第2話 録音的出会い

 うん、大きな声を上げたら少し落ち着いた。考えてみれば特に時間も設定されてないんだから、いくらでも引き直せばいいんだよな。

 となると狙うべきはやっぱりキャラか? 例えどんなにダンジョンが狭くても強キャラが何体もいれば生き残れるはず。……大丈夫、だよな?

 よくある設定なら、ダンジョン内の侵入者を倒せば何かしらのポイントが稼げて、そのポイントでガチャが引ける、はず。

 仮定に仮定を重ねてるけどあながち間違いじゃないはずだ。それにチャラ神はああ見えて根は真面目そうだし、競争要素があるんだから即死地雷設定なんて盛り込まないだろ。たぶんきっと……。


 よし、そうと決まればさっそく引き直そう。

 床で、早くしろとばかりに主張しているタブレットを拾い上げタップする。すると今度は読み込みも無く画面上の星が回り始めた。


 ピンッピンッピンッ


 ☆☆    鉄の爪

 ☆☆    シャドウリンクス

 ☆☆☆   大部屋


 特に何事も無く排出されるコモン群。

 まぁ、そんなところだろうと思ったよ。でもまあモンスター、装備品、ダンジョンとおいしいところがそろってる上に、レア度的にそこまで悪いわけじゃない。それに演出のためか、再度星が回り始めた。しかも色は金色。これは期待大だ。


 星がはじけガチャから排出される――


 ☆☆☆☆☆ “暴食”のグラニート


 ――灰白色の肌に黒のアクセントが入った……、スライムだった。


 ……あーー、うん。確かに高レアだけどさぁ。確か初回排出キャラがチュートリアルしてくれるんだろ? さすがにスライムはなぁ。

 これがスライム娘ならワンチャンあるんだけど、それにしたって二つ名に“暴食”ってあるからなぁ。食費かさみそうだし厳しいよな。

 とは言え☆5キャラだ。他によさげなキャラが排出されたら、これはこれでありかもしれん。なにげに次もガチャ演出はいったしな、期待できる。


 タブレットの画面上では銀の星が回転し……、そしてはじけた。


 ☆☆☆☆  “小食”のプティング


 ――排出されたのは乳白色の肌を持つ……、スライムだった。


「違う、そうじゃない」


 辛い、思わず跪いてしまった。

 俺が求めてるのは食費とかそう言うんじゃないくて、いや食費も大事だけどそう言うんじゃないんだよ。

 ロマンとか人生のうるおいとか、そういうのが大事だと思うんだよ。だからさ――


 ――ピピピピピピン


 ごたくはいいとばかりにガチャは排出を続ける。何かこのタブレットにもおちょくられてる気がするな……。


 ☆     台所

 ☆     コボルト

 ☆☆    部屋

 ☆☆☆   ワンルーム

 ☆     通路A

 ☆     通路C


 ……安定の引き直し案件。まぁそんなことだろうと思ったよ。


 さ、次行こう。っと、その前に引き直し終了の最低ラインを決めておこうか。じゃないと上を見続けて延々と引き直ししそうだし……。

 まずは星5以上1体、加えて星4以上のキャラが一体は欲しいよな。あ、後星3以下のモンスターも一体。じゃないと死ぬ。ポイントゼロな上に能力値の上昇率までゼロらしいからな、俺って。だから最低限これは必須。

 それに加えて部屋とか通路みたいなダンジョン構成要素も欲しいところ。キャラとかモンスターがダンジョンじゃないと配置できない&俺が一人で外に放り出されるみたいなこととかあったら、それもまた死の危険大だもんな。

 後はなぁ、最低限人型で意思疎通……。いや、正直に言おう。女の子がいいです! そしてできればキャッキャうふふしたいです!

 ……つまり簡単にまとめると――


・星4以上のキャラが2体以上、うち最低星5一体(可愛かったり綺麗だったりする女の子希望)

・星3以下のモンスター(コスト的なものがあるかもしれないから保険の意味でも)

・ダンジョン構成要素(ダンジョン作れないと詰むかも)


 ――以上の要件を満たすまで引き直し続ければいいのか。まとめてみると意外に簡単そうじゃないか? 思えば今までのガチャ結果も結構惜しいところまでいってたし。

 そうと決まればさっそく引き直しするか……。タブレットも早く引けとばかりにアニメーションしはじめたしな。





 ……さて、もう1時間以上引き直してるわけだが、まだ終わらない。色々と惜しいところまではきてるんだが、あと一歩届かない感じだ。

 だけど引き直し続けてわかったことがいくつかある。一つ目はレア度の最高は星5――少なくともこの引き直しガチャでは――であること。

 二つ目は星3以下のモンスターはモブ、星4以上はユニークであること。これは星4以上に二つ名付きのウルフがいたりしたことから予想できた。

 三つ目は、おそらくだがダンジョン構成要素は必ず排出されること、だ。これも今までそうじゃなかったことがないから、多分間違いないだろう。

 ……それらも踏まえた上で、この引き直しガチャにもタイムリミットが迫ってきた。

 いや、チャラ神が早く終わらせろとか言ってきたわけじゃないよ? ただまあ、俺の尊厳的に早く終わらせなきゃと思ったわけなんだ。


 さて、話は変わるがここで一つ、普段の俺の日常を紹介しよう。

 朝起きたら飯食って歯を磨き身だしなみを整える。そこから自転車→満員電車→徒歩の形で出勤だ。ここら辺はみんな似たような形じゃないかな?

 会社には始業の大体1時間前につくんだが、ついたら何をすると思う? 早出? ノンノン、違うんだ。いやまあ確かに仕事するために早く会社に出てきてるんだが、一番最初にやることはそうじゃない。わかるだろ? ……そう、トイレだ。

 掃除する人には悪いが、ご飯食べて1時間後かつ軽く動いた後って言うのが、俺にとってのベストタイミングでね。会社に着くと大をもよおしてしまうのさ。

 そして今、飯を食べてから2時間くらいたっているわけだ。つまりは……、わかるだろ?


 割と! もう! 限界なんですよ!

 今は、ケツから空気を出して何とか奴の居場所を確保してる段階なんですよ。つまりタイムリミットは近いです!!

 ケツをノックしてる奴が、空気なのか固形物なのか。それを判断するために全神経を集中させなきゃならないんだ。ここで判断を誤ると、俺の尊厳が破壊される。

 やばい、あまりにも集中しすぎて脂汗が流れてきた……。


 集中しすぎて震える指先でタブレットをタップする。ガチャの引き直しだ。

 何回か見たから知ってるんだ、俺。このガチャからトイレが排出されるって事を……。

 高レアキャラ? 可愛い女の子? 今必要なものはそれじゃない! 今必要なのは俺の尊厳を守るためのトイレだ!

 俺は思いをこめてガチャ画面をタップした。


 一発目から銀色の星が回り始める。星4演出だ。だけど違うんだ、俺の求めてるのはこれじゃない。タップ連打で飛ばそうとする。


 ☆☆☆☆  トイレ付き介護用大型ユニットバス


 ――連打をしていた指が止る。

 きた! きましたわー。予想とは違うがこれで勝てる。

 ガチャの残り? そんなもんスキップだ、スキップ!

 タブレットも空気を読んで選択肢を示してくれている。


『残りのガチャ排出をスキップしますか?

 “はい”    “いいえ”

 なお“はい”を選んだ場合、このガチャは確定され、引き直しはできなくなります』


 もちろん“はい”に決まってる。


『チュートリアルに移行します。チュートリアルを行いますか?

  “はい”    “いいえ”

 なお“いいえ”を選んだ際も、後でチュートリアルを実行できます』


 ちゅぅとりあるぅぅ? そんなもん“いいえ”に決まってるだろ!

 もう限界なんだよ。トイレって文字を見たとたん、一気に波が来たんだよ。俺の下半身の門番が「よし、通れ!」って言いそうなんだよ。

 わかるだろ? わかってくれよ!


『マイルームに〔トイレ付き介護用大型ユニットバス〕を設置しますか?

  “はい”    “いいえ”

 なお設置するとこの空間からマイルームへと転移し、二度と戻れません』


 ディ・モールト、素晴らしい。さすタブ! 俺の気持ちをくみ取ってくれた。もちろんイエスだ。

 タップをした瞬間、真っ白だった空間がゆがみ始め、気づくと便座の前に立っていた。

 即座にジャージを下ろしつつ便座にシットダウン。なんとか、本当にぎりぎりだったが何とか間に合った。



 ~~now recording~~しばらくお待ちください~~



 ……ふぅ、第一波が過ぎ去りやっと人心地ついた。今は来るかもしれない第二波、第三波を警戒して便座に座っている。

 周りを見回す。……それにしても広い。トイレと風呂場の間はスライドで区切れるようになっているが、トイレだけでも相当な広さがある。

 おまけに浴室も相当広い。交通事故で入院した病院の浴室のぐらいの広さがある。脱衣所までついてるし、全部合わせると俺の住んでた部屋よりも広いんじゃないか?


 ふむ……。トイレの感想はとりあえず置いておいて、ガチャの確認でもするか。

 さてさて、どんな排出がされたのやら


 ☆     アルラウネ

 ☆     通路A

 ☆☆    部屋A

 ☆     トイレ

 ☆☆    ゴースト

 ☆     罠B

 ☆☆☆   ワンルーム

 ☆☆    罠C

 ☆☆☆   ドアイミテーター

 ☆☆☆☆  “機心”のイリスギア


 ……またトイレがきた。もういらないんだよ……。

 いや、今はそんなのよりも注目すべきものがある。むろんこの“機心”のイリスギアだ。

 見た目は透き通った水色のロングヘアの女性でクラシックなメイド服を着ている。何よりも注目すべきは耳! それが歯車を模したメカ耳になっている。胸元も心臓部分にはカチカチと歯車が回っていた。つまりこの子はメイドロボって訳だ。簡易解説にもガイノイドって書いてある。男の浪漫きたこれ。人生勝ち組確定じゃね。

 慎ましやかな胸なのは気になるが、それもまたよし。胸に貴賤はないのだよ。


 画面をくるくると回転させ彼女を眺める。あいにくと縦回転はできなかったが、そこは仕方ない。あきらめよう。


「……はぁ、早く呼び出しわー」


 思わずつぶやく。とたんタブレットに文字が輝いた。曰く――


 ――『“機心”のイリスギアの召喚を行います』と。


 トイレのタイルに描かれる幾何学模様の召喚陣。そこから現れるのは水色の髪のメイド――“機心”のイリスギア――。

 彼女は見事なカーテシーをきめている


「初めましてマイマスター。イリスギアと申します。お気軽にイリスとお呼びください」


 そう言い顔を上げる彼女が目を合わせるのは、トイレに座った俺……。

 彼女の目がスッと細められる。だが俺にも言い分がある。だから彼女が一言発する前にこちらから話しかける。


「今すぐそこの更衣室へ行ってもらえるかな。扉も閉めて、後耳も塞いでくれるとありがたい」


 ……うん。悪い事は重なるもので、俺の下半身の門が再度ノックされ始めたんだ。だから速やかに出て行ってくれるとありがたい。

 そんな俺を彼女は冷ややかな目で見つめ、


「……はっ」


 鼻で笑って出て行った。……うん、なんかその、ごめん。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

note

メイドロボ、そこには夢、希望、様々なものが詰め込まれている。

なお作者は、某hmxで13なメイドロボに性癖を破壊された模様。

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