第31話 ダンマス的戦後処理
「くそっ。好き勝手やりやがって」
俺はダンジョンの出入り口を映し出したモニターを見つめた。
今はぽっかりと暗闇が広がっているが、さっきまでモニターには4人組の冒険者が映し出されていた。
俺のダンジョンを好き勝手に荒らし回っていった連中だ。
「ま、まあ。こちらの欺瞞にだまされて、マイルームの発見はされなかったですから、よかったじゃないですか」
隣のイリスが珍しくこちらを気遣うような声音で話しかけてくる。
「それなりにベテランの冒険者だったようですが、まさかドアイミテーターの後ろに隠し扉があるとは思わなかったようですね」
だけどそれに反応する余裕はない。だって……、
「その代わり、ここが見つからなかった代わりにあいつらは皆やられたじゃないか」
うちゴブは、あいつはただのゴブリンのくせに、冒険者に少しでも損害を与えようと立ち向かっていってた。
あのモンスターチェアも、それに応えてうちゴブの作ったすきに合わせて攻撃していた。動かないでいたら冒険者もだまされて何もされなかったかもしれないのに。
ドアイミテーターもそうだ。あいつは自分の背後に隠し扉があるのがわかってたから、うまく立ち回るようにしてた。
そしてミノタンロース。あいつもダンジョンのボスとして戦って戦って、そして死んでいった。本領が発揮できてたらあんな冒険者目じゃなかっただろうに。それなのに……。
「はぁ……」
イリスのため息が聞こえた。
「落ち込むのはいいですがマスター。彼らの復活の処理をしてあげてください。それこそ放置しておいたら無駄に死んでしまいますよ?」
「あ、ああ。そうだな……」
指をタブレットに向かわせる。だがその手は重い。
それはそうだ。全員復活させられるだけのDPがないことはわかっているからだ。
ゴブリンやゴースト達ならいけるだろう。あいつらの復活に必要なDPは少ない。元々あったDPで十分対応可能だ。
ウーズやモンスターチェア達☆3の魔物。こいつらもなんとか……。元々だと足りなかったが、今回の冒険者から手に入れたDPで対応できると思う。いや、あんなに強かったんだから、それなりにDPが入っているだろ? それだけは信じたい……。
でも……
でもミノタンロースは無理だ。一度確認したが数千DP必要だった。文字通り他とは桁が違う。
あいつはあんなにも奮戦してくれたというのに復活させることが出来ない。それを確認するのがつらい。
そして……、期限内に復活させることが出来なければ、イリスの言ってるとおり消滅してしまう。そのカウントダウンを見たくない。
見たくない……。だが見なきゃいけない現実を直視する。
「あ……、れ……?」
タブレットに映っていたのは思わぬ数字だった。
「なんで、こんなにDPがある……」
そう、未使用のDPが一万近くあったのだ……。
どうしてこんなにあるんだ……?
いや、理由なんてどうでもいい。ある物は利用するだけだ。早速リストの上から順番にゴブリン達の復活の処理を行う。
が、その手は途中で止まった。タブレットが復活の処理を受け付けなくなったからだ。
「……くそ、どういうことだ」
「現状3体以上同時に復活処理を受け付けないからですね」
イリスが俺の疑問に答えてくれた。
「誰かの復活処理が終わる、もしくは一旦キャンセルをすれば他の者を選ぶことも可能ですよ」
くっ。絶妙にめんどくさい使用だな。それだと倒された順番や復活クールタイムの都合が悪かったら、最悪の事態になるかもしれないじゃないか。なら……、
「キューを入れることは可能なのか?」
「キュー? ああ、待ち予約ですか。そうですね……」
イリスは少し考え込んだ。
「マスターの意図とは少し違うかもしれませんが、可能ではあります」
「どうやってだ」
「そんなに息込まないでください。まったく……」
イリスは俺の方を手で押すと、タブレットの前に座らせた。
「やることは簡単です。モンスターの詳細を開いて自動復活の項にチェックを入れるだけですね」
「何だそんなことでいいのか」
何か面倒ごとがあると思って、少し身構えていただけに拍子抜けした。そんなことならもっと早く教えてくれたらよかったのにと思わなくもない。
まあ、相手はイリスだ。言っても詮無いことではあるが……。
そんな俺を見てイリスはやれやれと肩をすくめた。
「マスターが何を思ってるのか何となく想像はつきますが、別に説明が面倒だからしなかったとか、そんなことはあんまりありませんよ」
少しはあるんじゃねぇかよ。そんな俺の心の声をよそにイリスは続ける。
「この機能はデメリットも多いんですよ。キューの順番は基本的に死亡した順です。まぁこれは個別に優先順位を変えることで変更可能ですが、それ以外のソート方法がないのが問題ですね。そして何より――」
イリスがぴっと俺を指さした。
「自動復活にチェックが入っているモンスターが死亡した場合、その時点でDPがその分消費されてしまうんですよ。もちろんキャンセルすれば戻っては来ますが、それも全部じゃないんです。DPに余裕があるなら使用の選択に入りますが、現状ではとても……」
目をつむり首を横に振るイリス。
「今回はたまたま全員生き返らせるだけのDPがありましたが毎回そうとは限りません。よしんば足りていたとしてもそれよりもダンジョンの改修にDPを回さなければならないこともありますから……」
「まあ、たといそうだとしても復活を見送るなんて選択肢はないよな」
俺は手早くゴブリンやゴーストにチェックを入れる。それだけじゃないナーネやムリアン達、呼び出している魔物全部だ。
「はぁ、やると思いました……」
視線の端でイリスがこめかみを押さえるのが見える。呆れているのだろう。
そしてわかっていたのだろう、俺がこうするって事が。
だから今まで、俺が聞くまで教えてくれなかった。
まあ、全員を復活させるなんて、特にレア度の低い奴らに関しては効率が悪いよな。その分ガチャを回した方が長い目で見るといいかもしれない。だとしても……、
「仲間を死地に追いやっておいて、リカバリーの方法があるのに放置っていうのはな……」
「そう言うと思いましたよ。でもまあそれってデメリットばかりじゃないですからいいとしましょう」
仕方ないですねとばかりに肩をすくめるイリス。
何でおまえがそんなにえらそうにしてるんだよ、そんなことを思いながら復活の優先順位を決めていく。
待ち受け時間と待機時間の兼ね合いで順番を考えないといけないけど……。基本的には星が増えれば両方時間が延びていくのかな?
その割にゴーストとムリアン達(両方☆2)に差がある理由がわからんが……。種族差みたいなもんかねぇ。
そうして設定を変更していくうちに、ふと指が止まった。
「イ、イリスさんや」
「はい、なんでしょうか」
「こ、これはどういうことだね?」
震える俺の指がさすのは“機心”のイリスギアの復活コスト。
そのコスト、およそ十万。文字通り桁が違う。
だがそれを見てもイリスは――。
「ふ……、まあ私の希少さ、そして有能さを鑑みれば妥当。いえ、むしろお買い得感すらありますね」
そううそぶき、口に手を当て、ない胸を張って笑う。
「……何か邪念を感じましたが?」
「ん? 邪念? 特に悪いことは考えてないぞ。まぁ、ない胸張って威張るほど有能かなとは思ったけど……」
「…………」
イリスの目が据わった。と同時に手刀が振ってきた。
「いたっ、何しやがる」
「言うに事欠いてこのマスターは……。私のナビゲートもあってのダンジョン運営でしょうに。びしっびしっ。もっと感謝しあがめ奉りなさい。びしっ」
「いたたっ。何するんだよ。だいたいチュートリアル担当がナビ機能あるのは当然じゃないのか? だったら戦闘能力皆無なんだからその分マイナスだろうに」
俺の言葉にイリスはまなじりをあげる。
「私だってアタッチメントがあれば戦闘が出来るようになります。むしろそれを用意できないマスターの甲斐性の方が問題なんじゃないんですか? それに――」
イリスが両手を上げる。
「ない胸とはどういうことですか! カップサイズはB近くあります!!」
イリスの両の手刀が挟み込むようにこめかみにヒットする。
……それって結局Aなんじゃ。ていうか論点はそこかよ……。
そんな思いは、手刀でかき乱された思考と一緒に消えていった。
「お、おごご」
痛い、訳ではないが脳に響く。頭を抱える俺の耳に、ナーネの呆れるような声が聞こえた気がした。
俺は安堵していた。被害はあったけどなんとか敵を撃退できたことに……。
その被害もリカバリーできる範囲だったことに……。
でも、だからといって気を抜くべきじゃなかった。
ここは日本じゃない。失敗は即、死につながると、そろそろ実感していなくちゃいけなかった。
敵はもうすぐそばに迫っていた。
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現在のダンジョンマップ
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