第9話 緊張
ーー来た。
やっと。
ここまで。
屋敷の大広間、その入り口に立つ。
挨拶回りやら段取り確認やらのアレコレを終えて屋敷に帰ってきた私は、感慨深い気持ちでここに立っていた。
長かった。非常に長かった。ここまで滅茶苦茶長かった。ほんとに。
でも、やっと報われる。
この扉をくぐれば、推しに会える。『召喚の儀』を行える。家族の前で、ゲストの前で、彼をここに呼び出せるのだ。
今から行うのは、不可能だと言われている人間召喚だ。
もしかしたら彼の体はグズグズどころではなくなっているかもしれない。人の形を留めていないかもしれない。
それでいい。それでも、いい。
ギュッと唇を噛みしめる。今までにないほどの高揚感が全身を駆け巡っていた。
まるで推し関連のガチャを引く時のようだ。
いや実際そうなのだが。
目を瞑って、考える。
彼がいればいい。彼がいれば、それで。
死んでしまった悲しみも、異世界に1人過ごす寂しさも、彼と過ごすうちに段々と薄れていくだろう。
いい、行こう。召喚するのだ。
推しを、最推しを。私のもとに。
「……クロエお嬢様、そろそろ」
「ええ」
2人の侍女が取手に手をかける。
両開きの扉がゆっくりと開かれ、私は明るく華やかなパーティ会場へと飛び出していった。
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