第25話 再構築的ダンジョン
「ふぅ、大体こんなものかな」
作り上げたタブレット上のダンジョンを見てため息をついた。
今回新たに使用したのは通路A(T字路として使用)×1、☆2罠A(隠蔽)、☆1罠(スイッチ)、部屋Aになる。これに加えてこれから設置する宝箱だ。
一応のコンセプトとしては、部屋の中のボスっぽいモンスターが倒されたら、それをスイッチとして隠蔽されていた宝箱が姿を現して、ダンジョンが攻略されたと誤認させる、というものだ。
ちなみに栄えあるダンジョンボス(偽)にはミノタンロースを召喚、他にもドアイミテーターも召喚して配置してある。
「ダンジョンのボスを倒したら宝箱が現れるっていうダンジョンがあるんだよな?」
一応の確認をイリスにする。
「はい、明確なダンジョンマスターのいない生起型ダンジョンはその傾向があると一般に認識されております。ただ、そういったダンジョンは攻略を繰り返すことでダンジョンマスター及びダンジョンマスターが配置されるという風にも認識されています」
「つまりはダンジョンの子供状態だよな。そうして何度も攻略されてダンジョンコアが出来た段階で人間達に収穫されると……」
「はい、そうして手に入れたダンジョンコアを様々な形で活用することでこの世界は回っていると考えてよろしいかと」
「はぁ、つくづくダンジョンありきの世界なんだなぁ」
ポリポリとうなじをかく。
まあ、俺をこちらに送り込んだチャラ神の思惑からして、最初っからこの世界はダンジョンありきで回るようにはなってるんだろうけどな。
「それで……」
イリスがおずおずと聞いてきた。
「このマイルームに通じる扉は本当にここで大丈夫でしょうか」
「ああ……」
俺もあらためて確認する。今回のダンジョン改装に合わせてマイルームの扉の方も移動させたのだ。そもそもあの扉のあった部屋の奥にミノタンロースのいるボス部屋があるんだから当然だ。
途中の空き部屋とか、探索されないわけがない。
「前のままにしておくわけにもいかないだろ?」
「それはそうですが、でしたらミノタンロースのいる部屋に隠し扉として置いておけばいいかと……」
まあ確かにそれもそうなんだが……。
とはいえ俺はイリスの言葉には首を横に振る。
「それだとあからさますぎるし、最後の部屋って念入りに探索しがちだから避けておきたいんだよ。それだったらこっちの方がいい」
タブレットをコツコツとたたく。
「ここって以外と盲点だと思うよ。実際実績あるし」
「実績、ですか……」
「まあね」
元の世界のTRPGで遊んだときだけど……。口の中でつぶやく。
何の気なしで設定した隠し扉。マップの形から隠し部屋があるとわかっていても入り口を発見できず、何時間もふいにさせた苦い経験。割とブーイングを受けたあの経験が、今ここになって役に立つとはなぁ。
「まあ、ガチャの排出から現状作れるダンジョンにも限りがあるし、それに、ここに来るのってゴブリンだろ? そもそもの話あいつら相手なら大丈夫でしょ。前回の偉そうなゴブリンが来ても撃退できるようにはしてるし」
「それは……、確かにそうですね」
イリスはしばらく画面に映るダンジョンのマップを見ていたが、最後には納得したのか頷いてくれた。
「よし、それじゃあ納得してくれたところで宝箱の設置だ。とりあえずミノタンロースのいる部屋に設置するのはいいとして、あいつが戦う邪魔にならない場所にしないとなあ」
上に隠蔽かけてミノタンロースが倒されるまで見えないようにするつもりだけど、途中で足を引っかけられたりでもして、宝箱がばれちゃあ意味がないからな。
どうしようかと悩む俺にイリスが助言をくれた。
「それでしたら、マスター。いっそのことミノタンロースのいる部屋の奥に【小部屋】を設置して、その中に宝箱を置くのはいかがでしょうか。そうしてその【小部屋】につながる場所を隠蔽する方向で……」
小部屋か……。出来れば隠し扉を作る形にはしたくないんだよなぁ。
悩む俺を見て察したのか、イリスは言葉を重ねる。
「部屋と部屋をつなげた場合、扉は有無はこちらで設定できます。あと小部屋は人一人分のスペースしかないので、一見くぼみが現れたように偽装できるんじゃないかと思いますが……」
「なるほど……、確かにその方がいいかもな。ミノタンロースの邪魔にもならなさそうだし」
「でしょう」
どやぁと勝ち誇るイリスの顔がウザい。
なので、イリスの方は極力見ないようにしながら小部屋と隠蔽の罠を設置。次いでその小部屋に宝箱(銀級)を設置……。
って、いたい。無視したからって脇腹を指で指すなよ。操作を間違うだろうが!
――ズン。
その瞬間、ダンジョンが揺れた。
げっ。なんかタブレット操作をミスったか?
慌てる俺だったが、原因とも言うべきイリスは素知らぬ顔だ。
いやいや、おまえさんのせいだろうが……。
そう言った想いを込めてイリスをにらむが、彼女は肩をすくめるのみ。
「やれやれ、なんでそんな顔で見つめてくるのやら? もしかして私に懸想でもしましたか? マスター」
「するかよっ。近づいたら取って食われるのが落ちだろうが! 単にイリスさんのせいで操作をミスったかと思っただけだよ。なんかダンジョンが揺れたし」
「全くマスターは……。どれどれ」
イリスがのぞき込むようにしてタブレットを確認するが、やがて首を横に振った。
「……残念ですが大丈夫なようですね」
「残念ってどういうことだよ、全く。……まあ大丈夫ならいいんだけど、じゃあさっきの揺れは何だったんだ?」
「揺れ? ああそれは宝箱を設置したからじゃないですか? 銀級の宝箱ともなると相当に重いはずですので」
「重い?」
俺の疑問にイリスはやれやれと肩をすくめる。
「これを見てください」
イリスが指し示す先はモニターだ。そこには宝箱が映っている。
「ああ、さっき設置した宝箱だな。ちゃんと隠蔽の罠も発動してるみたいだ」
画面をピンチアウトすると、宝箱のある小部屋が壁に偽装されて見えなくなる。
「隠蔽の罠の方はこの際どうでもいいです」
イリスが横から操作して、再度宝箱を映しだした。
「はい、この宝箱を見て何か思いつきませんか?」
「思いつかないかと言っても……」
宝箱を見やる。銀級と言うだけあって、それなりに装飾のされた宝箱だ。見た目だけで中身に期待が出来ると言えよう。
……まあ、今中は空っぽなわけだが。
ただまあ、それだけだ。
そのことを伝えると、イリスはしたり顔で頷いた。
「そう、まさにそれが問題なのです。宝箱それ自体が侵入者にとってのお宝になるわけです」
「……ああ」
俺はぽんと手を打った。
なるほど、イリスが伝えたいことがわかった。
「ではマスター、そんなお宝たる宝箱。侵入者は見つけたらどうしますか?」
「もしかして持って帰るのか?」
イリスがぱちりと指を打つ。
「そう、その通りです。やっと理解が追いついてきましたね。では持って帰られないようにする為、マスターならどうしますか?」
「そうだな……。固定するとか?」
俺の言葉にイリスはふむと頷く。
「そうですね。それも1つの手でしょう。ただまあ、今回はハズレです。思い出してください、私はさっきどう言いました? それにダンジョンはその時どうなりましたか?」
どう? 揺れた……。そうかなるほど。
「もしかしてあの宝箱、めちゃくちゃ重いのか」
「そういうことです。ようやくわかりましたね。加えてとても頑丈に出来ています」
イリスがよしよしと頭をなでてきた。ええい、子供扱いするなし。
俺はイリスの手を払いのける。
「ダンジョンが揺れた理由はわかった。それじゃああとはこの宝箱の中身だな」
早口になる俺をイリスがニヤニヤと見てくる。
「……何も入れていないと、侵入者が宝箱を開けた際、ランダムにDPを消費して中身が決定されますから、出来れば適当なものを入れておいた方がいいですね」
「となると……、ここら辺か」
銀級の宝箱はレア度が☆2。なので中身も☆2以上のものじゃないと入れられない。
そうなると手持ちだとハイポーションが適当なんだが……。
ただ回復用のアイテムは自分でも使えるから取っておきたいし、そうなるとレア度は1つ上がるが【旧レムリア聖王国金貨】もありか?
そちらは俺にとって使い道のない品だしな。
「……こっちにするか」
俺は迷ったが、金貨を中に入れることにした。
ちょっと中身のレア度は高くなるが、ダンジョンクリアを偽装するならありだろう。
☆3の金級宝箱もガチャで引いたけど、そちらは当面使う予定もないしな。
「よろしいのではないでしょうか」
イリスも同意してくれたし、これにてダンジョンの完成だ。
身抜かりがないかをチェックした後、俺はダンジョンの封鎖を解除した。
そうしてダンジョンを再構築して10日ほど後、ついにゴブリンじゃない、新たな侵入者が現れた。
人間の冒険者がやってきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます