第19話 私のために争うな
……と、いうわけで。
最推し召喚獣と最愛の兄による、ガチンコお気持ち表明デスマッチの開催である。
神てずから厳選した特別製エネルギー出身とはいえ、ギルバートの初戦が国最強の若騎士なんて厳しすぎでは???
そんな私の心配をよそに、当のギルバートは案外やる気があるようで、
「そんな顔をするな。俺は必ず主人の元へ戻ってくる」
などとのたまう始末。
斜め下から見上げる横顔は、高揚感からかほんのり上気していて……くそッ、どんな時でも顔が良いな!
一方のお兄さまは。
「あの……せめて殺さないでね……?」
「大丈夫だよ。お兄さまは絶対に負けないからね」
……殺意の波動に目覚めていた。
会話が全く噛み合っていない。下手したらほんとにギルバートは殺されるんじゃないかこれ。
お兄さまの瞳の奥で、真っ赤な炎が燃えている。
微笑んでいるような、それでいてどこか怒ってもいるような、家では見たこともない不思議な顔。
真剣なその表情に私はそれ以上話しかけることもできずに、訓練場の端に移動した。
で、今。だだっ広い訓練場の隅っこで、私は睨み合う二頭の獅子を見つめている。
「……なんでこーんなことになっちゃったのかしら」
もう一度呟くと、『ほんとにな』と答えるようにからっ風が吹き過ぎた。
しばらく様子を伺っていると、奥の入り口からお父さまが歩いてきた。私と目が合うと、黙って小さく頷く。
お父さまはそのままギルバートとお兄さまの間に立って、
「2人とも、ここへ」
と良く通る声で2人を呼び寄せた。
「ギルバート・レオンハート、リロイ・ロレンツォ・デイドリーム。これより両者の決闘を始める。準備はいいかね?」
同時に2人が頷く。不意に強い風が吹き、訓練場を黒黒と囲む木々を大きく揺らした。
……始まる。お兄さまによる、ギルバートの力試しが。
見守るこちらまで緊張してしまう。
(ギルバート……)
右手親指の爪を軽く噛む。ギルバートのことが心配で心配でたまらなかった。
怪我をしやしないだろうか。万が一負けたとして心に傷を負わないだろうか。……死にやしないだろうか。
まるで大学に進学して一人暮らしを始めた息子を持つお母さんの気持ちだ。
可愛い子には旅をさせろ、可愛い推しには死地を体験させろ、とは死ネタ(推しが死ぬネタ)好きの友達の言葉だが、まさかリアルに体験することになろうとは……。頼むから死ぬなよ……。
祈るような気持ちで見ていると、お父さまが続けて、
「……これはギルバートの真意をはかる戦いであって、決してクロエに近づく悪い虫を叩き潰す戦いではない。リロイはそこのところを心得ておくように」
と言った。
良かった、お父さまから牽制が入った。
お兄さまは若干不満そうな顔をしているように見えなくもないが、お父さまの言葉に逆らうようなことはないだろう。
「それでは、位置について」
2人はお互いに背を向け、初めの位置まで戻る。そしてまた、強い目をして向かい合った。
「ーーはじめ!」
お父さまの掛け声と同時、両者の足が力強く大地を蹴った。
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