第7話 とりあえず的ダンジョン完成

 しばらくの間、うたた寝をするナーネを眺めつつ、ダンジョンについてイリスに教えてもらっているうちにタブレットのアップデートが終わったようだ。再起動した画面の隅には、ver.1.001とある。……芸が細かいな。

 ちなみにアップデート内容は『ガチャ排出アイテムが一部追加されました』とのこと。


「いや、知りたいのは何が追加されたのかなんだが……」


 そうつぶやくものの、イリスの返事はすげない物だった。


「量が膨大だから表示されないんじゃないんですか? そもそも論としてマスターはガチャから何が排出されるか知らないわけで……」

「いやまあ。確かにそうなんだけどさ」


 まぁいいや、わからない物は仕方ない。それよりも、せっかくアップデートされたんだからガチャるか。


 ピピピピピピピピピン


 ☆     罠A

 ☆☆    宝箱(銀級)

 ☆☆    ハイポーション

 ☆     罠B

 ☆☆☆   旧レムリア聖王国金貨

 ☆     棍棒

 ☆☆    罠A

 ☆☆☆   モンスターチェア

 ☆☆    ハイポ―ション


 何か毛色の違う物が色々出てきたが、今気にしなければいけないのはそこではない。

 そう、今気にしなければいけないのは、タブレットの真ん中で金に輝き回る星。そう、これはきっと星5演出に違いない。


 その期待は裏切られず……、排出されたのは星5。


「よっしゃ」


 思わず飛び出すガッツポーズ。隣のイリスも目を丸くしている。


 ☆☆☆☆☆ エリクサー


 ……う、うーん。嬉しいんだけど、そうじゃない感がひどい。せっかくの星5なんだから、俺の身を守ってくれるなにがしかの方が良かったんだが……。


「何をそんな微妙な顔をしているんです? もしかしてこれの価値がわからないとかですか?」

「わかるよ! 多分すげー効果の貴重な物だろうって事はさ。でも今欲しいのはこれじゃない」

「そ、そんな……」よよよと泣き崩れるイリス。「死んでさえいなければどんな傷も癒やすというこの薬をいらないと……」

「いらないわけじゃないけどな。今は傷を治す方法よりも怪我しない方法の方が欲しい。エリクサーってある意味ハズレだよな。イリスさんもそう思ってるだろ」

「ええまぁ。せっかく星5を引けてもこのざまでは……。なんて思ってませんよ。面白い運だなぁとは思いましたけど」


 イリスはけろりとした顔でそうのたまった。

 このやろう……。やはり嘘泣きだったかとか色々言いたいことはあるが、とにもかくにもこのやろう……。


「私はやろうではありませんよ」

「なっ」


 もしや口に出していたか!?


「いえ、マスターの顔に書いてあるだけです。というか表情に出過ぎですね。減点……、そうですね減点10くらいにしておきましょうか」


 うわぁ、すげー雑に減点された気がするな。

 ともあれ、これでガチャ券も使い切ったわけで、つまりは今の手持ちでダンジョンを作らないといけないわけだ。


「……とりあえず作るか」


 俺はタブレットを操作し、ダンジョンを配置し始めた。



「なぁなぁイリスさんや。この罠AとBとかって何?」

「タップするとランクに応じた罠が選べますよ。ただ、一度決定すると変更はできなくなるので注意してくださいね」

「……?」

「例えば罠Aを落とし穴に指定した場合、持っていた罠Aはすべて落とし穴に変わり、加えて今後排出される罠Aもすべて落とし穴に変わります」

「なるほど……。ちなみにその場合☆2の罠Aも落とし穴になるの?」

「そこはならないです。ランクが変われば別物と考えてください」



「ねぇねぇイリスさんや。このダンジョン、自動で扉がついてるみたいなんだけど」

「デフォルト設定では、通路と部屋をつなげると扉ができるようになってます。扉無しでつなげたい場合は手動で変えられますよ」



「なぁなぁイリスえもん。この落とし穴、せっかく星2で作ったのに全然隠れてないんだが」

「仕方ないなぁマスターは……。それはね、隠蔽の罠を作って落とし穴に重ねればいいんだよ」

「なるほどわかったよ」

「あ、ちなみに減点10です」

「何でさ!? そっちものってきたじゃん」

「……なにか?」

「イエナンデモ」



「罠の設定にある条件って何?」

「発動条件を狭めることで、罠を強化できます。ちょっとしたカスタマイズですね、もちろん限界はあります」



「そういえばイリスさんや、ダンジョン内のモンスターって死んだらどうなるの?」

「DPを消費して復活させることができます。消費するDP及びかかる時間は、基本的にはランクに応じます。ただ、死亡して24時間経過するとロストして復活できなくなりますので注意してください」

「……なるほど」

「あと、私、“機心”のイリスギアのような二つ名持ちの復活コストはかなり高くなってますので、そこの所も注意してくださいね」

「ああ、今確認した。めっちゃ高いな。こんなの払えるようになるのかね」

「チュートリアル能力があることも加味されてますからね。その代わり時間経過よるロストはないですよ」

「ったくお高い女だこと。せいぜい大事にさせていただきますよっと」

「……ふむ、加点5ですね。その調子で精進してください」



「あ、そうだイリスさん。ゴブリンの知能ってどれくらいかわかる? 具体的に言うと文字があったりする? あと隠蔽って看破できそう?」

「通常のゴブリンでは看破は難しいかと思います。ただし上位種によっては知能の高い物もいますので注意が必要です。もちろん個体差もありますが。あとゴブリン語に文字はありません」

「なるほどね。上位種がホイホイ出歩くこともないと信じたいなぁ」




「マイルームとダンジョンをつなげた所は扉でいいの? あとどこでもつなげられたりしない?」

「はい、ただし床とか天井につなげることはできませんよ」

「ちっ」






「よし、終わったー」


 ぐっと伸びをすると、パキパキと骨がなった。うーん年かねぇ。いや、余命十年ってことを考えると、あながち冗談にならないな。


「あ、終わりましたか? どんな感じか見せてもらっても……」


 イリスがタブレットをのぞき込んだ状態で固まった。まぁそうだろうな。結構な時間をかけてできたのがこれじゃあな。


https://32334.mitemin.net/i451044/


「最初の部屋以外に配置したものが、部屋一つ、通路三つに薬草園ですか……。あまりにも少なすぎでしょう。一応マイルームにつながる扉には隠蔽をかけてるようですが、やる気があるのですか?」


 イリスの声が冷たい。わりとガチでおこな気がするから言い訳をしておくか。


「やる気はあるよ、文字通り命がかかってるんだし。でもこれ以上ダンジョンを広くしても意味が無いと思うんだよね。配置できるモンスターにも限りがあるし」

「しかし安全性を考えると――」

「そもそもゴブリンってダンジョンを攻略しようって思ってるの?」

「そ、それは……」


 人間は名声であったり宗教の後押しもあってダンジョンを破壊しに来る。でもゴブリンとか知能の低い魔物の場合はそうじゃないと思うんだよなぁ。文字がないなら情報の共有化もされないだろうし。ダンジョンを壊すメリットを知ってる可能性は低いだろう。


「ま、明日は配置するモンスターを呼び出すし。そこで何か不具合でそうなら拡張するよ。あ、開通も明日の予定ね」

「わかり、ました……」


 うーん、このあとマイルームの拡張について聞きたかったんだけど、あきらかな不満顔のイリスに聞くのはいやだなぁ。

 ……よし、今日はもう寝よう。とは言え、脱衣所にそのまま横になるのもな。

 いやまて、そういやさっきモンスターチェアってのをひいたな。あれって確かくそ高い椅子だったよな、前にデパートの展示で見たことがある。モンスターに見せかけて実はただの椅子でした、とかいかにもチャラ神のやりそうなことだ。


「今日はもう休むことにするけど、イリスさんはどうする?」

「……あ、いえ。私はこのままでいいです。休憩も必要ありません」

「おっけ。それじゃあすまんけど、俺は椅子出して寝ることにするよ」


 とりあえずモンスターチェアを呼び出してっと……、あとは棚に顔突っ込んで寝るか。


「え!? ちょっと待って下さい」

「ああ、椅子で寝るの慣れてるから大丈夫。まぁ慣れたくはなかったけど……」

「いえ、そうではなく――」

「――てめえのきたねぇケツ、乗せるなって言ってんだよ。食っちまうぞゴラァ」

「――!――!!」


 野太い声とともに尻に激痛がはしり、世界が暗転した。

 ……ケツかじってから言ってんじゃねぇよ。

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