第23話 学園について
「よく来てくれたね、クロエ。ギルバートもご苦労だった」
微妙に目をそらし続けるギルバートを小突きながらお父さまの部屋へ入ると、それまで何か書類を読み込んでいたらしいお父さまが、椅子から立ち上がって迎えてくれた。
なんだか元気が無い。
「お父さま、お話ってなあに?」
「ああ……それがね……」
突然お父さまの肩ががっくりと落ち、金の瞳から生気が消えた。心なしか、先ほどより大分老けて見える。
「えっ、なになに、どうしたの……?」
学園の話ではないのだろうか。
あまりにも深刻そうなその顔に、私はいい知れない不安を覚えた。
いつも明朗快活なお父さまがこんなに暗い顔をしたのは、お母さまから嫌われドッキリを仕掛けられた時以来だ。
後に「首を吊ろうかと思った」と語るあの事件と同等、いやそれ以上の何かがあるというのか。
黙りこくるお父さまの背は曲がり、今にも消えてなくなりそうな儚さを醸し出している。
悲壮感漂う父の姿にギルバートも困惑していたようで、私が彼の方を向くと、お父さまを指して『どうにかしろ』という顔をした。
私もちょっと肩をすくめて見せてから、お父さまに声をかける。
「お父さま……? どうしたの……? 学園の話をするんじゃなかったの……?」
「ああ、学園……」
お父さまは哀しげに微笑むと、
「そうだよ、2人ともそこに座りなさい」
と震える指先でベルベットのソファを指差した。
いやこんな雰囲気でする話じゃないだろ……。
ギルバートと顔を見合わせつつも、とりあえず着席する。
机を挟んだ向かい側にお父さまも腰掛けると、今にも死にそうな顔で大きなため息をついた。
「じゃあクロエ……学園についてのお話しよっか……」
急に女子高生みたいな口調になったお父さまは次のような話をしてくれた。
王立ゼーレンヴァンデルング学園は、国の中心、王都に建つ名門の学園だ。
通うのは主に貴族の子どもたちだが、たまに王族の子どもも入学することがある。
高貴な家柄の子どもが多く集まるため、将来のパイプ作りの場にもなっているようだ。
子どもが6歳になり、召喚獣を従えるようになると、貴族たちはその日のうちにここへ入学申請を出す。申請が通れば、見事社交界入りの扉が開かれるのである。
私が6歳を迎え、ギルバートの進化前を引いた後、お父さまは役所へ入学申請を提出しに行っていた。
その書類がついさっき通ったという知らせが来たらしいのだが……。
「通らない方が良かった……」
「なんで!?」
お父さまの悲しみのワケは、学園のとある制度にあった。
全寮制。
入学した子どもたちは、実家が遠かろうが近かろうが全員強制入寮させられる。
つまりーー。
「おまえが学園に通う9年間、お父さまはクロエと毎日会えなくなるんだ……!」
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