いたら一時間はかかる。安請け合いし過ぎたか。

 更にしばらく歩くと下り坂に差し掛かった。水も勢いよく流れている。

 だが、その水の音に紛れて何か鈍い地響きのような音が聞こえる。それも近づいてくるような……。

「ああ! 駆人、後ろを見ろ!」

 急にぽん吉が大きな声を張り上げた。何事かと駆人が振り返ると。

 トンネルいっぱいの大きさの大岩がゴロゴロと大きな音を立てて転がってきた!

「な、何事ですか!」

「とにかく逃げろ! 走れ!」

 音は大仰だが速度は大したことはない。走れば何とか逃げられそうだが、如何せん暗くて足元が悪い。気を抜けば追いつかれる。

 数十秒走り続けたところで、やっと横道が見えた。二人がそこに飛び込むと、すぐに元の道を大岩が通過していった。駆人は息も絶え絶えでぺたんと腰を下ろし……。

 プチッ。

 腰を下ろした先には糸が張られていて、それが切れた音。その直後、前方から矢が駆人に向かって猛スピードで射出された。

「おっと、気をつけろっつったろ」

 身構える間もなく迫ってきたそれを、ぽん吉は難なくつかみ取る。

 駆人は完全に腰が抜けた。明らかにおかしい。大岩にしろ、矢にしろ明らかに人為的な罠だ。

「な、何がどうなってるんですか」

「すでにここは都市伝説の領域だ。何が起こっても不思議じゃあない」

 駆人の手を取って引き起こすぽん吉の口調は妙に芝居がかっている。

「これより我々は『ぽん吉探検隊』と名を改める! より一層気を引き締めろ!」

 ぽん吉の張り上げた声が狭い地下水路内に反響する。

 正直何を言っているか分からない。一人でテンションが上がっている。化け狸にしろ、化け狐にしろ、百年も生きると皆こういう風になるのだろうか。

 だが、この人達の実力が確かなのは確かなのだ。ここから出るためにはついていくしかない。長いものには巻かれよ、だ。

「おー!」

 元気のよい掛け声で応えた。


『ぽん吉探検隊

~秘境四葉川に潜む巨大生物を追え~』


 我々ぽん吉探検隊は四葉町の地下を流れる四葉川に足を踏み入れた。

 熱気と臭気がたちこめるこの地下水路で我々を待ち受けているものとは!?


 先を歩くぽん吉が足を止めた。

「吊り橋だ。高いぞ」

 行く手には大きな谷。深く、暗く、底は見えない。そこに架かる木製の吊り橋はぼろぼろで頼りなく揺れている。

「よし、お前が先に行け」

 何言ってんだこいつ。

「いやいや。こういう状況の鉄則だぞ。例えば俺が先に行ったとして、足を滑らせでもしたらお前に何ができる? もしも逆なら俺がお前を引き上げてやれる。サポートできるやつが残っておくんだ」

 ……。なるほど。理にかなっている。

 駆人は腕を組んで立っているぽん吉を背に、吊り橋へ一歩目を踏み出した。

 バキッ。

 一歩目を下ろして体重をかけたところで踏板が真っ二つに割れた。当然駆人の体は足場を失い下へ落ちる。

「ひ、ひえ~。助けて……」

 辛うじて元居た足場にしがみつくが、恐怖で体がすくんでうまく昇れない。こういう時のために自分が先に行ったのだ。早く引き上げてほしい。

「げらげら。落っこちてやんの」

 笑っている場合ではない。こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 ぽん吉の笑いが収まった後、漸く引き上げてもらえた。さっき抜けた腰がまた抜けた。駆人はその場にぺたんと座り込む。このままだと抜ける腰すらなくなりかねない。

「いやあ、すまない。あまりに綺麗に落っこちるから……。それより、安全そうな回り道があるからあっちを行こう」

「なんてやつだ~」

 その後の道中も当然のように危険なものだった。

 丸太の振り子、吊り天井、毒蛇の襲撃……。

「ファイトー!」

 パン食い競争、お料理対決、早押しクイズ……。

「いっぱー……。最後の方おかしくないか!?」

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