第11話 可哀想的ナーネちゃんと私

 さて、反省会の前にタブレットの確認だ。

 どうにも、ゴブリン達を撃退してから、ピカピカと光り自己主張をしているのだ。

 見てみると、光るトロフィーマークの下に新しいアチーブメントを獲得、とある。

 ……アチーブメント。所謂ゲームの実績みたいな物か。

 内容はというと……、今回は初侵入者退治。

 ふむふむ、それなら報酬は……、お役立ち品ガチャチケット?


「ガチャチケットか~~」


 うん、わかってた。どうせガチャなんだろうって。そこら辺はもう諦めている。

 俺のダンジョンはガチャ仕様。さすがに理解した。

 問題は何が排出されるか、だ。確認する。


「え~、何々。【これにはダンジョンを運営する上で、なくてもいいけどあると便利、的な物が入っています。レアな物にはダンジョンマスタのーの夜のお役立ち品も……、やったね☆ミ】」


 “やったね☆ミ”じゃねーよ。相変わらずふざけてんな!

 思わずタブレットを床にたたきつけそうになる。が、すんでの所でそれを思いとどめた。

 あぶない……。このタブレットは俺の生命線。万が一にも壊すわけにはいかない。


「直情傾向のマスターが思いとどまるとは……。なるほど、それほどまでに夜のお役立ち品が欲しいというわけですか」

「ちげーーし!」


 イリスの言葉に即座に反応する。

 少しでも反応が遅れれば本心……、もとい誤解されかねないからな。


「もし手に入れても、トイレでこっそり使用して下さいね」

「だ、か、ら、違うって言ってんだろ! 大体何を使えって言ってんだよ」

「ナニって……。まさかそんな言葉を乙女に言わせる気ですか? このヘンタイ!」

「そっちから振っておいてそりゃないだろ! 大体、乙女ってガラか?」

「ひ、ひどい……」


 俺の言葉に、よよよと崩れ落ちるイリス。だが俺は騙されない、絶対に嘘泣きだ。


「……ちら? よよよ……」


 どこからか取り出したハンカチを手に、チラチラとこちらを確認しながら涙をふく(そぶりの)イリス。


「……いやいやいや、あからさますぎるだろうがよ」


 俺がそう言うと、イリスも諦めたのか居住まいを正した。


「見ましたか? ナーネちゃん。これが釣った魚には餌をやらない、駄目男の典型という物です。引っかからないよう、気をつけなければなりませんよ」


 言いたい放題である。しかしそもそも、イリスは釣られてない。そんなおとなしい魚じゃない。こいつはそう、そばに来て水を吐きかける鉄砲魚みたいな奴だ。


「な~~」


 こらっ、ナーネもわかったように頷かない。大体俺はそんな男じゃない、騙されて身ぐるみ剥がされるくらいには貢ぐ男だ!

 言い切った俺だが……。

 ………………あれ?

 何かが俺の頬を伝っている。何だこれは? イリスも心なしか温かい目で見ている。


「……そ、それ程までに夜のお役立ち品が欲しかったのですね。お手伝いはできませんが、見守って差し上げます」


 お、おおお手伝いって、ナニを手伝う気だ。 い、いや手伝わないのか。いやいや、見守るのもダメだ。俺にそんな性癖はない!

 うろたえる俺を見て、イリスがふふと笑って、……タブレットをこちらにずいと押す。


「さ、私が見守ってますから、ガチャを引いて下さい」


 ぐぬぬ、騙された。まぁでもなんだか少しだけ心が軽くなったな。

 よし、ガチャを引くか。

 気を取り直し、画面のチケットを選択する。


 すると画面に大きく表示されたのは、ルーレット。

 玉が落ちる地点には携帯の電波マークだったり□だったりハートマークだったりと、いろんなマークが書かれている。


「なるほど……。今回の演出はルーレットか」


 再度タップすると、ルーレット盤がたちまちに回転し始め、銀色の弾が投入される。


 カツーーン、カーーン、カーーン……。


 高速で回転するルーレット盤に、銀の玉は弾かれる。だがそれも徐々に動きを止め……。


 カツン、カン、コロコロコロ、カン。


 最後はピンク色のハートマーク……、の隣。青の四角マークへと止まった。


「残念でしたね」

「うん、惜しかった」

「……」

「…………」



 しまった、つい本音が出てしまった。イリスの目が冷たい。


「いや待て、誤解だ」

「ほほう……」


 よし、とりあえずはイリスが聞く姿勢を見せてくれた。ここからが腕の見せ所だ。


「俺が惜しいといったのはこっちだ」


 弾の落ちた四角マークの隣、ハートマークではなく逆隣、アンテナマークを指差す。


「アンテナマークって事は通信系の何かが手に入ると思うんだ。そして、この場で通信って言うと、このタブレットと……」

「タブレットと?……」


 イリスが先を促す。俺は頷き、イリスを見た。


「イリスさんだよ」

「私、ですか?」


 驚いたように目をしばたかせるイリス。


「そうだよ。通信と言えばサテライト。イリスさんも昨日サテライト的な物の話をしてたじゃないか。人工衛星がどうとか。もしかしたらそういうのが手に入って、イリスさんに情報収集能力が付加されるかもしれない。そしたらまさに鬼に金棒でしょ」

「ふむ……、仮にも乙女に対して鬼呼ばわりは気になりますが。そうですか、悪くない言い訳ですね。認めましょう」


 不承不承といった感じでイリスが頷く。だが俺の目はごまかせないぞ。

 見える! 見えない尻尾がパタパタ振られているのが。俺には見えるぞ!

 ……ふっ、チョロいな。


「どうかしましたか?」


 黙った俺を不思議に思ったのか、イリスが聞いてきた。

 おっと、ここであらぬ疑いを掛けられるわけにはいかない。


「いや、アンテナマークに入らなかったのは残念だけど、それはそれとして、この四角マークは何だろうなと思って」


 手に入った物は、アイコンマークで示され、中身が何なのかようとしてしれない。


「……ふむ。とりあえず使ってみてはいかがですか? お役立ち品と言うからにはデメリットもないでしょうし」


 そこが信用できないのがチャラ神クオリティなんだよなぁ……。

 まあイリスが言うなら大丈夫、か?


「試してみるか……」


 四角マークを選ぶと、【設置場所を指定して下さい】と出た。指定できるのは……、壁っぽいな。

 壁ならどこでも、それこそ風呂場やトイレの内壁にも設置できるみたいだが、ここは順当に脱衣所の壁かな? ここメインで使ってるし。


「ほい、設置と……」


 ああ、完全にモニターだわ。それも埋め込み型かめっちゃ薄いやつのでっかい版。

 操作方法はっと……。ふむ、タブレットからスイッチ入れるのか。


「ポチッとな」


 ブンという音とともに、モニターに九分割されたダンジョンが映り出される。

 何で見た目は有機ELぽいのに、音だけブラウン管なんだよ、と思いもするが、チャラ神のやる事につっこんでもしょうがない。それよりも使い勝手だ。

 映せる場所は各ブロックかダンジョンモンスターの視線。んで九つまで表示可能と……。


「試しに薬草園でも映してみるか」


 映像を切り替えてみると、モニターに映し出されたのは、薬草園でせっせせっせと働くムリアン達だった。


「……何してるんだ? あいつら」

「どうやら花の蜜を取っているようですね」


 イリスの言うとおり、確かにムリアン達は小瓶に花の蜜を採取している。


「何のために……。って、ああ食事か」


 何でわかったかって。みんなが働いている中、つまみ食いをして怒られてる奴がいたからだよ。

 リーダーらしき奴に指揮棒ではたかれてる。何やってんだあいつ。


「あの子、召喚されてすぐサボろうとした子ですね」

「そういやいたね、そんな奴」


 そんなにキャラを立たせんでもいいだろうに……。


 それはそうとして、次はダンジョンモンスターの視点を調べるか。

 ……とりあえずはゴブリンかな。今何をしてるかわかるし。ダンジョンの外にいるから無理かもしれんけど。

 まぁ物は試し。選んでみよう。


【ERROR 該当のモンスターがダンジョン内にいないので表示されません】


「ああ、やっぱりか。それじゃあ代わりにナーネの視点でも……、ってあれナーネどこ行った?」


【代替のモンスターの視界を共有します】


「――――ひぃ!」

「――――っ!」


 イリスと2人、思わず息をのんだ。

 だって画面いっぱいに共有されたのはウーズの視界だったから。しかもゴブリンを捕食中の……。


 チャラ神のやろう。なんつーグロ画像を見せやがる。

 慌ててタブレットを操作し、画面を切り替える――。


 ――すると次に映し出されたのは、風呂桶にお湯を入れてつかる、ナーネの姿だった。


「……なごむわ~~」


 すさんだ心が癒やされる。

 ……癒やされるのはいいが、ちょっと待て。もしかしてこれってマイルームの中も表示できるのか?

 もしそうなら確認したい事があるんだよな。

 画面を二分割し、脱衣所も表示させる。映し出されたのはモニターを見るイリスの姿。

 だが、周りを見渡すがカメラのような物は見当たらない。


「ふむ、これなら見つからずにすむか……」


 タブレットで映像を見たときに試していれば良かったかもだが、今気づけたのは僥倖だろう。戦術の幅が広がる。

 ……これからのダンジョンに思いを巡らせていると、画面に映るイリスが、口に手を当て、幾分か引いた目でこちらを見ていた


「そんな顔をして、どうしたんだいイリスさんや」


 小粋な感じで聞いてみる。


「なんでもないですよ。変態マスター

「いや、何でもなくはないだろう! あきらかにニュアンスがおかしい気がする」

「おや、マスターは鋭いですね。だって、先ほどは突然お茶の間にお見せできない画像――ゴブリンのグロ画像――を見せつけ、次は見てはいけない画像――ナーネちゃんの入浴シーン――を覗き見る。これがマスター=変態でなくて何というのですか?」

「え!? それイコールで結ばれるの? いや、それは違うくて、偶然なったというか……」

「加えてそのあとに、私の顔をなめ回すように見ながら……。いえ、これは私の魅力が罪だっただけの事、これだけなら理解できました。ですがそのあとの言葉が「見つからずにすむ」……。これはいただけません。この盗撮魔へんたい!」

「もうマスターですらない!!」


 いかん! これはいかん。このままでは変態のそしりを受けてしまう。早く誤解を解かねば。


「こ、これは違うくてだなぁ」

「なんて可哀想なナーネちゃん、それに私……」


 聞けよ! いや、聞いて下さいよ!

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