第2話 ドジってレベルじゃねぇぞ

「……はあ」


「いや反応薄すぎじゃないです!?」



 気の抜けた返事に、神様見習いは大声を出す。もっと酷く責められると思っていたらしい。



 別に驚いていないわけじゃない。


 やっぱり私死んだんだ、という絶望と、お前のせいで死んだのか、という怒りと、じゃあ妹ももしかして、という不安がごた混ぜになって喉に詰まってしまっただけ。



 あとはーー。



「見習いだから、まあ失敗も仕方ないかなって」


「心広すぎ問題……」


 新人に失敗はつきものだ。失敗を経て学び、育っていくのである。


 それに、もう死んでしまったのだから今更どうこう言ってもしょうがない。

 覆水盆に返らず。ペイントソフトのように、Ctrl+Zキーで1つ前に戻ったりはできないのだ。



「ちなみに、何をしようとして失敗したんですか?」


「あの、私『異世界転生ラノベ』の神様見習いなので……。ちょっと目に付いた若者トラックで撥ねて、異世界転生体験でもさせてあげようかなって」


「スナック感覚」



 さすが異世界転生ラノベをつかさどるだけあって、テンプレ把握は完璧だ。


 てか実際にあるのか異世界転生。



「それで、適当なトラックを操作して、適当な若者を撥ねようとしたんですけど」


 操作ミスって大事故が起きた、と。


「なるほど……」


「雨が降ってる時のトラック操作は初めてで。濡れた道路って思いの外滑るんですね。私初めて知りました」


 しょーんと縮こまる神様見習い。私はほぅっと溜息を吐いて、軽く首を振った。やれやれ。



 ところで。


「経緯はわかりました。

 次の質問なんですけど、私だけどうしてここに? 他にも結構亡くなったりしませんでした?」


 途端、彼女は更に小さくなって、


「あのぅ、そのぅ……」


などともじもじしはじめた。



「その件なんですけど。あなたたち姉妹は、私の操作するトラックに突っ込まれて亡くなりましたよね?」


 全て見ていた彼女がそう言うのならそうなのだろう。



 というか。


「”あなたたち姉妹は”って、妹は」


「……はい、即死です」



 妙な呻き声が出た。



 いくら嫌われていたとはいえ、私にとっては可愛い妹である。

 彼女が最期に掴んだ右腕が、じわりと熱を持った気がした。



「本当に、申し訳ありません」


「……いえ。それで?」


「はい。これは私の権能みたいなものなんですけれども、


『私の操作するトラックによって命を落とした先着3名様は、異世界への転生権を得る』


という……」



 は?



「よって……おめでとうございまーす! あなたの次の人生は、剣と召喚魔法のファンタジー世界で送ってもらうことになりましたー!!!」


「急すぎる」



 というか、3名?



「私と妹と……あとは?」


「最初に選ばれた、例の若者です。本当は彼だけ轢き殺す予定だったんですけど……」


 物騒だな。


「とにかく、おめでとうございます。

 他の方々は輪廻転生による同じ世界線での人生が待っていますが、神様(見習い)に殺されたあなた方3名には、豪華特典付きのスペシャルな人生を贈らせていただきます」


「特典ってあの、転生ラノベでよくある」



 一転、神様見習いは顔を大きく綻ばせて、



「はい、転生ラノベでよくある


『神の加護』+『チート能力』セット


のことです!」



と言ったのだった。

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