第20話 戦闘! お兄ちゃん
激しい剣戟が響き、目の眩むような閃光が走った。
「きゃっ!」
呑まれるすんでのところで咄嗟に顔を覆う。
両手で確保した薄闇の中で目を瞬かせると、目蓋の裏に小さな星がとんだ。
目が潰れるかと思った。大型ライトで目を射抜かれるような、そんな光。
前世に終止符を打った、あのトラックのヘッドライトのような、強い光。
うっすらと目を開けると、光にやられた妙な色味の世界の中で、お互いに剣を噛ませたままギリギリと拮抗する2人の姿が見えた。
険しい顔で睨み合う両者に、私は思わず嘆息する。
さっきの光はあれだ。日の光さえ霞むような閃光の正体は。
ギルバートとお兄さまが、遂に剣を交えたのだ。
力のままに叩きつけられたお兄さまの宝剣を、ギルバートが真正面から受けている。
ギ、ギギとお互いの刀身が擦れるたび、白銀の小さな火花が飛んだ。
身を削るような得物同士のぶつかり合い。
それは吹き荒ぶ風の音をさえ呑み込んで、まるで嵐のように訓練場を席巻した。
「……ッ」
……すごい。
まるで二頭の獅子が噛み合っているかのような、凄まじい迫力。
あまりの剣幕に見惚れていると、いつのまにか隣に立っていたお父さまが、感心したように呟いた。
「……リロイの一撃を受け止めるとは」
推しが褒められると自分のことのように嬉しくなるのはオタの性。
私はにっこりしてお父さまを見上げると、そのままその脚に抱きついた。
と、戦場が動いた。
ギルバートが自らの剣を下から切り上げるように滑らせ、柄でお兄さまの宝剣を弾き飛ばしたのだ。
それまで保たれていた均衡状態が、彼の一手によって解ける。
お兄さまは剣を握ったまま後ろへ吹き飛び、バランスを崩しながらもなんとか着地した。
「お兄さま!!」
「大丈夫だよ……」
口元でそう呟き、視線はひたとギルバートを見据えたまま、お兄さまはゆらりと立ち上がった。
瞳が真っ赤に燃えている。見ているだけで焼け焦げそうな、白熱した石炭の瞳。
相対するギルバートは、やはりお兄さまから視線を外さず、両手で剣を握り直した。
両者譲らず、睨み合い。
空気がキンと凍ったようになって、私の視線も中央に縛り付けられる。
じりじりと高まる緊張感。紅と蒼とが睨み合う。それが最高潮に達しようとした時、乾いた風がざあっと吹き過ぎてーー。
「…………降参だ」
お兄さまが、剣を下ろした。
「……えっ?」
間の抜けた私の声が、訓練場にこだまする。
ギルバートも拍子抜けしたような顔で、構えていた剣をゆっくりと下ろす。
「ど、どうして? これからじゃなかったの?」
混乱する私の言葉に、お父さまはどこか満足げに
「言っただろう。これはギルバートの気持ちを確かめるための戦いなのだ、と」
と、握手を交わす2人を見ながら返事をしたのだった。
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