第28話 冒険者、ゴブリンを撃退する

本日一話目です

夜、もう一話更新します

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 身軽な物はジャンプで、そうでないものは一旦底に下りる形で落とし穴を抜けた一行。

 そうして曲がり角を抜けた先にあったのは一つの扉だった。その扉の前でノスリブは聞き耳を立てていた。


「……物音はしない。罠も鍵もかかってねえな」

「わかった」


 ノスリブの言葉を受けてダーリは扉の前に立った。


 ――ギィィ。


 ダーリの手によりきしみつつも開く扉。奥に見える部屋にはここに住み着いた魔物の寝床だろうか、寝わらが用意してある。そしてその傍らにあるのは木箱。


「……ふむ」


 ダーリが一歩踏み出した、その時だった。


「ゴォォォブゥゥゥゥ」


 横合い、扉の影からゴブリンが大きな椅子を振りかぶって殴りつけてきた。


「――ぬぅ!」


 とっさに構えた盾。がっという音を立てて椅子は弾かれ転がる。

 奇襲が失敗したことを悟ったゴブリンは、大きく後ろに飛んで間合いを取り棍棒を構えた。

 それを見てダーリも一歩踏み込む。


「援護は?」

「いらん。それよりも警戒を」


 ダーリの後ろから部屋に駆け込んだノスリブは、その言葉に従い即座に周辺への警戒に移る。


「ゴゴ!?」


 大勢不利と考えたのか、ゴブリンはダーリに向かって手に持った棍棒を投げつけた。

 そうして自分は背を向け、脱兎の如く逃げようとする。


「笑止っ」


 ダーリは飛んでくる棍棒を盾で弾きながら、逃げるゴブリンの背に迫る。そうして片手半剣を抜きざまにゴブリンの背に突き立てた。


「グ、ブゥ」


 ゴブリンは胸から突き出された剣の先を見つめながら事切れた。

 数瞬の後、そのゴブリンの姿も消え去り、ころんと小さな石が転がる。


「ふむ、こんなものか……」


 ダーリは片手半剣についた血糊を払いながら後ろを振り向き、遅れて入ってきたエシスとウィチタを視界に納める。

 ウィチタの杖の先に火球が用意されていたが、どうやら必要ないと判断したのか杖の先で遊ばせている。


「えっと……、どうやらゴブリンの他に魔物はいないようですね。ダーリも怪我はないですか?」


 部屋を見回し、自分たち以外に動くものがいないのを確認したエシスがダーリに近づいてくる。そのとき――、


「――危ねぇ、神官の兄さん!」


 ノスリブの声が響いた。

 と、同時にノスリブの手から放たれたナイフが倒れた椅子型モンスター――横を通り過ぎようとしたエシスに襲いかかろうとしている――に突き刺さる。


「なっ」


 エシスもとっさに避けようとするが、モンスターチェアは刺さるナイフもものともせずエシスへと迫る。ダーリも救出に向かうが間に合わない。

 モンスターチェアの模様が口となり牙となり、エシスの体に突き立てられようとした、その瞬間だった。


 ――ゴォォ。


 エシスの周囲から炎が立ち上がり、渦を巻いてモンスターチェアを弾き飛ばした。



 壁に叩きつけられたモンスターチェアは、なおもエシスに襲いかかろうとするが――、

「――射出エピス

 そこにウィチタの火球が迫る。

 ごぉと音を立て命中した火球は、モンスターチェアの動きを止め、その身体に焦げ目をつける。


「ぬん――ッ《――モードシュラッグ》」


 動きを止めたモンスターチェアを、踏み込んできたダーリが剣身を手に持ち柄をハンマーのようにしてモンスターチェアに叩きつけた。

 殺撃。横薙ぎのその一撃で一撃でモンスターチェアは再度壁にぶつけられ、今度はその身体をバラバラと崩れ落とした。


「た、助かった~~。みなさん、ありがとうございます」

「ったくぅ。用心しなさいよね」


 膝に手をつき安堵するエシスにウィチタが駆け寄る。


「まさかゴブリンの振り回していた椅子がモンスターだったとはな」

「こっちの油断を誘う為にわざと振り回してから逃げたのかねぇ」

「……ふむ。だとすると存外狡猾だったというわけだ」


 ノスリブの言葉にダーリは考え込んだ。そんなノスリブにウィチタが軽く笑いかける。


「ま、アタシの魔法のおかげで無事だったからいいでしょ。あんなのなかなか予想できないって。ま、エシスは油断しすぎだけどね~」


 ぴん。ウィチタはエシスのおでこを指で弾いた。


「いやはや、面目ない」


 エシスも弾かれた額をさすりながら頭を下げる。


「わかればよろしい。それじゃさっきの魔法をかけ直すからちょっと待っててね」


 そう言って魔法の準備をするウィチタにノスリブが話しかける。


「さっきモンスターチェアを弾き飛ばした魔法、反応即応系魔法だっけ? 俺もかけて欲しーわー」

「…………これでよしっと」


 ぼやくノスリブを横目に見ながらウィチタは魔法をかけ終えた。そしてノスリブに向き直る。


「あんたは身軽なんだから自分で避けなさいよ。それに今回はこの魔法、これで打ち止めでーす」


 小さくあっかんべをするウィチタを見てノスリブは肩をすくめた。


「そいつは残念だね」

「はぁ……。それよりあんた、さっさと仕事しなさいよ。アレとかアレとか……。あからさまに調べなきゃ行けない場所でしょ」


 ウィチタが指さしたのは、ゴブリンが使っていたであろう寝床、そして隅に置かれた木箱だった。


「おっとそうだった。はいはい、ちゃあんとやりますよ」


 ノスリブはおどけて手をひらひらとさせながら、ひとまずは寝床の方に向かっていった。





「ふぅむ、特に何もねぇな」


 ゴブリンの寝床を調べたノスリブ。そうは言いつつも何か納得がいかないのか首をかしげていた。


「どうした?」


 気になったダーリが問いかける。


「いやね、リーダー。なんつうか、あんまり使った形跡がないんだよなぁ」

「ふむ、新しく寝わらを敷き直したとかではないのか?」

「確かにそれっぽいんだが、何というか腑に落ちんというか……」

 そこまで言ってノスリブはかぶりを振った。

「……ま、いっか。寝床なんてこれ以上調べてもしょうがねぇ。本命はあっちだしな」


 そう言って今度は木箱の方へと近づく。


「さってと。こっちは何が入ってるんだろなっと」


 無造作に木箱に触れようとするノスリブ。


「――ちっ!?」


 が、何かに気づいたのか、触れようとした手を引っ込め飛びすさる。


「Gaga――」


 そんなノスリブに追いすがるように、木箱はその蓋に牙を生やし飛びかかる。が――。


「あめぇよ」


 大きく払われたノスリブの右手からネットが投げつけられる。それは飛びかかる木箱を覆うように広がり――、

 ――カカカッ

 端の楔がその体を地面へと縫い止める。


「リーダー! 姐さん!」


 叫ぶノスリブに二人は答える。


「おう」

「まかせて。開け第三の門、炎は槍となり射貫かんトゥリ・フロガ・ドーリ


 飛来した火槍が襲いかかる木箱を再度縫い止めた。

 そこに盾を捨て片手半剣を両手に持ったダーリが迫る。


「はあああっ」


 斬撃一閃。大きく一歩踏み込み大上段から放たれた一撃は襲い来る木箱を半ばまで断ち切った。


「いくよ、離れて!」


 ウィチタの叫びに、ダーリは剣を引き抜くように飛びすさる。


集いて爆ぜよプロスト・エクリクシィ


 瞬間、木箱を縫い付けていた火槍、その火の揺らめきが凝縮し爆発した。

 半ば内側から爆発したそれは、半ばから断ち切られていたこともあってか火の粉をまとわせながら四散する。

 残る大きな破片もブスブスとくすぶりを上げるのみ。もう動くことはなかった。


「ふん、ざっとこんなもんね」


 一仕事を終えさっと髪をかき上げるウィチタにノスリブが抗議の声を上げる。


「そりゃねえぜ姐さん。やりすぎだよ」

「……? なにがよ?」


 ウィチタが憮然とした目で見つめた先では、ノスリブがしゃがんで木箱の残骸をあさっている。

 その手には焼け焦げたネットがある。


「あ、それね。それが動きを止めてくれたおかげで大技決まったかも。ありがとね」

 ウィチタは手も前に出し軽く礼を言った。

「それにしても私の炎に巻き込まれてそれなりに原形保ってるなんて、いい品ね」


「……そりゃそうだよ。これちょっとしたマジックアイテムだもん。使い捨てにするようなもんじゃないし、結構頑丈に出来てたのに、それをまあ……」


 ノスリブが慎重に持ち上げたネットは、その瞬間ぼろりと崩れた


「えっと……。それはその……。ご、ごめんねー」

 ようやくやりすぎてしまったことに気づいたウィチタが慌てた。

「えっと……。そ、そうだ。後で報酬からそのネットの費用も差し引くからさ。それで勘弁してよ。ね、いいよね。ダーリ?」


 ハナを向けられたダーリは苦笑しながら肩をすくめ、了承の意を表す。


「うんうん、ダーリもオッケーみたいだし。今回はこれで勘弁して、ね?」

「まぁ……、それならいいけどよ」

 ノスリブは不承不承頷きながら重い腰を上げた。

「大物はともかく今回みたいな雑魚相手のときは多少は手加減してくれよ、姐さん」


「わかったわよ、善処するって」

「そうですよ、ウィチタ。あなたはいつも爆破爆破とやりすぎなんです。これを機に――」

「――あーもうっ。今回エシスは関係ないじゃん」


 流れるように始まったエシスの小言に、ウィチタは両手で耳を塞ぎ顔をしかめる。

 そんな二人の姿に戸惑い、ノスリブはダーリの方をこれでいいのかと見るが、ダーリは苦笑して肩をすくめるばかりだ。

 まあこれが緊張し続けない為のこのパーティのあり方なんだろうな……。そう理解したノスリブは部屋の調査を再開した。


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