第6話 メイド的戦闘力

「さて」イリスが居住まいを正した「次はダンジョンの出口、マイルームへの入り口の設定です」

「ふむ、この部屋もダンジョンにつなげなきゃならないのか」


 さすがにマイルームにいれば安全、というわけにはいかないのか……。


「そうですね。ダンジョンの外とマイルームがマップ上で切り離されていないことが、ダンジョンの構成要素となります。また、マスターが死ぬとこのダンジョンは機能を失います。なので、しっかりとダンジョンを作ってくださいね」

「俺、戦闘力無いからこの部屋に侵入された時点で詰みなんだけど……。ああでもイリスさん☆4だし、かっこ悪いが最悪守ってもらう形になるのか……」

「か弱いメイドに向かって何を言っているのですか? 私に戦闘力は無いですから、そんなの無理ですよ」


 あきれた声で言うイリス。


「え!? ☆4で二つ名もついてるのに戦闘力無いとか、まさかそんな。冗談だよね」

「こんなことで冗談は言いませんよ。そもそもレアリティと戦闘力は必ずしもイコールではありませんし、現状のガチャで排出される☆4☆5はすべて二つ名付き。言わばユニーク個体です。むろんユニーク個体に戦闘力が高い個体が多いのは事実ですが、これも必ずしもイコールでは結ばれませんよ」

「マジか……」


 当初の予定、ユニーク個体に守ってもらう案は水泡に帰してしまった。俺はがくりとうなだれる。


「私が自信があるのは、知識と身の回りのお世話ですね。そこはパーフェクトだと自負しております」

「……スカートの中に手榴弾が仕込んであって、相手を爆殺できたりとかは?」

「無理ですね。私、東南アジアの武装メイドではないので」

「……サテライトビームを撃ったりとかは?」

「人工衛星を打ち上げてから言ってください。そもそもダンジョンの中ですよ、ここ」


 なるほど、ここに攻め込まれる=死か。まぁそもそも一体で無双できるモンスターなんて最初から手に入るわけ得ないか。そんなのいたら競争にならないし。


「ちなみに、侵入者がここを見つけたとして、見逃してくれたりとかは?」

「あり得ないでしょうね。我々のダンジョンはこの世界で生起型ダンジョンと呼ばれています。いわゆる自然洞窟に魔物が住み着いたダンジョンと違って、生起型ダンジョンの場合、その最奥にダンジョンマスターやダンジョンコアと言った物があります。それらの破壊によってダンジョンは機能を失います。コアであれば、この世界で結構なお宝になりますし、ダンジョンマスターを倒した場合も何らかの宝を手に入れることができると言われています」

「それって、このダンジョンも?」

「そうなりますね。くわえて相手がマスターと同じ異世界からの転移者であった場合、寿命も加算されます」


 ここで転移者の話が出てくるのか……。つまりは長生きしたければ転移者同士で殺し合いをしろという訳だ。

 俺のロールはダンジョンマスターだけど、例えば他の奴らが勇者とかそういうロールだったら、ダンジョン探して乗り込んでくるよなぁ。


「ちなみにですがマスター。生起型ダンジョンの機能を停止させることは、この世界の宗教で推奨されていますので、共存は難しいと思いますよ」

「おおう、なるほどね」


 長期的に見てダンジョン停止以上のメリットがあればとも思ったけど無理か……。

 これってあきらかにチャラ神、いやこの世界を作った上位神当たりの思惑がはいっているよなぁ。


「さて、話は戻ってダンジョンの出口の設定です。さ、ガチャを引いてください」

「……嘘だろ、おい。ダンジョンの出口もランダムかよ。せ、選択権は?」

「ありませんよ、強いて言えば元々無料のこのガチャをDPを消費して回すことで、レア度の底上げができることでしょうか。DP20で☆一つ、50で☆二つですね」

「DPなんてねぇよ!」


 叫ぶ俺を見て、イリスはやれやれと肩をすくめた。


「ありますよ。不要なオブジェクトやモンスターを消去することで多少は手に入ります。」

「ああ、なるほど」


 マウスやGを始末すればDPが手に入るのか。それなら不要な物をまとめて処分してDPを手に入れるというのも……。


「どうします?」


 そう聞いてくるイリスに向け、少し考えた後俺は首を横に振った。


「いや、ガチャはDP使わずに回す」

「どうしてです? 使えば確実にレア度が上がりますよ」

「さっき言ってたよな。レアリティと戦闘力は必ずしも比例しないって。それってこのガチャも一緒なんじゃないのか? レア度が高いって事はその場所が稀少だって事だろ? それってヒマラヤの山頂みたいな誰も来ないところかもしれないし、逆に迷宮都市――あればだが――みたいな高レベル冒険者がいっぱいいるところかもしれない。そんなの引き当てたらどちらにしろ詰みだよな」


 イリスは俺の意見をじっと聞き、そして手をたたいた。


「すばらしい。まさにその通りです。イリスポイントを10点差し上げます」

「……なんだよイリスポイントって」

「おや、ご存じでない。なんとこのポイントが100たまると、私の好感度が1上がります」

「知らねぇよ! あと効果もしょっぱすぎるわ!」

「それは残念……。それと言い忘れてましたが、ダンジョンの出口が確定したら24時間以内に開通させてくださいね。それを過ぎるとダンジョン内のランダム位置に出口が配置されます」


 それはいいか……。どのみち開通させなきゃガチャも引けないしな。

 ひとまず出口はDP消費無しでガチャるとして、Gとかの処分はどうしようかな……。うーん、DPが必要になったときでいいか。


「断捨離はよろしいので?」

「DPが必要になったらする。今不要なモンスターも、もしかしたら必要になるかもしれないし」

「……片付けられない人の言い訳ですね。もしやマスターの家はゴミ屋敷だったのでは?」

「大丈夫だ。そんなに物を持ってなかったからな」

「それはそれで悲しいのですが……」


 造形物には手を出してなかったし最近は電子媒体にも手を出していたからな。リアルの趣味物は少ない。おまけ目当てで買ってしまった物に関しては、実家の部屋という最終手段を使ってたりもしたから大丈夫だ。

 いや、そんなことはどうでもいいか。さっさとガチャを引いて出口を確定させよう。


 タブレットをタップする。するといつも通りの星、ではなく洞穴のようなマークが回転し始める。……無駄に凝ってるのな。

 そして洞穴は回転を止めて、その上に星が浮かび上がった。


 ☆☆☆


「――ちょっまてよ。何で低レアで行こうと決めたときに☆3とか出るのよ。……イリスさんも残念な物を見るような目でこっち見んな」

「いえ、中途半端にレア度高めを引いたな、と。この微妙さ。いかにもマスターらしいですね」

「微妙って言うなや」


 いや、そんなことより何が出たかの確認だ。…………“ゴブリンの巣穴”?


「これ、何?」


 タブレットに表示されたその文字についてイリスに尋ねると、彼女はしたり顔で頷いた。


「ゴブリンは自然洞窟や廃坑を住処にして繁殖しますので、おそらくそれらにつながる出口と言うことでしょう。ちなみにこの世界のゴブリンは、いわゆるラノベによく見られるような子鬼ですね。ゴブゴブしゃべります」


 しゃべり方なんてどうでもいいわ。……そんなことより、いきなりモンスターの巣穴に直結とかクライマックス過ぎないか?

 いやまてよ。そういやゴブリンって引き直しガチャで何回か引いたな。あれは確か……星一つだ。レア度と戦闘力は必ずしも比例しないって言ってたけど、逆に言えばある程度は参考にできるって事だよな。別にユニーク個体とか言うわけでもないし。それなら……。


「イリスさん、一つ質問だ。ダンジョン内でゴブリンを倒したらDPが手に入るのか?」


 イリスは満足げに頷いた。


「もちろんです。このダンジョン産の生物でなければ基本的にDPが手に入りますよ。基本的には強さで得られるDPが変わります」


 ……それなら今の手持ちとガチャチケットで引く分で何とかなる、か? 少なくともゴブリンがしのげれば、DPも手に入って次につなげられるはず。


「よしっ」

「方針は決まりましたか?」

「ああ、とりあえずチケットを使ってガチャを引こう」

「わかりました」


 さっそく回す。

 ピピピピピピピピピピン


「安定の演出無しだなぁ」

「とは言うものの、レア度的にはそれなりですよ」


 言われてみると確かに結構いいんじゃなかろうか。


 ☆     ゴブリン

 ☆☆☆   ウーズ

 ☆☆☆   宝箱(金級)

 ☆☆    罠A

 ☆☆    部屋A

 ☆☆☆   鋼鉄のオノ

 ☆     通路A

 ☆☆    ムリアン(群れ)

 ☆☆    通路A

 ☆☆☆   キラーフィッシュ(群れ)


『宝箱が排出されたため、アップデートを行います。アップデート後は排出内容が変わります。しばらくお待ちください』


 そんな言葉が描かれると、タブレットは電源が落ち真っ暗になった。程なくして画面にはシークバーが写ったが、その進みは遅い。


「いきなり電源が落ちたんだけど、どういうことだよこれ。まだダンジョン開いてないから大丈夫だけど、もし侵入者がいたら危なくないか?」

「さすがに侵入者がいる状態で操作不能になることは無いと思いますよ、たぶん……」


 イリスが珍しく、自信なさげに言った。


「不安だな、おい……。まぁ今回は安全だしいいか。それよりもアップデートって何よ。今後もこんな感じでガチャとか色々変わっていくわけ?」

「そうですね。マスターの行動やダンジョンの状況でアップデートが行われます。基本的にはできることが増える事になりますね。今回は宝箱が出たことによってアップデートが行われました。宝箱についての説明をしましょうか?」

「ああ、おねがい」


 それでは、と頷きイリスは話し始めた。


「宝箱をダンジョン内に配置することによって継続的にDPを得ることができるようになります。得られるDPは宝箱のランクによって決まります。ただし、宝箱にはそのランクに応じた中身を用意するか、開けられた場合に自動でランクに応じたDPを消費するよう設定をしなければなりません。今回のアップデートでは宝箱の中身に該当する品もガチャから排出されるようになったと言うことでしょう」

「……それってガチャの闇鍋化が進んだってことじゃないか?」


 そう聞くと、イリスはスッと目をそらした。


「そうとも言えますね……。ですが、アップデートの内容によってはガチャの内容をすっきりさせたりする物もあるので、頑張ってくださいね」

「ちなみに何をしたら、いい感じのアップデートになる?」

「それは言えません。禁則事項です」


 まぁそうだよな。そううまくはいかないか。あとイリス、片目をつむって指を立ててるけど、突っ込まんからな。イリス、おまえには似合わん。


「さて、アップデートが終わるまでまだ時間がかかるみたいだし、気になってた薬草園についても聞いておこうかな」


 恥ずかしげに指を下ろすイリスに聞いてみた。ふふ、スルーは辛かろう。


「……くぅ。薬草園も同じですよ! 設置してるとDPが入ります。ただし宝箱と違ってデメリットはありません。ある程度なら勝手に生えてきます。さすがは高レアですね。まぁその分はいるDPも少し少なめですが!」


 早口でまくし立てるイリスの言葉を吟味する。薬草園はマップにそのまま設置する物なのね。場所は結構取るけど、デメリットがないんだったら置くしかないな。


「あとはそうだな。モンスターの食事とかはどうすればいいの? それぞれに用意はなかなかに辛いと思うんだけど」


 ペットボトルに寄りかかって、舟をこいでいるナーネを見ながら言う。彼女に関しては、俺が用意できるのは水くらいだし、多分それでいい気はするんだがな……。


「食事は用意しなくても大丈夫ですよ。その場合は維持費としてDPが支払われます。ただ、食事を用意するとDP消費が緩和され、あと好感度も上がりやすくなりますね」

「なるほど、ちなみにイリスさんは?」

「私ですか? 食事はそこから勝手に取りますし、維持費もかかりませんよ」


 イリスが指さした先はコンセントの差し込み口……。


「電気で動いてんの!?」

「正確には電気でも動くことができる、ですね。とってもECOだと思いませんか? 褒めてもいいんですよ。何も出ませんけど」

「お、おう。すごいな」


 すごいけど、それってECOって言うのかなぁ……。



――――――――――――

割とどうでも言い設定


赤光のベナンディさんを引いてたら、マイルームの安全は確保されたかも。

ただ戦闘力全つっぱのあほの子なので、ちゃんとダンジョン運営できたかどうかは謎。

知識として知ってても、ちゃんと引き出せるかどうかはわかんない。


イリスさんの場合、ダンジョン運営以外にも、今のこの世界のことを色々知ってる知識ビルドなので、その点は楽。


暴食さんの場合、デメリット――食費&維持費&意思疎通――がチュートリアルキャラ化することでなくなるので、こやつが一番の当たりだった可能性……。

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