俺のダンジョンはガチャでできている

夏冬春日

第一層

第1話 チャラ神的異世界転移

 気がつくと真っ白な空間にいた。

 いつも通り朝飯――ご飯にのり玉ふりかけは正義――を食べた所までは覚えてる。だけどその後の記憶が無い。

 つまりは……。そう、つまりはテンプレ展開きたんじゃないだろうか。


「よっしゃ!」


 思わず小さくガッツポーズをしてしまう。

 だってわかるだろ? これで達成できないノルマからも、無能な上司からも、理解のない現場からも、そして理不尽な顧客からも解放される。

 そして待つのはテンプレ的異世界チート。これが嬉しくないわけがない。

 まあ、田舎の家族には悪いかもしれんが、幸いなことに弟に子供が生まれたし家業も継ぐつもりだろう。もう後顧の憂いはない。

 おやじ、おふくろ。先立つ不孝をお許しください。これから息子はテンプレ的異世界チートハーレムを満喫してきます。



 ◆



「……遅い」


 もう四半時は過ぎただろうに何の変りもない。

 普通ならもう天使だか神様だかが現れて、チート選択させてくれてる頃合いじゃないのかね?

 なのに誰も来ない。まぁチート選択シミュレーションしてたから暇は潰せるんだけどなぁ。

 ただまぁいくらシミュレートしてみても前提がわからないから、それがあってるかどうかがわからない。

 最近はチートスキルに見せかけて実は地雷スキルってのもあるからな。強奪スキルとか洗脳スキルなんてその最たるものだ。

 となるとまずは、時間停止系アイテムボックスと異世界言語か。これが地雷って事は少ないだろう。

 後は転生だったら生まれと才能系の比重を多めに、転移だったらすぐに死なない程度の強さをまずは欲しいところかな。

 あ、最近はアニメとか見られる異世界ものも多いよな。そこら辺の能力も可能なら欲しいところ……。


「ごっめーん、まったー?」


 唐突に声がした。その声に振り向くと神? がいた。


「……チェンジで」

「ちょっ、うぇいうぇいうぇい」


 後ろで何か言ってる声が聞こえるが何も聞こえない。あれが神のわけがない。ひたいの前で二本指を立てるチャラい男が神のわけがないんだ。

 だってそうだろう? ここは、ほんわか女神かドジっ子天使の出番じゃないのか……。

 思わずガクリと膝をついてしまう。


「神は……、死んだ……」

「おいおいおいぃ、勝手に殺さないで? 俺、神的存在よ? キミを異世界チート転移さたげる存在。感謝してしかるべき、OK?」


 くそ! こいつ、わざわざ回り込んできやがった。しかもいちいち動きがウザい。

 だけど異世界チート転移という言質は取った。これはもうさっさとチートもらって行くしかない。


「……わかった。じゃあ神的存在さん、とりあえずそのチートってものの説明を。後、アイテムボックスとか異世界言語とかあるんですよね」

「おぅけーーい。話が早くて助かるぅ。だ、け、れ、ど、も、アイテムボックスぅ? 異世界言語ぉ? そんなものなんてない、ない、ない」


 ちっちっちと目の前で人差し指を揺らす神的存在。ウザいな……。


「だいたい異世界言語って何よ。異世界にだって言葉ぐらいたくさんあるっつーの。ちな、それ全部覚えるとかも無理な。ポイント全然たりえんてぃ」


 ぐっ、確かに。異世界だからって共通語があるとは限らないのか。現代でも英語を話せるのは3割にも満たないって話だし。

 いや、だとしても詫びチートの定番、アイテムボックスは欲しいところ何だが……。


「いやいやいや、俺っち何も失敗してないしぃ。詫びることなんて何にもナッシング!」


 こいつ、しれっと心を読みやがった。チャラ神様の癖に生意気な。でもじゃあ何か? 間違って死んでここに来たってわけじゃないのか?


「おっ、チャラ神様とかナイスネイミング! 俺今度からそれでいくわ。あ、ちなみにキミの本体死んでないよ。今頃元気に社畜ってんじゃね?」


 そう言ってチャラ神は空間を四角く区切る。そこには満員電車に揺られる俺の姿があった。

 OK、わかった。ようはここにいる俺はコピー品みたいなものか。まぁいまさら満員電車に揺られたくもないし、本体のことはどうでもいいか。


「相変わらず話がはっやーーい。そうそうそうぅ、本体との差はほとんど無ーい。あるとすれば寿命くらい? あーー、たぶん10年くらいだったかな、寿命」

「ちょっと待てや! そこ1番大事なところだろ!」


 思わずため口で叫んでしまった。


「あーー、人生太く短くじゃね? それにレギュレーション? 的なもので決まってるから仕方なかりけり。しかも寿命制限無かったら、キミ負け確でやばたにえんよ」


 んん? レギュレーションとか言う言葉が出てきたぞ。しかも対戦要素でもあるのか? ……落ち着け俺、ちょっと深呼吸をしよう。


「すーーーはーーー。……よし、落ち着いた。すまんがチャラ神様、そのレギュレーションも含めて舞台背景みたいなのを教えてくれませんかね」

「えーー、それって面倒くさくね? ……とりあえずこれ読んで理解して」


 一気にテンションが下がったチャラ神が、一枚の用紙を渡してきた。えーなになに……。


『これは文明同士が接触した際の優先権を競う代理戦争である。代理者の生存年数、もしくはいずれかの文明が惑星系を離脱した時点をリミットとしたポ――』


「――ちょっ、ウェイウェイウェーーーイッ」


 読んでいた用紙がチャラ神にひったくられた。


「ちょ、まだ読んでる途中なんですが」

「おーけー、キミは何も見ていない、いいね?」

「いやでも、結構気になることが書いて――」

「これ以上深く突っ込むと規約違反でキミは消去される。わかるね?」


 さっきまでとは違い真面目な様子のチャラ神様に気圧され、こくりと頷く。


「おっけぇーーい。じゃ、あらためてこれな」


 再度渡された用紙を手に取る。今度はやたらと黒塗りで文章が消されているが、ある意味そのおかげで安心して読める。


『代理者を転移させる世界は、上位神の用意した魔学や理学等が混在する世界。文明レベルは概ね3~4相当であり――』


「――文明レベル3~4つーとあれな。キミらの国で言う戦国時代的な?」


『代理者作成ポイントは一律1000。スキルやロール、素体の基礎能力も含めてこのポイント内で作成――』


「――あ、そうそうキミのポイントはスキルと選んだロールに全振りな。つまりキミの素体ポイントはゼーロー。ゼロなのに選ばれるとかマジ最&高よ」


 ふざけんな、なにがゼーローだ。深夜のニュース番組か! だいたい自分の価値ゼロとか言われて喜ぶ奴がいるわけ無いだろ!

 いやでも、それならスキルがくっそ強いって事になるから無双チートも可能なのか?


「ないない、そんなのありえんてぃよ。なぜならキミの能力の上昇値もゼロだから。ポイント捻出のためには仕方ない処理ってやつ?」


 マジかよ……。神は死んだ……。


「勝手に殺さないで? チャラ神様は永遠よ。あとキミのロールはダンジョンマスター。強さ関係なくね? それに好きっしょこう言うの。バイブス上がりまくりじゃね?」


 ダンジョンマスターか……。いや確かに好きだけどさ……。後はまあもらえるスキル次第かな。


「おーけー。それならこいつをプレゼントフォーユー」


 目の前に現れるのはタブレット。そこに輝くのは『無料11連ガチャ』の文字。


「ガチャかよ!! しかも『タップしてね』、じゃねーよ!!」


 ボタンマークがアニメーションしながら主張してくる。チャラ神と一緒でウザすぎる。


「あっれーー? チャラ神的リサーチによれば、下界ではガチャが流行りまくりふぉーえばーなっしんぐとぅないとじゃね?」


 なにがフォーエバーだよ。わけわからんわ。そもそも俺、ガチャ運無いんだよ。ざらに天井まで引くしな。なんなら就職ガチャも嫁ガチャも失敗したわ。


「はっはーー。さすがのポイントゼロ、控えめにいっていとをかし」


 うぜぇ。なれなれしく肩たたくんじゃねぇよ。


「まぁそんなキミのために初回は引き直しガチャにしてあるしぃ。☆4キャラ一体以上確定だしぃ。どう? 完璧じゃね? ちなチュートはそのキャラが担当な。後、君以外の参加者な、基本みんな同じ文明レベル出身だから、内政チートやりたけりゃ早めにねぇ。ま、ダンジョンマスターだから無理だと思うけどなー。それじゃあ後は適当によろたん」


 そう言い残すとチャラ神は消えていった。

 ちょ、待てよ。まだいろいろ聞きたいことがあるっつーの。よろたんじゃねーよ……。


 ………………ガチャ、引くか。ボーッとしてても仕方ないしな。


 というわけでピカピカと主張の激しいボタンをタップする。ボタンが星マークになって輝きながらくるくると回り始め……、画面が暗くなると今度は読み込みマークが回り始めた。


「ふざけんな! 何で読み込みが入るんだよ。神製のタブレットじゃねーのかよ」


 いや待て落ち着け。高レア排出の際に読み込みが入るって話もある。そうだ、いい方向に考えるんだ。


『初回排出時にはダウンロードのため時間がかかる場合があります……。お待ちください』


 タブレットの画面にそんな文字が現れていた。これ、チャラ神の仕業だろ。かんっぜんにこっちをおちょくっていやがる。ダウンロードって何だよ。どこと通信してるんだっつーの。


 若干のイライラとともに画面を見つめていると、ダウンロードが終わったのか星が銀に輝いてくるくる回り、それがはじけるとともにガチャの排出が始まった。



 ☆☆☆☆  “赤光”のベナンディ


 画面に現れたのは銀色の鎧を身にまとった長い金髪の女性。真一文字に結ばれた口元とその瞳には強い意志がこめられている。The女騎士といった出で立ちだ。

 ブラボー、素晴らしい。

 ……いやちょっと待て、よく見ると耳がとがっている。これはもしかして世に言うエルフの女騎士なのか? くっころ騎士とか控えめに言って最高では?

 いーやまてまて。まだガチャは終わってない。ここは落ち着いて次をタップだ。


 ピン、ピン、ピピピピピピピン


「ちょっまっ」


『排出は以下の通りです。なお☆3以下のレアリティには演出はありません』


 おい、一発目で人を喜ばせて置いて、結局は最低保障かよ。いやでも、エルフのくっころ騎士は捨てがたいし、低レアでも使える奴はあるはず。排出次第だな。



 ☆     ヒノキの棒

 ☆     通路B

 ☆☆☆   鋼鉄の剣

 ☆     ゴブリン

 ☆     小部屋B

 ☆     トイレ

 ☆☆☆   罠D

 ☆☆☆   ダイアウルフ

 ☆     布の服

 ☆☆    部屋A


「っざっけんな!」


 思わずタブレットを床にたたきつけてしまった。

 もうなんか突っ込みどころ満載だが、何より小部屋とか通路とかがガチャから出てきたのが意味わからん。なんでダンジョンの中身までガチャ排出なんだよ。運悪かったらろくなダンジョン作れねーぞ。しかもAとかBとか形もわかんねーし、マジふざけんな


「おい、チャラ神! やり直しを要求する。もっとましなスキルをくれ。おんなじガチャにしても、もう少しましな形があるだろ」


 …………。

 天に向かって声を上げるが反応はない。

 ちくしょう、どうせそんなところだろうと思ったよ。下手したらこっちの様子見て笑ってるかもしれん。だとしたら許すまじ。


 ……ふと足下を見るとタブレットが、『やり直しっすね』とばかりにタップボタンを点滅させていた。


「マジふざけんな」

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