第26話 冒険者、ダンジョンを見つける

お久しぶりです。一章の終わりまで書き終えたので投稿します。

この話を含めて十話、毎日投稿の予定です。


なお、この話を含め冒険者側の視点が何話か続きます。



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 ぽつりと鍾乳石をたどって滴がしたたり落ちる。

 外はもう夏の盛りだというのに、洞窟の中はひんやりとしていて心地がいいくらいだ。

 水も流れているのだろうか、足場もつるりと光っている。

 その洞窟の中、少し広くなった場所で男が二人、女が一人の三人組が立っていた。

 周囲には灯りの魔法だろうか、光球がひとつ浮かんでいる。


「まさかこんな所にゴブリンが巣を作っているとはな」


 戦士風の男――ダーリが腕を組んでため息をついた。


「ねえダーリ、確か最近ここら辺でゴブリン討伐の依頼なんてなかったよね。よっぽど器用に隠れていたのかな?」


 神官服を着た男――エシスが問いかける。だがそれに、杖に手をついた魔法使い風の女――ウィチタが反論する。


「何言ってるのよエシス。ゴブリンにそんな知恵があるわけないでしょ。ちょっと放っておいたら、すぐに増えてまわりに迷惑掛けるわよ」

 ウィチタは手をぱたぱたと横に振る。

「大方ちょっと前の地揺れのときに、どっか遠くのゴブリンの巣穴とこの鍾乳洞がつながったって落ちじゃない? この鍾乳洞もかなり広そうだし」

「それはあるかもしれないな……。ここの入り口も先だっての崩落で見つかったようだし」


 ウィチタはダーリの言葉に、でしょうとばかりに大きく頷いたあと、急に声を潜めた。


「そんなことより、あいつ……。信用できるの?」

「あいつ? ノスリブのことか……」


 ウィチタはダーリの言葉に小さく頷く。


「今偵察に出てていないから聞いとくけどさ、あいつって妙に世間知らずというか、ものを知らないところがあるじゃない。なのに変な知識だけ持ってる……。おまけに、親の名前も隠して身分証もない。なーんか怪しいのよねぇ」


 ウィチタは漂う光球を指でくるくると操る。


「冒険者の過去を探るのは御法度だぞ。なんだかんだで脛に傷持つ奴らは多いんだからな」

「それはわかってるけど……」


 ダーリの答えに、ウィチタは光球を小さくはじいた。


「それにシフィが療養中の今、スカウトの手が足りないのは確かだ。今回の指名依頼を断ることは出来ないんだから、どのみちスカウトを雇わなきゃならない。その点ノスリブは今のところフリーで、しかも腕がいいときてる」


「そこよっ」

 ウィチタの指がダーリを指す。光球もダリーの目の前ですっと止まった。

「最初は世間知らずだったから、家出か廃嫡された貴族の坊ちゃんかと思ってたわよ。でもスカウトって……。ありえない、普通お坊ちゃんならスカウトなんて職しないでしょ」


「そうは言ってもな……」

 ダーリはまぶしそうに目を細めながら光球を払う。

「信用は出来るんだろう?」


 ダーリの視線の先にいたエシスは頷いた。


「うん、敵意はないし信頼もできる。神殿でお伺いを立てたからね、我が神のお墨付きだよ」

「ならいいんだけどさ……」


 ウィチタはなおも不満そうに口をとがらせる。

 そんな三人のの会話をしている広場の奥の通路に、ゆらゆらと揺れる光が見えた。


「おっと、くだんの彼が帰ってきたようだぞ」


 ダーリの視線の先、ランタンの明かりに照らし出されたのは二十代半ばの男。いや、無精髭のせいで老けて見えるだけで実際はもっと若いのかもしれない。

 軽装に身を包んだその男が、軽く手を振りながら3人に近づいてきた。


「すまんリーダー、先を偵察してきたが結構入り組んでる上に向こうに出口もあるっぽくてな。ゴブリン共も散り散りに逃げてて、殲滅は難しいかもしれん」

「いや、いいよ。我々の依頼も調査であってゴブリンの殲滅じゃないからな」


 片手を前に立ててすまんすまんと言う軽装の男――ノスリブにダリーは軽く笑った。


「ゴブリンの殲滅程度なら私たちじゃなくて、燈級の冒険者でも十分でしょ」


 肩をすくめるウィチタにエシスが疑問を発する。


「どうかなぁ。上位個体もいたみたいだし、もしかしたら領主からの討伐依頼が入るかもね」

「え~。めんどくさいわね、それ」


 ウィチタは眉をひそめた。


「まあそれも、この洞窟の広さ次第。つまりは俺たちの報告次第って訳だ。ノスリブ、マッピングの方はどうだ?」

「ああ、ばっちしだ」

 ノスリブは頭をコツコツとたたく。

「今から書き上げるから、ちょっと待っててくれよ」


 そうしてノスリブは背負い袋から紙を取り出してマップを書き進めはじめた。

 が、途中で筆を止める。


「どうした?」


 疑問に思いダリーはノスリブに尋ねる。


「ちょっと~、もしかして道、忘れたんじゃないでしょうねー」


 ウィチタも揶揄してくるが、ノスリブは大げさに首を振って答えた。


「違うって姐さん。ちょうど今書いてる場所でな、面白いものを見つけたんだよ。後で案内するな」

「なによ、教えなさいよ」

「それは行ってのお楽しみってな。ま、、期待はしててもいいぜ。特に神官の兄さんなら、な」


 ノスリブは意味ありげに唇を上げた。





「ここか……」


 ダーリ達四人はは鍾乳洞内で、岩に隠されて偽装されていた通路を目の前にしていた。


「中には……?」


 ダーリが聞くと、ノスリブは首を横に振った。


「チラリと覗きはしたけどね。明らかに様相が違うからやめておいた」

「それは賢明だったね」


 エシスが頷く。


「ならやっぱり」

「うん、ダンジョンかもしれない。何となくだけど」

「そうかい」


 ノスリブは喜色をあらわにした。


「ずいぶん嬉しそうね」

「そりゃあそうさ、姐さん。ダンジョンって見つけただけでも臨時ボーナスが入るんだろ? 嬉しくもなるさ」

「それがダンジョンとして認められれば、だけどね」

「そりゃあどういうことだい、姐さん」

「ダンジョンと認定されるまでには時間がかかるって事。ギルドの審査官が派遣される前に踏破されたら、当然お金ももらえないしね」

「なんだよ……」


 ウィチタの言葉にノスリブは肩を落とした。

 そこに、まあまあとエシスが助け船を出す。


「ウィチタもそんなに意地悪しないであげなよ。今はちょっと状況が違うでしょ」

「どういうことだい? 神官の兄さん」


 ノスリブは顔を上げた。


「フリーのノスリブにはまだ話が回ってきてないかもだけど、先だって神託が下ってね。活性期に入ってダンジョンが急激の増加する可能性があるらしいよ。だから審査の基準とかも大分甘くなるはずさ」

「へぇ、そいつはいい話を聞いた」

 そこまで言って、ノスリブはだがと首をかしげる。

「そんなこと俺に言っちまっても大丈夫なのかい?」


 エシスは小さく笑った。


「大丈夫だよ。もうそろそろ上の方からの発表もあるはずだからね」

「なるほど……、ね。ならこいつはできたてほやほやのダンジョンかもしれないわけだ」


 ノスリブは通路の奥に視線を向け、目を細めた。


「それは……。入ってみないことにはわからないかな。ダーリ、どうする?」

「ふむ……。入って確認するか……。足跡から察するにゴブリン共も出入りしていたようだしな」

 ダーリは地面を見つめ顎をさすった。

「出来ればダンジョンの討伐、よしんばそれが難しいとしても内部を確認しての脱出であればさほどの問題はないだろう」


 その言葉にウィチタも頷く。


「私たちの目的はここの調査だからね。この穴がダンジョンなのかある程度目星もつけておかないとね。後で変な難癖つけられるのも嫌だし」

「了解了解っと。そんじゃまあ行きますか」





 四人が階段状の段差を下りて入り込んだ小部屋。そこは上の鍾乳洞とは違いぼおっとした灯りに包まれていた。

 その灯りに照らされて、正面奥と右手には通路が見える。


「おいおい、ただの洞窟風なのに明るいとか、どうなってるんだ? 壁が明るい? こけが発光……、してるようにも見えないな」


 ノスリブ驚いた顔で、片手を壁にこすりつけている。


「これは……、本当にダンジョンかもしれないね」

「どういうことだい? 神官の兄さん」

「ダンジョンって言うのは時折こんな普通の洞窟では見られない現象が起きてるって事だよ。こんな壁自体がぼんやり光るっていうのもその一つ。というかそれなりに見かけるパターンだね」


 エシスの答えに、ノスリブはほうほうと頷く。


「なるほどね、それじゃあまず間違いなくここはダンジョンな訳だ」

「それだけじゃないわ。こんな現象が起きてるダンジョンって、ダンジョンコアが発生している可能性もあるのよ」


 ウィチタが補足するように言った。


「へぇ……」

 ノスリブはにんまりと笑う。

「そいつはますますうまい話じゃないか。コアって相当な高値で買い取ってもらえるんだろ?」

「まあね……。ただコアがあるダンジョンの危険度はかなり高いからね。どうする? ダーリ」


 ウィチタは視線でダーリを促す。

 ダーリは顎に手を当てしばし考え込んだ。


「ふむ……。そうだな、もう少し探索しよう」

「そうこなくっちゃ。フリーでやってるとこういった機会は滅多にないからな。ありがてえぜ」


 パチリ。指をはじき喜色をあらわにするノスリブ。それを見たウィチタはやれやれと肩をすくめた。


「それがわかってるなら、あんたもどっか固定パーティに入ればいいでしょうに。腕はいいんだから、今までも結構誘われたりしたんじゃない?」

「そこはそれ、俺にも事情があってね……」

 ノスリブは困ったように頬をかいた。

「そんなことよりリーダー、探索を続けるとしてどっちに進むよ。見た感じ、正面の道は出入りが少なめ、逆に右手の道はゴブリンが結構出入りしているみたいだぜ」


 ダーリは少し考えてノスリブの言に答えを返す。


「……とりあえず右手に行くか。そちらの方が安全だろう。頻繁に出入りをして何をしていたかも気になる」

「オーケーだ」


 ノスリブは先導するように、足早に右手の通路に向かった。


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前回(ゴブリン侵入時点)でのダンジョン

https://32334.mitemin.net/i451044/

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