第29話 冒険者、ボスと相対する
本日二話目です。
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その後、ゴブリンのいた部屋を調べたがこれと言った成果がなかった一行は、部屋のもう一方の扉からダンジョンの奥へと足を進めた。
「こっちに向かってる足跡はねぇな」
扉を開けてすぐ、ノスリブはそうつぶやいた。
「……出入りはないという事か」
「ああ、少なくともここ最近生き物が通った形跡はねぇよ」
ダーリの問いにノスリブは答える。
「ふむ、未踏区画という訳か。このダンジョンは出来て間もない可能性がある。もしかしたらラストが近いのかもしれないな」
「なるほどねぇ出来て間もないからゴブリン共は出入りをしてなかったって訳か。確かにそうかもしれねぇな」
と、そこでノスリブは足を止めた。
「で、あれはどう思う?」
ノスリブは通路の先、T字路の突き当たりを指さした。そこには扉が二枚、少し間を開け隣り合うように存在していた。
「なによあれ。あからさまねぇ」
「……だよなぁ」
ウィチタの呆れ声に、ノスリブも同意だとばかりに頷いた。
「ああ、そう言えばさっきの部屋のモンスターは、ゴブリン以外はモンスターチェアとチェストトラップビーストでしたね」
思い出すようにつぶやくエシス。
「ふむ、イミテーションモンスターが多かったな。だとすると……」
「だよなぁ、やっていいか? リーダー」
ノスリブの言葉にダーリは小さく頷いて応えた。
「オーケーだ」
ノスリブは下ろした両手を跳ね上げた。放たれたのはナイフが二本。それらは、それぞれの扉の中央にとすと突き刺さる。
途端、右手の扉がガタと動く。そしてその表面に牙を生やし一向に向かってきた。
だがその距離は遠い。
「ふんっ――」
ダーリから手斧が投げられ、
「
ウィチタの持つ杖の先からは火槍。
それでもなんとか近づいてきたものの、そこで終わり。ダーリの片手半剣で真っ向唐竹割りにされた。
「まあ、不意打ちするしか能のないモンスターなんぞ、種がわかっちまえばこんなもんだよな」
左の扉に刺さったナイフを引き抜きながら扉を調べるノスリブ。
「油断大敵よ~」
「へいへいっと。ん~~?」
ウィチタに軽口を変えそうとしたノスリブだが、ふと動きを止めた。
「――どうしたの? 罠でもあった?」
「いや、そう言うんじゃねえんだが。……そうだな、なんかいやな予感がする。こりゃさっきリーダーが言ってた様にこの奥にゃ大物がいるかもしれねぇ」
そう言ってノスリブはダーリに道を譲った。
「ふむ、では用心するとしよう」
ダーリは盾と剣を構え扉を蹴破り、中へと侵入した。途端――、
「ブゥモオォォォォォ」
咆哮が響いた。
中にいたのは斧を構えた巨大な牛頭半鬼の魔物。その咆哮は物理的な衝撃をも伴い、瞬断、一行の足を止める。
「個体1、ミノタウロス! 亜種の可能性ありっ!」
いち早くそれを脱したダーリはそう言い放ちミノタウロスに向かって走る。
待ち受けるは大斧の一撃。一刀両断に振り下ろされたその一撃をダーリは盾で受け止めた。
「ぐ、ぬぅぅ」
受け止めはしたが弾く、そらすには至らない。
「ウモォォ」
ミノタウルスは押しつぶさんとばかりに大斧に力を込めてきた。
「――
遅ればせながらエシスも行動を再開。部屋に入り矢継ぎ早に神聖術を放つ。
その加護を受け、ダーリはミノタウロスの大斧を押し返した。
「うおぉぉぉぉ」
「モ、オォォオオォォ」
徐々に押し返されていく大斧。それを打開すべくミノタウロスは大斧から左手を離した。
弾かれる大斧。ミノタウロスはその勢いのまま体を回転させ、あいた左手でダーリを打ちすえる――。
「ちぃ」
避けられない、甘んじて受け止める。そう考え身を固くするダーリ。
――瞬間。黒い影が飛来した。
「――!?」
曲線軌道を描きノスリブから放たれたナイフ。それはミノタウロスの目を狙っていた。
「モォォ!!」
視認。ミノタウロスはダーリに向けていた己の拳を無理に引き上げ、自身の眼前をガードする。
――カカッ。
肉にあたったとは思えぬ音を立て突き刺さるナイフ。
次の瞬間、刺さったナイフは赤化した。
――パンッ――パンッ。
はじけるように爆発するナイフ。その衝撃にミノタウロスも思わずうめき声を上げた。
そこに体勢を整えたダーリの一閃が迫る。
「ぬんっ――《アズールエッジ》」
蒼の軌跡を描くその一閃。だがその先にミノタウロスはいない。危機を感じ取ったのか大きく後ろに下がったからだ。
が、それを見てダーリはニヤリと笑った。
「その程度で大丈夫か?」
「ブモ?」
ミノタウロスが疑問に思う時間はなかった。ダーリの片手半剣によって描かれた蒼の軌跡。それは形をそのままにミノタウロスに向かって飛翔したからだ。
「ウモォォォ」
押し進む斬撃。それがミノタウロスと交差した瞬間。ぱっと血しぶきが舞った。だが一向にダーリの顔は晴れない。
「……浅いか」
言葉通りだった。ダーリの斬撃はミノタウロスの表皮を切り裂くも肉に至ることはなかった。どころか――、
「おいおい、傷が消えていってないか……」
ノスリブが呆然とした。それもそのはず、体表を徐々に黒化させるミノタウロス。その中で長く裂けた切り口も徐々に見えなくなっていってたからだ。だがそれを注視しながらダーリは首を横に振った。
「いや、おそらく違うだろう」
「うん?」
「腕だ」
ノスリブのうろんな声。それにダーリは応えた。
なるほど、確かにミノタウロスの腕に穿たれたナイフの傷跡。深くえぐられたそれは、見えなくなった創傷とはとは違いその痕をくっきりと残している。
「たぶん、何らかのスキルの効果で見えづらくなっているだけで、ダメージ自体は残っているはずだ。詳しくは……」
ダーリがちらとウィチタに視線を向ける。
それに気づき小さく頷きを返しつつ、ウィチタは呪文の詠唱を続けている。彼女がミノタウロスに向けた杖の先には大きな魔方陣。
「――――我、閲覧せしは大地の記憶。黄昏の向こう、アカシアの地平より刻まれし年代記。こは何ぞ、かは誰そ。我が問いかけに答えよスヴァルバルの獣よ――
瞬間。魔方陣はほどけ、糸となり、その後文字をなしていく。
「な、なによこれ……」
それに目を走らせたウィチタが、思わず声を上げる。
「どうした、姐さん」
ノスリブの言葉に気を取り直したのか、ウィチタは小さくかぶりを振る。
「いえ、ごめん。ありがと。それより悪いニュース……。あいつ、亜種どころか二つ名持ちよ」
ウィチタは声を張り上げる。
「相手はミノタウロスの変異個体。所持スキル、剛力、金剛体他、武器マスタリーの所持の可能性あり。名称、“
「まじかよ……」
じりと一歩下がりながら焦りの声を上げるノスリブ。一方――、
「くっく。それは面白くなってきた」
含むように笑ったダーリは盾を前に押し出すようにして、一歩足を進める。肌を変色させ黒艶と光らせたミノタンロースも応じるように斧を構えた。
「ただあいつ、いくつもスキルがロックされてるから……、おそらくダンジョンの用意した複製体だと思う。でも――」
「――ブモオオオオォォォオオ」
ウィチタの警戒の声。だがそれはミノタンロースの発した雄叫びによってたやすく切り裂かれた。どころかそれは物理的な衝撃をも伴って一行に襲いかかる。
「ぐ、ぬぅぅ」
間近のダーリは盾を構えその衝撃をこらえる。そうして返す剣を一閃。咆哮を上げ動きを止めるミノタンロースの肩口を切り落とした。
――ギィィィン。
いや、切り落とせない。それどころか肉にあたったとは思えない音が響き、ダーリの剣は弾かれた。
「なるほど、これが金剛体か」
そうつぶやくダーリの耳、そしてハナから血がたらりとこぼれ出る。どうやらミノタンロースの咆哮はダーリの脳に直接のダメージを与えていたらしい。
だがダーリはそれに頓着もしない。むしろ慌てているのは後衛の二人だ。
「ああもう。ダーリの奴、悪い癖が出てるわね。こんな時に抑え役のシフィはいないし。あいつは……」
ウィチタはちらりとノスリブの方を見やる。
咆哮で一旦後ろに引いたノスリブ。だが彼は今度はミノタンロースの背後に回り隙をうかがっていた。
「いや、あいつはあいつでやってくれてるか……。とは言え即席パーティじゃ連携が」
ウィチタは悪い方向に向かおうとする思考を断ち切るように杖を振るう。
「いや、泣き言なんか言ってられない。エシス! 補助やレジストはある程度こっちで回すから後はお願い」
「わかりました。その分ダーリを、ですね」
ウィチタから皆に向けて放たれたレジスト魔法、そしてエシスからの回復。
それらを身にに受けながらダーリは流れ落ちる血を舌で舐めとり、ぐいとばかりに口角を上げた。
「……久々だ。これは本当に楽しい」
迫るミノタンロースの大斧。それに盾を打ち合わせ、その勢いのままに体を回転させダーリはミノタンロースに襲いかかった。
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冒険者踏破済みマップ
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