第8話 やっと的ダンジョン開通

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 モンスターチェア


 イミテートモンスターの一種。椅子に擬態している。

 宝箱等に擬態するイミテートモンスターに比べ、確認数は少ない。

 その椅子の座り心地は天上のごときものであり、座った物は夢心地のうちに天へと召されるであろう。

 とはいえ、ダンジョンに椅子がぽつんとあるのは不自然であり、イミテートモンスターとしては失敗作なのかもしれない。

 桃尻が好み。


 スキル

 擬態 睡眠 格闘 清潔

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「なるほど。痛みで気絶したわけじゃなくて、スキルの効果で眠ってしまったわけね」


 幕の内弁当をつつきながらタブレットを操作する。ちなみに箸はスプーンフォーク付きの菜箸だ。これがまた使いづらい。

 まぁさておき、気がついて初めにしたのはモンスターチェアをタブレットで確認することだった。

 あ、ちなみに起きると床に転がされてましたよ。いやまぁ、膝枕とかが無いのはわかってたけど、それでも悲しいもんだ。

 それはともかくモンスターチェアだ。魔物に見せかけてただの椅子かと思ってたのに、さらにその裏をかいてくるとは……。チャラ神め、やってくれおる。


「マスターの確認不足なだけでは?」

「ナー」


 ええい、そんなことはわかってる。心を読んで突っ込まないでくれ。ナーネも悲しい顔で同意しない! 悲しくなるから……。


「そういやこいつ、しゃべんないんだが」


 モンスターチェアを指さしながら言うと、


「イミテートモンスターの一種ですからね。よほどのことがないとしゃべらないんじゃあないでしょうか」


 そう、イリスが答えてくれた。

 ということは何だ? 俺が座ることが、よほどのことだということか、このやろう。

 じろりとモンスターチェアをねめつけるが身じろぎもしやがらねぇ。





 弁当を食べ終え人心地ついたところでモンスターの召喚だ。今日中にダンジョンを開通させないといけないからな。そうしなければデイリーガチャが回せない、イコール飯が食えないってことになる。

 というわけでまずはこいつ。


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 ゴースト


 死者の想いが強いマナに影響されて現れた存在。半透明の茫洋とした存在で生前の記憶は無い。

 アンデッドであり実体もないため、通常武器は効果が無い。聖別された武器や魔力を帯びた攻撃が効果的。一番入手がしやすいのは銀武器なので、御守り代わりに銀のナイフを持っている冒険者もいるようだ。

 ゴーストの攻撃手段は、魔法とマナドレイン。魔法の属性は個体によって様々ではあるが、初級魔法しか使えないのでそれほど恐ろしくはない。また魔法を使う度にマナ、すなわち身を削って攻撃をしているわけであり、チャンスにもなり得る。

 怖いのはマナドレインである。冒険者にとってマナの枯渇は気絶であり、直接死に至るわけではない。だが迷宮内での気絶は死と同義であることを知らない冒険者はいないだろう。

 強い感情が好み


 スキル

 浮遊 物理無効 初級魔法:一属性 非実体 マナドレイン 聖×

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 二人のゴーストが目の前に現れた。人っぽいサムシングかと思ったらそうではなく、何か不定形かつ半透明の謎物体だったでござる。


「……えっと、二人とも俺のことがわかる?」

「ごぉおぉぉ」「がぁあぁぁ」


 うーん、何を言ってるかはわからないが、こっちの言ってることは理解してるっぽいか?


「よし。二人――名前はそうだな……、ジョンとジェーンにしようか――に頼みたいのはゴブリンの撃退。といっても全滅なんかさせなくていいからね。何体か気絶させて追い返させればいいよ」

「ごぉおぉぉ」「がぁあぁぁ」


 二人は現れたときとおんなじ声を上げてダンジョンに入っていった。

 あ、何の属性の魔法を使うか聞くのを忘れてた。ま、相手はゴブリンだし物理無効あるから死にはしないだろ。次だ次。


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 ムリアンの群れ


 体長10㎝ほどのコミカルな形をした蟻。常に数十匹の群れで行動している。

 楽器や指揮棒を持っている個体もおり、回復や眠りの呪曲を使用することができる。

 また、その実体は妖精の一種であり、精霊魔法の行使も可能。ただし攻撃魔法は使えない。

 特に野生のムリアンは温厚な者が多く、友好関係を築くことも可能のようだ。

 生真面目。


 スキル

 群体 呪曲 精霊魔法:下級一部  

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 目の前に現れたのはかなり大きなアリの群れ。とは言え見た目は、絵本のアリとキリギリスのアリのような見た目なので気持ち悪くはない。むしろかわいい感じだ。


「キミ達にはダンジョン内で、他のモンスター達のサポートに回ってもらいたいんだけど大丈夫かな?」

「!」


 代表者なのか、指揮棒を持ったムリアンが前に出てきて胸を張り頷く。


「うん、それじゃあよろしくね」


 俺がそう言うと、ムリアン達はダンジョンへと音楽を奏でながら歩いて行った。

 何か癖の無いいい奴らだ。なんか濃い奴らばっかりだからほっとするわ。

 って、一匹だらけて残ってる奴がいるじゃ無いか。あ……、引きずられて連れて行かれた。

 ……前言撤回。生真面目じゃなかったのかよ! やっぱ変じ……、もとい個性的な奴ばっかりだわ。


「類は友を呼びますね、マスター」

「ホントにな……」


 イリスをにらみながら答えるが、どこ吹く風といった表情だ。

 まあいい、次はっと


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 ウーズ


 深い緑色で不透明の身体を持った不定形生物。

 スライムの一種であり、同様に相手を取り込み溶かすことを捕食方法とするが、その危険性は段違いである。その大きさと粘度により、一度取り込まれた者が自力で逃げ出すことは難しい。

 事前に見つけ出し、遠くから焼くことが望ましい。

 もし不幸にして仲間が取り込まれてしまっても、魔法や油でもって焼くのをためらってはいけない。たとえ大やけどを負おうとも、ウーズに取り込まれてしまうよりはいいのだから……。

 繊維、衣服が好み


 スキル

 物理耐性 捕食 酸の身体

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 最後の一文!!!


「お前、ただのエロモンスターじゃねぇか」


 目の前に現れたウーズに向かってそう叫ぶも、ウーズは身体をぶよぉんと揺らすだけ。


「まぁいいや、お前の定位置はここな」


 そう指示すると、彼? はその身体を揺らしながらダンジョンへと入っていった。


「……さて。次で最後だ最後」


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 ゴブリン


 最下級の妖魔。その姿は、肌が緑色の醜悪な人の子供。

 基本的に頭は良くないが悪知恵は働く。また群れをなすが連帯感は低く仲間を見捨てることもしばしば。

 ただその繁殖力は高く、出産から成人に至るまでのサイクルも非常に短い。

 加えて、個体数が多いからか、その上位種や亜種といった者も多く見受けられる。

 冒険者はゴブリンを倒せるようになったら見習い卒業と言われる。

 以外ときれい好き


 スキル

 繁殖

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「お前、きれい好きなのか?」

「ゴブッ」


 目の前の、腰蓑姿の緑の子鬼にたずねると、彼は元気よく頷いた。つーかホントにゴブゴブ言うのな。


「そうか……、まあいい。ゴブリン、お前に頼みたいのは外にいるゴブリンの誘導だ。このダンジョンの外はゴブリンの巣穴みたいだから、仲間の振りして外の奴をダンジョンに、……そうだな薬草園当たりに誘導して欲しい。ダンジョン内に入ったあとの処理はこっちでするから、ずっと仲間の振りしてていいぞ。わかったか?」

「ゴブゥ」


 ゴブリンは大きく頷いた。


「よしよし。それじゃあ何か武器いるか? つっても棍棒くらいしか無いけど」

「ゴブゴブ」


 俺の問いに、ゴブリンは首を横に振ったあと、手を大きく振り上げてこちらを威嚇し始めた。


「何だ、やる気か? 俺の通信空手が火をふくぞ!」


 俺がファイティングポーズを取ろうとすると、ゴブリンはまたも首を横に振る。


「ゴブゥゴブゴブゥ」


 そして今度は俺に平伏し、何かを捧げるように両手をあげた。


「ふむ、もう降参か。たわいない」

「はぁ、あきらかにジェスチャーでこっちに語りかけてるじゃないですか。何を言ってるんです?」


 小芝居やってたらイリスにつっこまれた。しかも何だ? 肩をすくめてやれやれみたいな、アメリカン的オーバーアクション。おい、そこのゴブリンも満足そうに頷かない!

 いやさ、わかってたよ。わかってましたよ。まさかゴブリンがそんな方法でコミュニケーションを取ってくると信じたくなかっただけだよ。

 さて、あらためてゴブリンを見ると、今度は彼は右手に立っては威嚇し、左手に回っては平伏するということを繰り返している。なるほど……。


「強い奴に脅されて取られるから、武器はいらないのか」


 そう確認するとゴブリンは嬉しそうに「ゴブゴブ」と頷いた。


「なんだ、それならそうと早く言えばいいのに」

「ごぶぅ」


 俺の言葉にゴブリンはうなだれた。


「ゴブリン語を理解できないマスターのために、頑張ってジェスチャーをしてたゴブリンに……。その言い様はかわいそうですよ」


 そして俺はイリスに怒られた。


「ナー」


 いつの間にか起きてたナーネも、両手を腰に当てての様子だ。


「お、おう。すまんかったな」

「ゴブッゴブブ」


 ゴブリンは手を大きく振って、こちらの言葉を否定した。しかも立ち上がって……。ああジェスチャーか。なになに……。


「自分は……、うたれづよいから……、大丈夫……?」

「ゴブブッゴブブッ」


 嬉しそうに頷くゴブリン。なんだ、思った以上にいい奴だな。


「それじゃあ、さっき言ってたとおりお前には野生のゴブリンの誘導をお願いする。あ、薬草園の薬草も適当に持って行っとけよ」

「ゴブッ」


 ゴブリンは元気よく敬礼すると、マイルームの出口へと向かっていった。と、扉を開けてる途中で振り向いた。なになに、またジェスチャーか?


「……みんな? ……なかよく」

「ゴブゥ」

「……わかったわかった。仲良くするからお前は早く行け」


 雑な俺の言葉にも、ゴブリンは満足げな表情を浮かべマイルームを出て行った。


「……何というかあいつもまた、別のベクトルで変な奴だったな」

「そうですね、かなり個性的なゴブリンだと思います」


 イリスも俺の言葉に同意した。


「ゴブリンの説明を見る限り、俺の世界の想像上のゴブリンと――きれい好きなこと以外は――ほぼ一緒みたいだもんな」

「当然ではありますね」

「ん? どゆこと?」

「マスターの認識するゴブリンというものに一番近い存在を、マスターがゴブリンと認識しており、マスターがそう呼称しているだけですよ」

「……ふむ、例えるならばリンゴを見た時アメリカ人はそれをAppleだと認識し、俺は林檎だと認識するみたいなもんか」

「はい、そう考えてもらって結構です」


 なるほどなぁ。何かこれ“一番近い認識”っていうのが結構ポイントな気がするぞ。下手な先入観を持ってるとどっかで失敗しそうな……。

 俺が思考の渦にとらわれてると、イリスが声をかけてきた。


「さっきのゴブリンがそろそろダンジョンの出口に到達しますよ」

「おっといかんいかん。それじゃあダンジョンの開通だ」


 俺はタブレットを操作し、ダンジョンをゴブリンの巣穴につなげた。

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