第1話 起き抜けの謝罪
ーーそして、開いた。
「…………は?」
咄嗟に大変間抜けな声が出てしまった、恥ずかしい。
でも、これは仕方ないと思う。
目が覚めたら、お花畑だった、なんて。
「申し訳ありませーーーーーーん!!!」
「ウワーーッ!」
足元から突然、馬鹿でかい声が飛んできた。
持てる限りの俊敏さで飛び退けば、声の主がガバリと顔を上げる。
「本ッッッ当に申し訳ありません!!!
私の手違いでサクッと人生終わらせてしまって本当にーーーーッ!」
もう一度謝罪を叫び、その人は再び頭を地面に打ち付けた。
「下げる」とかではなく「打ち付ける」。
とにかく滅茶苦茶な勢いで謝罪されていた。
声の主は、若い女性だった。
全体的に白い。穢れのない純白。彼女の中に詰まっている清らかなものがやんわり発光しているような、そんな白だ。
白銀の髪がきらきらと陽に照り映えて美しい。傷ひとつない、陶器のような白く滑らかな肌を、柔らかな衣服がふんわり包んでいる。
土下座の姿勢から微動だにしなくなってしまった彼女にどう声をかけたらいいのかわからず、私はしばらく、ただ彼女を眺めていた。
辺りを包む静寂。
兎にも角にも、まずは現状を把握せねばなるまい。
私は足元にうずくまる彼女に、そっと声をかける。
「あ、あの、お名前とか……伺っても……」
「名乗るほどの者ではございません!!!」
「えぇ……」
即答されてしまった。どうしよう。
「えー……それではまずお顔なんかを拝見させていただいても」
逡巡するような間の後、彼女はそろそろと顔をあげた。
彼女は非常に綺麗な顔をしていた。推測するに20代前半、私より一回り年下だろうか。
くりくりとした丸く大きい目を、涙に濡れた長い睫毛が縁取っている。眼孔に大切に納められた瞳は磨き上げられたエメラルドのように澄んで、きらきらと輝いていた。
全体的にふわふわとした印象の美しい女性。まるで天使のような雰囲気だが、さて。
なるべく優しげな表情を作り、穏やかに声をかける。
「すいません。ゆっくりでいいので、あなたは何者か、一体何がどうなっているのかを教えていただいてもいいですか?」
「は、い……。申し訳ありません、私としたことが慌ててしまって」
ぐっと目に力が入る。酷い後悔に苦しんでいるような表情で、彼女は自己紹介を始めた。
「まず、私は神様見習いです」
「かみさまみならい……」
普通に生きていたらまず聞かない単語だ。研修中ということなのだろうか。
「はい、見習いです……。まだまだ生まれたてなので」
「何の神様なんですか?」
「えーっと、
『異世界転生ラノベの神様』
になる予定です」
「何だその細かいジャンル分け」
思わず声に出してしまった。ラノベの神様見習いがムッとした様子でこちらを見上げる。
「近年の異世界ラノベ需要に応じて生まれたんです。
ミステリの神様とか、ラブコメの神様とかもいらっしゃるので、何ら不思議なことじゃありません!」
そうか、そういうものか。
「じゃあそういうアレで、あなたは八百万の1柱に連なることになるわけですか……」
「しっかり見習い修行をこなせれば、ですけど」
言葉を切り、彼女はしばらく沈黙する。
互いにただただ見つめ合うこと数分、彼女のエメラルドが突如潤み始めた。
「……でも、でも、今回私、大変な失敗を犯してしまって」
左目の1粒を皮切りに、神様見習いの両目からボロボロと大粒の涙が溢れ始めた。
まるで、エメラルドが水晶を産み落としているようだ。
とても綺麗だからもう少し見ていたかったけれど、泣いている女の子を放っておくわけにもいかない。
どうしようか考えあぐねていると、神様見習いは意を決したように、涙をぐいっと拭いさった。
あ、もったいない……。
「私、あなたにあなたに謝らないといけません」
謝罪ならもう十分にうけたと思うのだが。
しかし止める間もなく、彼女は再び頭を地面に擦り付け、大きな声でこう言った。
「あなたが死んでしまったのは、全部全部私のせいなんですーー!!!」
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